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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年11月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

「大丈夫だよ」を伝える
すぎなみ重度心身障害児親子の会みかんぐみ

村一浩

地域に医療的ケアが必要な子どもが増えている

近年、在宅医療の進歩により、チューブで栄養を摂取したり痰の吸引が必要など、医療的ケアが必要な重い障害の子どもが自宅で生活しています。

杉並区立こども発達センターは、医療機能を持たない地域の児童発達支援センターです。就学前の子どもが一人で通う「たんぽぽ園」では、2015年には11人の医療的ケア児が在籍するまでになりました。

区では急ぎ、重症児を対象とした児童発達支援事業所「わかば」を設置し、NPO法人フローレンスが運営する障害児保育園「ヘレン」と合わせ、区内3か所で医療的ケアの子どもたちの支援を行なっています。

たんぽぽ園に通う保護者たちが立ち上げた「みかんぐみ」。会のメンバーに活動を紹介してもらいました。

みかんぐみ発足と目的

障害のある子どもを持つ親たちが、わが子のみならず、同じような状況にいるすべての人々、何より障害をもつ子ども本人のイキイキとした社会生活をサポートしたいという思いで、2014年4月に発足しました。

たんぽぽ園で同じグループになった8組の親子で立ち上げ、その当時のグループ名「みかんグループ」から名付けました。

重症心身障害児と呼ばれる一人ひとりが、「自分の意思」に基づき、地域の中で生きていくことができる場所や関係性を創(つく)っていくことを目的に、さまざまなイベントや啓発活動を行なっています。現在の会員数は26組です。

これまでの活動

■各種親子イベント

成長期の子どもたちに、さまざまな体験、他者との関わりを通して「自己の形成」をという思い、ならびに純粋に楽しいことをたくさん経験してほしいという考えから各種の親子イベントを実施しています。

音楽コンサート、ハロウィンパーティー、リトミック、タッチケアなど、団体の活動をご支援いただいているスペシャリストの方々にお越しいただき実施しています。【写真1】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

また、2016年9月には江ノ島に初の宿泊旅行にもチャレンジ。普段、医療的ケアのことや感染症のことなど、不安を多く抱え、なかなか旅行から遠のいていた会員もいる中で、医師、看護師、ボランティアにも同行いただき安全安心な中で楽しむことができました。【写真2】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

■情報発信、啓発活動

自分たちが経験したからこそ、在宅生活での不安、疑問に当事者目線で応えるための「おうち暮らし安心BOOK」を2015年3月に刊行。

SNSなどをもとに全国の当事者の皆さま、医療関係者の方々にお読みいただき、反響をいただきました。

重症心身障害児と呼ばれるわが子のことを多くの皆さまに知っていただくことで、社会問題化している子どもたちの自立、親の自立に向けて引き続き情報を発信しています。

■勉強会

会員の知識を広げ、不安を取り除くために各種勉強会(リハビリ、口腔ケアなど)や自分の思いをざっくばらんに話せる会を実施しています。

現状の課題と今後の展望

課題として、会員が当事者だからこその時間的制約(子どもの急な入院、体調不良など)があり、会の活動拡大、浸透力に制限がでてしまっていることがあげられます。活動の可視化を行い、多くの会員が活動に関われるようにすることで、負担が偏らないようにすることを目下行なっていますが、来年度以降、さらに幅を広げた活動ができる組織体制にしたいと考えています。

来年は立ち上げメンバーの多くが就学を迎えます。子どもたちもますます多感な時期を迎えますので、地域コミュニティの中で、さらに多くの人と関わりを持てるような機会づくりに取り組んでいきます。

また医療的ケアがあると、保護者による学校までの送迎、授業への一定期間の付き添いなど「医療・福祉・教育」の連携は、社会的に解決できていない問題が山積です。それらの課題を多くの皆さまと議論し、解決への糸口を図っていければと思っています。

重度障害児が地域で暮らすために

幼児期は、家族も子どもと自分のことで精一杯で、横につながって一緒に考え活動する組織を作ることが難しい面があります。当センターでも、OBの会はあっても現役中心の会はなかなか生まれずにいました。医療的ケアが必要な重度障害児のお母さんたちが、このような自主グループを創り出したことは大きな意味があると言えます。

医療的ケアの子どもが暮らすための地域の支援策は、まだ十分ではないのが現状です。加えて都道府県で設置する療育センターと違い、医療機関ではない地域の発達支援事業所が医療的ケアを行うことは、サービスを提供する側の経験も乏しいのです。

保護者の方は、暮らしを成立させるための方法をまさに手探りで組み立てています。制度の谷間を繕うように、ネット上の情報や先輩の経験談、親同士の知恵と工夫を持ち寄り、その日その時を乗り越えています。

「おうち暮らし安心BOOK」のインパクト

みかんぐみのお母さんたちは、自分たちだけでなく、後輩ママ・パパのために、38ページの小冊子「おうち暮らし安心BOOK」をつくりました。

「はじめに」の文章はこう語っています。

誕生した我が子に病気があるとわかった時 ある日突然の事故に遭ってしまった時 ちょうど今のあなたのように、私達も途方に暮れていました 2年、3年と経った今、私達は一緒に頑張れる仲間を見つけ 我が子と毎日笑って過ごしています 出来るならその事をタイムマシーンに乗って あの日の途方に暮れている自分に伝えたいのです あなたは過去の私達です 未来から、大丈夫だよと伝えに来ました 大変な時期を少しでも楽に乗り越える事が出来ますように 有益な情報を見逃さないですみますように この手引きがお役に立てれば幸いです

命の危機は脱したものの、退院してからどんな生活が待っているのだろう。自分の人生はどうなってしまうのだろう。そんな日々の不安に押しつぶされそうな経験を持つお母さんだからこその温かい眼差しがあります。

そして、道の途上で出会ったさまざまな機関の多様な人たちが、チームで母子を支え、これからも地域の中で楽しく暮らしを作っていくぞという力強い意思が響きあう「いのちの賛歌」が聴こえます。

この冊子は重症児の暮らしに必要な情報が、福祉制度から日常の細かい工夫まで、イラスト入りで見やすく提供されています。私も職員の研修教材として使わせていただいているほどです。

保護者だけではなく、行政や医療関係者にも評判を呼んで2000部はあっという間に無くなり増刷。増刷を機に、細かく改訂しているところもさすがです。ホームページで全ページが読めるようになっていますので、ぜひご覧ください。【写真3】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

みかんぐみの成長に期待

子育ての忙しさの中で、運営には現代のママらしい工夫があります。ホームページや小冊子の作成は区の助成金、増刷資金はクラウドファウンディングにて調達し、日常的にはSNSなどネットを縦横に活用しています。

みかんぐみの集まりは、ママ・パパはじめサポーターも明るく楽しい雰囲気で、文化的な要素も存分に取り入れ楽しさにあふれた時間です。子どもの成長をともに喜び、悩みを共有することで解決方法を探っていこうというスタンスが素敵です。

小冊子は、医療や学齢期の情報なども加えてパワーアップし、出版する準備を進めています。(仮題: 病気をもつ子どもと家族のための「おうちで暮らす」ガイドブックQ&A)【写真4】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真4はウェブには掲載しておりません。

(むらかずひろ 杉並区立こども発達センター)


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