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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

沖縄発「ユニバーサル旅行サービス」
~沖縄バリアフリーツアーセンターの活動~

親川修

1 はじめに

沖縄にはバリアフリー観光のワンストップ窓口があります。那覇空港と国際通りの2か所に窓口があり、年間の問い合わせ件数は約15,000件、相談件数は約3,300件に上ります。障がい者や高齢者、乳幼児連れの方など、一般的に旅行が困難だとされてきた方々を主な対象としたワンストップ窓口です。

開設から9年の間に、実にさまざまな相談を受けることになりました。そうした相談に応えるために、いろいろな事業を行いました。結果からみれば、「チャンプルー」な事業を行なっているように見えるかもしれません。しかしそれらの事業を一つずつ紐解けば、それらは寄せられた相談一つ一つにたどりつくものです。そして、そうした事業は、その相談にのったスタッフ一人ひとり、事業に協力してくださった行政や関連機関の人々の絆を大事にする「ゆいまーる」の心から生まれたものです。

2 取り組みを始めた経緯―情報の整理・整頓、正しい発信

障がい児童を支援する事業を行いながら、障がい者の旅のサポートやバリアフリー調査を行うなかで、平成17年に、バリアフリー観光冊子「そらくる沖縄」の前身となる「チェアウォーカー」を発刊し、当事者や家族に対して沖縄の観光情報発信事業を行いました。

平成19年2月、沖縄県知事仲井眞弘多氏により日本初の「観光バリアフリー宣言」が行われ、沖縄県では観光のバリアフリー化に本格的に取り組んでいくことになります。同年11月19日には、沖縄県空の玄関である那覇空港に「しょうがい者・こうれい者観光案内所」(バリアフリーツアーセンター)が開設されました。現在、日本初かつ唯一の空港にある同種の施設として機能しています。バリアフリー観光の相談窓口としてだけでなく、旅行地まで持ち運びが難しい車いすやベビーカーのレンタルも行なっています。空港で借りて空港で返すという利便性は、多くの利用者に支持されています。また、レンタルは有償ですが、運営継続のための貴重な収入源となっています。

3 具体的な取り組み:4つの機能

1.相談・サポート機能

相談は多岐にわたり、個々のお客様の状態、状況を把握することに時間を要するため、通常の相談窓口とは大きく異なります。相談以外にも、旅行の際、介助等が必要な場合は、サポーターの紹介や、鉄軌道のない沖縄の移動手段についてもお客様のご旅行に合わせた提案をさせていただいており、このことからも専用窓口が必要となる点です。

2.情報発信機能

バリアフリー情報を収集し、うまくまとめて発信するということは、ツアーセンターにとって最も重要な部分です。現在、主に二つの媒体で発信しています。一つが紙媒体で、バリアフリー観光冊子「そらくる沖縄」です。年刊で県内外に無料で配布しています。現在10冊目となる記念号を発行しています。この冊子は、趣旨にご賛同いただいている企業等の皆様からの広告費で賄われています。もう一つがWEBサイト上で、沖縄県のバリアフリー情報を検索することができる沖縄県バリアフリーマップです。現在、総登録数約1,800件、毎月約10,000件以上のアクセスがあります。

3.普及啓発機能

ツアーセンターでは、沖縄県内の観光・公共交通従事者に対して、バリアフリー観光のスキルアップセミナーを毎年実施しています。障がい種別の理解だけでなく、実際の対応の仕方まで含んでいます。また、バリアフリー化のアドバイス等も行なっています。

4.観光地の連携機能

加えて、広く全国各地にあるサポート団体と連携を図り、シンポジウムや大会等の開催を定期的に行うことで互いに取り組み事例を共有しています。沖縄県内だけでなく、全国各地で講演会等を実施し、バリアフリー観光の普及・啓発に努めています。

4 多彩な活動の広がり

ツアーセンターの取り組みは、1人の利用者に対して、1人の相談者が支援を行うという一枚岩的な取り組みではありません。地域のバリアフリー情報の収集・集約・発信、地域の観光バリアフリー対応力の充実、バリアフリー観光の普及・啓発、県外団体との共有と幾重にも折り重なる取り組みです。このようなコアを土台に、ツアーセンターは多彩な活動の広がりを持っています。

1.そらぽーと号

鉄軌道のない沖縄県では、平成22年当時、ノンステップバスはわずか9台しか運行していませんでした。そこで、ノンステップバス「そらぽーと号」の運営を始めました。現在、県内の障がい者団体等だけでなく、那覇空港から宿泊施設・イベント会場等への移動手段として広く利用されるようになりました。

2.外国人対応

近年、外国人観光客が急増するなかで、海外からの問い合わせも増えています。昨年度、観光庁の事業の一環で、「そらくる沖縄」の英語ダイジェスト版「Accessible Okinawa」を発行、ウェブサイト「Accessible Travel Okinawa」(英語)も開設しました。沖縄県にある外国語対応可能な病院一覧情報やバリアフリー施設を検索できます。

3.乳幼児バリアフリーマップ

乳幼児バリアフリーマップの作成を行なっています。那覇市の助成金を活用して、現在、那覇市内の主要な施設の設備の有無を示したマップを作成しています。このマップが乳幼児を連れての外出・旅行の後押しとなることを願っています。

5 今後の展開(災害時の対応)

平成25年に作成した「沖縄県スポーツ施設バリアフリー情報」は、県内の主要なスポーツ施設のバリアフリー情報を詳しく紹介しており、合宿やスポーツ大会実施の際に有益な情報です。2020年に開催する東京オリンピック・パラリンピックに向けて、現在県内の市町村に働きかけ、パラリンピック強化合宿誘致に向けて力を入れています。一流アスリートの合宿誘致は、そのアスリートの所属するチームの合宿、各個人の合宿、スポーツを楽しもうという人々のスポーツ旅行へと広がります。また、パラリンピアンの訪問は、地元の子どもたちに対して夢を与えるきっかけとなると思います。

バリアフリー観光の推進をするものにとっては、忘れてはならないことがあります。それは観光地の防災におけるバリアフリー化です。建物の入り口のバリアフリー化は進んでいますが、災害時など出口対応(避難誘導)のバリアフリー化はまだまだ進んでいません。今年度、沖縄市のホテルで障がい者や高齢者を対象とした実証実験(避難訓練)を行いました。

6 おわりに

観光バリアフリー化の取り組みは、一つ一つの相談に応じることで、旅行を妨げる障壁を洗い出し、さまざまな仕組みをつくることで、障壁を可能な限り取り除いた「楽しい」旅行を実現する手助けをすることです。そうした積み重ねの結果として、障がいをもっていても、高齢であっても、乳幼児連れであっても、外国の方であっても、受け入れることができる「やさしい観光地―沖縄」が実現できるのではないでしょうか。こうした取り組みを私たちは、沖縄発の「ユニバーサル旅行サービス」と呼んでいます。

(おやかわおさむ NPO法人バリアフリーネットワーク会議理事長)