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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

当事者からの提案

視覚障害の立場から

三宅隆

ユニバーサルデザインやバリアフリーへの機運は、2020東京オリンピック・パラリンピック開催をきっかけとして、ますます高まってきています。

また、本年8月15日、10月16日に相次いで起きた視覚障がい当事者の駅ホームからの転落死亡事故を受けて、国や鉄道事業者を中心に安全・安心して利用できる駅ホームについても取り組まれており、視覚障害当事者や関係団体をはじめ多くの人たちに注目されています。

このような中、当事者からの声を基に、当事者団体として取り組んできたことについてご紹介します。

まず、8月15日に東京メトロ銀座線「青山一丁目駅」で起きた盲導犬使用者の転落死亡事故を受けて日本盲人会連合では現地調査を行い、声明を発出しました。その中で、以下の13項目の提言を提起しています。

  • 事故原因の究明にあたっては、本人の責任に転嫁しないことを前提に、盲導犬の使用ならびに本人の歩行訓練の状況を含め事故原因を深く究明し、今後の施策に生かすこと
  • すべての駅ホームの危険箇所の実態を調査し、危険箇所(特に狭隘(きょうあい)で障害物の多い駅ホーム)の優先的な対策を実施し、駅ホームのみならず鉄道駅全体の安全が確保できる対策を行うこと
  • 計画対象駅ホームへの転落防止柵の設置を急ぎ、さらなる計画拡大を求めること
  • すべての駅ホームに内方線付き点状ブロックを敷設すること
  • 駅ホームへの警告用ブロックの敷設の在り方について改めて検討すること
  • 駅ホームからの転落事故に備え、ホーム下等に転落者の退避空間を設けること
  • すべての駅に安全監視員を配置すること
  • 法令によって駅ホームの安全対策を義務付けること
  • 駅ホームでの歩きスマホを禁止すること
  • 危険に遭遇しようとしている視覚障害者に対する適切な声かけ・援助の仕方について研究し啓発を促進すること
  • 視覚障害者の安全な移動について国民全体の理解を高めること
  • 歩行訓練士など視覚障害者の安全な移動を支援する専門家を育成し、視覚障害者自ら歩行能力を高められる施策を早期に実施すること
  • 盲導犬育成・貸与を担う訓練機関等と連携し盲導犬の育成と使用者の訓練におけるホーム上の誘導内容、転落防止のための訓練等について改めて検証すること

これらの提言の多くは、視覚障害当事者だけでなく、多くの人たちが安全・安心して駅ホームを利用できるためにも必要なことです。

また、ハード面の整備に加え、視覚障害当事者への適切な声かけや誘導方法などのソフト面についても広く周知する必要があります。

さらに、10月16日に起きた近鉄線「河内国分駅」での転落死亡事故からは、これまで以上に弱視(ロービジョン)者への安全問題についても取り組んでおり、ホームドアや階段・ホームの端について輝度コントラストを考慮しながら視認性を向上する、案内表示について文字の大きさ・フォント・コントラストを考慮しながら、吊り下げ式に加え壁や床への視認性の高い表示をすることなどという要望をしています。これらの対応は、弱視(ロービジョン)者だけでなく、高齢者など見ることに困難を感じている人たちにも有効なものです。

次に、これまでハイブリッド車や電気自動車などの接近音が聞こえず危険な思いをした視覚障害当事者から多くの声が寄せられ、要望を出し続けてきました。

また、昨年10月3日に徳島県で起きた盲導犬使用の視覚障害当事者が、音を消してバックしてきたトラックにはねられ死亡した事故を受け声明を発出し、以下5項目の提言を提起しました。

  • すべての自動車に「車両接近通報装置」の搭載を行うこと
  • すべての車両が後ろに進む時や左折する時など音で知らせる安全対策を講ずること
  • 搭載されている「車両接近通報装置」のスイッチが意図的に切れないような構造にすること
  • 法令によって「静音対策」を明確にし、国民の安全を確保すること
  • 安全な走行を高めるため、車両が音を出すことに対して国民全体の理解を深めること

国土交通省は、本年10月、ハイブリッド車などの存在を人工音で知らせる「車両接近通報装置」の搭載を、自動車メーカーに義務づけることを決めました。これにより、2018年3月8日以降の新型車ならびに2020年10月8日以降の継続生産車については、車両接近装置を必ず搭載し、しかも手動で介助できなくなることから、視覚障害当事者をはじめ高齢者など多くの人たちが安心して街を歩くことができるようになります。

今後、日本盲人会連合では、医療機関など現行点字ブロック敷設が困難な場所に敷設できる新たな点字ブロックを、当事者、学識経験者、メーカーなどとともに開発し、推奨していきます。

この他にも、建物、まちづくり、移動、情報入手などに関することについて、当事者の意見を基に、各関係機関に働きかけています。提起した提言は、視覚障害当事者だけでなく、多くの人たちの共通の困難さを解消できるものも含まれています。今後も、ユニバーサルデザインの実現に取り組んでいきます。

(みやけたかし 日本盲人会連合情報部長)