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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2016年12月号

3.11復興に向かって私たちは、今

災害から「共に生き延びる」とは

長谷川秀雄

2つの3.11

福島県民にとって、3.11とは、東日本大震災のことであり、福島第一原発の事故のことであり、この2つが絡み合って起きた恐怖の日々を意味します。

私の住んでいる福島県いわき市では、2つの事態が現在進行中です。地震・津波の被災者向けの災害公営住宅が完成し、入居がほぼ完了しました。津波被災地の高台移転の大規模土木工事が進み、たくさんの県外ナンバーのダンプカーが走り回っています(写真1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

一方、福島第一原発の事故により、双葉郡から約23,000人の方々が、いわき市に避難中です。この方々の身の振り方が、問題になっています。

国は2017年3月で、大半の町村の避難指示を解除する方向です。それから1年ほどで東電の賠償も終了すると思われます。避難先に住み続けるのか、帰還するのかという二者選択が、避難者に迫られています。

また、自主避難者への「みなし仮設」の家賃補助も、来年3月で終了(低所得者には減額の上、1~2年の延長も可)となっており、この方々にとっても悩ましい選択が迫られています。

3.11から6年目の来年3月が、大きな転換点となっています。「なぜ こんなにせかされるのか」という疑問の声が避難者から発せられています。

原発の再稼働を急ぎたい、2020年東京オリンピックまでに原発事故は収束したとしたい、という国や、賠償をできるだけ圧縮したいという東電の無言の圧力を感じざるを得ません。

原発事故は自然災害ではありません。深刻な環境汚染が起きた、と捉える視点が大事かと思います。それを自然災害と同じ発想で「復興」=いち早く元に戻す、と考えることに、現実との大きな乖離(かいり)が生まれてくる原因があるのではないでしょうか?

同じような深刻な環境汚染があった水俣市ではどうであったか。最初の水俣病の患者が認定された直後に「水俣市の復興」というスローガンが出てきたでしょうか? 求められたのは、原因究明、被害拡大の防止、被害者の治療・救援、賠償の早期実現などだったと思います。

福島第一原発の事故においても、必要な取り組みは同じだと思います。

避難所のバリアをどうする

熊本地震でも、障がいをもつ方々の一次避難所での生活が困難を極めたことや、仮設住宅で障がい者用とされたものが使いづらかった、との報道がありました。災害のたびにこの問題がクローズアップされるのですが、一向に改善されません。

私たちの法人では、一昨年より「一次避難所のバリアを、どうやって軽減するか」という取り組みを行なってきました。

全国的に二次避難所である「福祉避難所」の行政による指定が広がっていますが、大規模災害時に、福祉避難所がそれほど多くの方を受け入れられるわけでもないことと、福祉避難所までどうやって移動するのかという問題があります。

私たちは、障がいをもつ方々も、一次避難所で1週間ぐらいは生活するものとして、そこでのバリアをどう改善するかを考えました。地域の学校や公民館がユニバーサルデザイン仕様のものに早く変わっていってほしいと思うのですが、時間とお金がかかるので、その歩みはスローなものになることは自明の理です。

写真2は、いわき市内の中学校の体育館をお借りして実施した「みんなでつくる避難所訓練」の模様です。トイレは、組み立て式の車いす利用者向けの簡易トイレ(約20万円)を体育館の更衣室に設置。床に寝転ぶと立ち上がりが大変な方向けに、段ボールベッド(2万円)を購入し、使ってもらいました。仮に、簡易トイレ1基と段ボールベッド10基で合わせて40万円程度で、バリアだらけの体育館も大幅に改善されます。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

足りないところは、人の手です。そのためには、日ごろから避難所設営訓練を行い、避難所ボランティアを育成していくことが肝心と思いました。

そして、受付での障がいをもつ方の聞き取りも、大きなテーマでした。参加した行政職員の用意してきた聞き取り表は、通常のフェイスシートと同じようなものであり、1人の聞き取りに相当長時間かかるものでした。災害時に避難所の受付は長蛇の列です。そんなところで緻密な聞き取りをすることは、現実的ではありません。私は「この環境でどんな支援が必要ですか」というニーズの把握で、当面はいいのではないかと考えました。

避難者の中には、医療・福祉の専門職の方も含まれていると思います。それらの人々をケアチームの中心として組織化することも大事だと感じました。

私たちは、「被災地だからできること」として、教訓を発信するとともに、「みんなでつくる避難所訓練」の普及に努めていきたいと思います。

(はせがわひでお 特定非営利活動法人いわき自立生活センター理事長)