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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

新春メッセージ

EDFから日本の関係者のみなさんへ
~欧州の障害関連動向とEDFの活動~

欧州障害フォーラム(EDF)会長 ヤニス・ヴァルダカスタニス

近年、欧州の障害者運動は多くの功績を挙げてきましたが、平等、アクセシビリティ、無差別、積極的な参加とインクルージョンに関しては、達成すべきことが多数残されています。

2017年の幕開けに際し、欧州は今なおさまざまな危機に懸命に取り組んでいます。経済危機により、障害者は緊縮政策の大打撃を過剰に被り、自立生活を可能にしていたサービスの削減に直面しています。多くの障害者が基本的人権を剥奪され、社会から排除されて、施設で生活しています。難民危機は、障害のある移民と難民のニーズが無視されている現実への懸念を引き起こしており、EDFは欧州連合(EU)に対し、難民と移民の人権を尊重し、なかでも特に障害のある人に関心を寄せるよう繰り返し求めてきました。さらにEUは、イギリスの離脱とテロリストの脅威にも直面していますが、人権を尊重し、誰一人取り残すことなく対処しなければなりません。

権利条約の採択から10年

国連障害者権利条約の採択から今年で10年です。

本稿執筆時点でEUは、加盟28か国のうちアイルランドを除く27か国とともに権利条約を批准しています。EUのような地域機関が国際人権条約の締約国となるのは史上初めてのことです。すべてのEU加盟準備国と、アイスランド、ノルウェー、スイス、アンドラ及びサンマリノも権利条約を批准しています。

権利条約の締約国となることで、EUは障害のある市民に対して重要な責任を負い、障害に基づく差別や不平等との闘いに加えて、インクルージョンと参加の促進も約束しました。

締約国として国連に報告

2015年、EUは国連人権条約機関による審査を初めて受け、権利条約締約国として、障害のある市民の権利の促進と保護の進捗状況を国連に報告しました。EDFも加盟団体とともにEUの審査に参加し、国連障害者権利委員会に「代替報告(パラレルレポート)」を提出し、欧州の障害者の状況を当事者の視点から示し、EUがさらなる行動をとるべき重要な分野を明らかにしました。

審査を踏まえて、国連はEUへの重要な勧告を発表し、障害者の権利を最重要課題とする明確な義務を課しました。この勧告は、条約実施に向けた今後数年間のEUの行動について、一連の優先事項を明示しています。

EUへの権利条約の影響

権利条約はEU法に良い好影響を与えました。アクセシビリティを改善する法令により、多くの進展が見られました。欧州構造投資基金は、今では権利条約の実施に明確に言及しており、EU加盟国にもアクセシビリティと無差別の促進にEUの資金を確実に投資させています。しかし、法律及び政策と現場において達成すべきことが多数残されています。

アクセシビリティは、自立生活と社会的包摂の必須条件です。障害者が欧州域内市場で商品やサービスを平等に利用できるようにしなければなりません。この3年あまり、EDFはEU内での人、物及びサービスの移動の自由と、これに関連した強力かつ大胆なEU法の採択に向けてキャンペーン活動を進めてきました。2015年には欧州委員会がついに、EUの多数の製品とサービスを障害者に利用しやすくする欧州アクセシビリティ法の法案を発表しました。

EDFはこの法案の採択に加えて、その範囲の拡大に向けて、キャンペーン活動を行なっています。現在のアクセシビリティ法案では、スマートフォン、タブレット、コンピューター、発券機、ATMなど特定の製品とサービスのみを利用しやすくすればよいとしています。EDFは、利用しやすい商品やサービスに関連する建物など、障害者の日常生活にとって重要なさらに多くの分野を、アクセシビリティ法に含めるべきだと考えています。

2016年にEUは「公共機関のウェブサイトとモバイルアプリケーションのアクセシビリティに関する指令」を採択しました。この指令では、電子文書とマルチメディアを含む欧州公共機関のすべてのウェブサイトとモバイルアプリケーションを、障害者を含むさまざまなユーザーに利用しやすいものにしなければならないとしています。これは、障害者とその他のユーザーが、権利条約に明記されているように対等の立場でオンラインサービスや情報へのアクセスを持つ、インクルーシブなデジタル社会の実現に不可欠な画期的な指令です。

障害者運動と権利条約

権利条約が、この10年間欧州の障害者運動に、障害者の権利擁護のための強力な法的枠組をもたらしてきたことは間違いありません。権利条約の実施は非常に重要で、それは障害者の権利をEUの政策分野すべてにおいて主流化し、障害者団体の積極的な参加を確保する総合的な障害アジェンダを通じて実現できるのです。

しかし、権利条約は障害者の権利を保護する唯一の人権法ではありません。EDFは、女子差別撤廃条約、子どもの権利条約、女性に対する暴力及び家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約、マラケシュ条約など、関連人権法の実施と監視を確実に行うことにも熱心に取り組んでいます。

ここ数年の試練の時期を通じて、欧州の障害者運動は常に勢いを保ち続け、私たちは声を一つにして権利について語ってきました。「私たち抜きに私たちのことを決めないで」は、単なるモットーではなく、私たちの「生き方そのもの」なのです。

○欧州障害フォーラム(EDF)ホームページ
www.edf-feph.org/