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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

障害者権利条約とパラレルレポート

阿部一彦

障害者権利条約国内発効後の取り組み

安易な条約締結を避け、締結のための体制整備として集中的な法制度の改革を経て、わが国では2014年2月に障害者権利条約(以下、権利条約)が国内発効されている。そして、2年後の2016年6月には、国連・障害者権利委員会に第1回政府報告を提出した。他の人権条約と異なり、障害者権利条約では監視機関による監視が求められている。

そこで、わが国では障害者政策委員会において、第3次障害者基本計画(平成25~29年度)の中間年報告を行い、それをもとに権利条約の政府報告に関与した。現状のルールの中で障害者政策委員会が計13回の討議を重ね、第1回政府報告が作成されたことは評価できる。ただし、現状のルールの中で、と記したのは、障害者基本計画の実施状況の監視は障害者基本法(第32条)に障害者政策委員会の役割として位置付けられているが、権利条約の監視は言及されていないからである。そのため、障害者基本計画に記されていない、たとえば高齢障害者の問題、介護保険サービスなどについての記述はない。在宅の身体障害児・者の68.7%(平成23年調査)が65歳以上であるが、65歳以上では介護保険サービスが優先されるため、政府報告には高齢障害者への支援状況が記されていないのである。パラレルレポートではその旨を明記し、高齢障害者の問題について整理すべきである。また、障害者基本法の改正を行い、障害者政策委員会の役割として、権利条約の実施状況の監視を明記する必要がある。

第1回政府報告提出後の流れ

第1回政府報告提出後の流れを整理する。審査待ちの締約国が数多いこともあり、日本の審査に至るまでには数年を要すると考えられる。正式審査前には、障害者権利委員会から事前質問事項が届き、政府はそれに回答しなければならない。その後、障害者権利委員会と日本政府との対面審査(建設的対話)が行われ、質疑応答等を経て、最終的には提案や勧告を含めた総括所見(最終見解)が示されることになる。

障害者権利委員会から届く事前質問事項への回答や審査に基づく勧告等は、日本の障害者施策の課題を浮き彫りにし、それらの課題を解決することによって、今後の改善や向上につながると期待される。

パラレルレポートの作成に向けて

市民社会組織(CSO)は、パラレルレポートを作成し、障害者権利委員会に提出することができる。ぜひ、多くの障害者団体の連携のもとにパラレルレポートを提出する必要がある。

パラレルレポートは政府報告の問題点を究明するものではない。政府報告では十分に伝えられなかったことについて補完する役割がある。ただし、それらの指摘は、あくまでも権利条約の内容に照らし合わせて整理しなければならない。

パラレルレポートは、障害者権利委員会の実効性のある事前質問事項の作成に影響したり、より良い審査作業を実現したりするために重要である。政府報告、事前質問事項、そしてパラレルレポートが障害者権利委員会による充実した国際監視を実現し、その結果として、障害者権利委員会から示される提案や勧告を含めた総括所見が、わが国の障害者施策の改善と向上を実現していくのである。

市民社会側(障害者団体)が何を課題としているのかについて真摯に作業を行い、多くの団体、市民社会組織を巻き込んでパラレルレポートを作成する必要がある。

先にも述べたが、政府報告が障害者政策委員会の第3次障害者基本計画の中間監視作業をもとに行わざるを得なかったことについても指摘し、障害者政策委員会の役割として、権利条約の監視を行うことを明確に障害者基本法改正の中で位置づける必要がある。

また、パラレルレポートの作成自体にも時間的制約があることを忘れてはならない。字数にも制限がある。それらの制限がある中で、多くの障害者団体が連携し、障害者権利委員会からのより充実した報告・勧告を引き出すレポートを作成したい。その時、JDFはパラレルレポート作成の中核となる必要がある。

おわりに

第1回政府報告では、政府自体も統計資料が不十分であること等を認めている。政府報告本体中に、明確に障害者政策委員会からの指摘事項が記されている。限られた条件の中で、各府省庁と障害者政策委員会が計13回の審議を重ねたことは評価できる。しかし、権利条約に照らし合わせると課題も多い。JDFとしてもパラレルレポートを作成し、障害者権利委員会にわが国の障害者施策の実情を報告し、客観的な国際監視をもとに適切な勧告を引き出し、わが国の障害者施策の改善・向上につなげたい。

障害者権利委員会は、締約国から選ばれた18人の独立した専門家で構成されるが、日本から障害者政策委員会の委員長を務める石川准氏が次期委員に選出された。石川氏自身は自国(日本)の審査にはかかわれないが、国際的な監視作業をもとに、わが国の障害者施策のスパイラルアップを図るためにも石川氏の委員就任は心強い。

(あべかずひこ 日本障害フォーラム(JDF)代表、社会福祉法人日本身体障害者団体連合会会長)