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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年1月号

ワールドナウ

WWDACN主催 国連障害者権利条約10周年記念国際会議
~障害者権利条約における女性・女児の権利の向上~

勝又幸子

2016年10月18日、19日の2日間、韓国ソウル市で障害者権利条約(CRPD)締結から10年を記念して、障害のある女性・女児の権利向上をテーマとした国際会議が開催された。この国際会議は、ソウル市を中心として活動するNGOで障害のある女性の芸術文化ネットワーク(WWDACN)1)が主催し、アジア環太平洋を中心とした10か国とアメリカと国際障害同盟(IDA)、CRPDの現役女性委員など障害のある女性たちの運動に関わっている人や団体に所属する個人が招聘された。

私はDPI女性障害者ネットワーク(DWNJ)のメンバーとともにこの会議に参加し、女性差別撤廃委員会日本審査におけるDWNJのロビー活動について報告した。【写真1】以下では、まず、韓国の国際会議で女性障害者がテーマとされた背景を解説し、そして会議の様子に加えて、女性障害者たちの運動の今について会議で見聞きしたことを中心に報告したい。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

CRPD第6条「障害のある女性」の条文は韓国政府の後押しで実現

国際会議の第1日目の冒頭のオープニングセレモニーでは、韓国政府の国連代表や与野党の国会議員の挨拶が続いた。それらは単なる祝辞ではなく、10年前、CRPDが国連で締結されたことの意義とそこで韓国の果たした役割をアピールする内容だった。

主催者WWDACNの代表を務めるキム・ミヨンさんは、CRPDの制定前に「韓国障害者権利条約制定推進連帯」2)の一員として韓国政府代表団とともに、障害者権利条約特別委員会に参加した経験がある。

2015年、日本障害フォーラムが主催した公開シンポジウム3)で来日した時の報告によると、韓国政府と「韓国障害者権利条約制定推進連帯」の特別委員会への働きかけの成果として、もともとの草案になかった第6条(障害女性条項)の挿入、個人の移動性(第20条)、地域における自立生活の権利等(第19条)の明記が実現したとのことだった。

韓国は日本に先んじること6年、2008年にCRPDを批准し、2011年には最初の政府報告をCRPD委員会に提出し、2013年には建設的対話をすでに経験している。

CRPD制定10周年を迎えた今年、第6条「障害のある女性」をテーマとした国際会議を主催した背景には、韓国が力を入れて実現した条項であったことに加えて、条項を入れたことの効果が上がっていないことへの危機感があったと聞いた。特別委員会に韓国が関与しはじめたのが、2002年第2回特別委員会からだというから、ちょうどキム・デジュン大統領の時代だった。IMF体制(1997年)の経済財政的挫折から、社会の復興と民主化が進められていた時代だったことを思い起こさせる。

1991年、韓国が国連加盟を果たし、急速に国際社会の一員としての役割を果たすことになったが、2001年、中央官庁のひとつとして女性(家族)部(省に相当)が発足している。女性差別撤廃条約(CEDAW)の批准は国連加盟の前1984年だったが、一部保留付きで批准したため、90年代の韓国の女性運動は、CEDAWを政府に対する立法・法改正要求の理由としたと言われている4)

そのような背景から察するところ、CRPDにおける女性障害者条項の追加は、民主化運動に参加した進歩的な勢力からの支援を強く受けていたのではないかと思う。CRPD制定から10年を経た今、女性障害者の課題が置き去りにされている現実は、韓国の政治や社会状況の変化と切り離すことはできないという危機感が感じられた。

国際会議の会場報告から

国際会議は2日間にわたって行われたが、一般に公開されたものではなく、1日目は海外から招聘された人と韓国国内の関係者が集った。ホテルの200人ほどが入るホールを会場とした。2日目は、各国から集った女性たちと韓国の女性障害者たちだけのクローズドの会議で、収容人数約50人の小規模な会場で行われた。

初日の午前中は来賓の挨拶に続いて、基調講演として主催者側からキム・ミヨンさんが、ゲストとしてCRPD委員会副議長のテレサ・デゲナーさん、女性障害者のエンパワーメントのためのプログラムを実施しているモビリティUSAの代表のスーザン・シーガルさんが壇上で各20分程度の短いスピーチをした。プログラムにはジュディー・ヒューマンさんの名前も挙がっていたが、体調不良のため欠席し、在韓国米国務省の職員によりメッセージが代読された5)

最も印象に残っているのは、スーザンが紹介したビデオだ。これは、WILD6)という女性障害者リーダー研修プログラムに参加したさまざまな国、さまざまな障害のある女性たちの生き活きした姿を5分の動画にまとめたものだ7)。「Loud, Proud and Passionate!(声を上げよう、誇りをもって、情熱的に)」と繰り返す歌をバックに、研修に参加した障害のある女性たちがさまざまな活動に参加している様子が映し出されている。この動画から、アクティブで明るい障害女性リーダーたちのセルフイメージが感じられた。【写真2】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

午後は、パネルディスカッション形式で、デゲナーさんがCRPD委員会が今年出した第6条に関する一般意見について報告し、IDAのビクトリアさんが、CRPDを含む国連の人権委員会における障害者や障害のある女性をめぐる検討の現状について解説した。韓国の人権法の研究者からは、差別の交差性と障害のある女性というタイトルでの報告があった。

2日目は、各国からの障害女性たちの現状や活動についての報告が行われた。国としては、ホストの韓国、フィリピン、モンゴル、タイ、ネパール、日本、ベトナム、レバノン、中国、オーストラリアだった。印象に残っているのは、フィリピンの聾唖者をサポートしている団体の責任者として参加したリサの報告だった。障害があり女性であるという二重の差別にあって生命も危ういほどの状況に置かれていることが紹介された。また、ネパールから参加したティカは、障害ゆえに教育の機会を奪われた自らの体験を話した。

今回の国際会議の最後に、主催者からの提案で、障害のある女性たちの国際的ネットワークを立ち上げることが決まり、名前もWomen and Girls with Disabilities International Action(WGDIA)となった。現在はまだ、非公開のフェイスブック上で情報共有を行なっている段階だが、日韓で障害のある女性たちの交流をもっと活発化したいという提案をもらった。

先の改選で、CRPDの委員会に女性委員が1人になってしまったことの問題提起がIDAやAPDPO United女性委員会からも出ており、CRPD委員会をはじめとしてすべての人権監視委員会の男女平等を達成するキャンペーンに、今回の会場でも協力が呼びかけられ、プラカードを掲げて全員で参加した。【写真3】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

(かつまたゆきこ 国立社会保障・人口問題研究所情報調査分析部長)


【注釈】

1)Women with Disabilities Art and Culture Network (President Miyeon Kim)

2)“Korea Federation of Organizations of the Disabled”

3)「障害者の権利に関する日本・韓国セッション公開シンポジウム」主催:日本障害フォーラム(JDF)2015年10月22日(木)参議院議員会館1階講堂で開催

4)山下英愛(2007)和光大学総合文化研究所年報「東西南北」2007 37頁

5)在韓アメリカ大使館もこの国際会議に資金援助を行なっていた。

6)International Women's Institute on Leadership and Disability

7)Loud, Proud and Passionate! MusicVideo
https://www.youtube.com/watch?v=uxxomUVsSik