音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

藤沢市のインクルーシブ教育の取り組み
~一人ひとりの教育的ニーズに対応する学びと必要な支援について~

瀧谷典子

藤沢市では、障がいの有無にかかわらず、さまざまな課題を抱えた子どもたち一人ひとりの教育的ニーズに適切に対応していく「支援教育」を推進し、障がいのある子どもと障がいのない子どもが、ともに学び、ともに育つことができる学校教育を実現するための仕組みや教育環境の整備等に取り組んでいます。

市立学校における学びと支援について

当市では、小学校35校、中学校19校特別支援学校1校を設置しています。そして、教育委員会は、入学時点において、すべての子どもが、居住地区の学校の通常の学級に入学できることを保証して就学指定を行なっています。入学前に、保護者と就学相談を丁寧に行い、子どもの持っている力を伸ばすことができる学びの場について検討し、就学支援委員会の審議結果を参考にして、最終的に保護者が特別支援学級や特別支援学校に入学を希望する場合には、就学指定変更手続きを行うよう、相談を続けていきます。

また、言葉や聞こえの課題に対応する通級指導教室「ことばの教室」を小学校4校に、コミュニケーションや感情のコントロール等の課題に対応する通級指導教室「すまいる」を小学校3校に設置しております。通級指導を受ける児童は、居住地区の小学校に在籍し、普段は通常の学級で学習していますが、週に1~2時間程度、「ことばの教室」や「すまいる」に通い、課題を改善または克服するための指導を受けています。「ことばの教室」は1対1の指導形態を基本として、一人ひとりの特性に合わせた学習方法で指導を行なっています。「すまいる」では、小集団での指導を基本としており、どちらの通級指導担当教員も、一人ひとりの頑張りをほめて認めて、児童の励みにつなげています。

通級指導教室で自己肯定感を高めながら学習したことを、児童が在籍校での学習や生活に生かし、自信を持って生活するためには、普段から通級担当、在籍校の担任、保護者が連携し、指導方法等について共通理解を図り、それぞれの役割を担うことが重要になります。

市立特別支援学校は、毎年夏休みに、市立学校教職員及び保護者を対象に、特別支援教育に係る研修講座を開催しています。市立学校教職員の関心度は高く、年々参加者も増加しています。また、市立学校から依頼があれば、市立学校に在籍する特別な支援を必要とする児童生徒の指導に係る助言や教材の紹介、貸し出し等の支援を行なっており、特別支援学校は、市内の小中学校にとって、特別支援教育に係る相談をすることができる頼りになる存在となっています。

通常の学級と特別支援学級、通級指導教室、特別支援学校において、今後さらに、教職員間の連携や児童生徒の交流及び共同学習の質的な充実等、それぞれのつながりを充実させていきたいと考えています。

市教育委員会では、市立学校に在籍する特別な支援が必要な児童生徒に対し合理的配慮の提供に係る人材として、介助員及び学校看護介助員を派遣する事業を行なっています。

介助員派遣事業は、学校や保護者の要請をもとに、特別な支援が必要な児童生徒に対して、移動や身辺処理等の支援や介助、安全確保等に従事する介助員を派遣しており、児童生徒の安心・安全な学校生活を支援しています。

学校看護介助員配置事業は、比較的短時間でできる簡単な医療的ケアを必要とする児童生徒に対して、看護師免許を有する学校看護介助員を派遣して、学校生活における医療的ケアを行なっています。平成23年度から他市町に先駆け、特別支援学校及び特別支援学級に在籍する児童生徒を対象に派遣を始めたこの事業は、平成27年度より通常の学級にも派遣範囲を広げました。この制度によって、保護者の負担が減り、児童生徒が、安心安全に学校生活を送ることができるようになっています。

「藤沢の支援教育」を推進しています

平成27年度に市教育委員会は、障がいの有無にかかわらず、さまざまな課題を抱えた子どもたち一人ひとりの教育的ニーズに適切に対応していく「藤沢の支援教育」の考え方を保護者や藤沢の教職員に伝えるために、「藤沢の支援教育」リーフレットを作成、各家庭に配付しました。

また、教職員に向けては、藤沢の支援教育の手引きとなるガイドラインを作成し、配付しました。

ガイドラインでは、支援教育の第一歩として、「困った子」から「困っている子」へ、教職員の意識をシフトし、「この子は、何に困っているのだろう。」と子どもの内面に寄り添った見方をすることの大切さについて示しています。

また、子どもたち一人ひとりに応じた支援を行なっていくために、担任が一人で抱え込まないよう校内支援体制を整え、学校がチームとして対応することの大切さについて示しています。

各学校には、スクールカウンセラーを週に1日から2日配置し、児童や保護者の相談や支援にあたっています。

通常の学級においても発達障がいを含め、支援を必要とする児童生徒は在籍しています。合理的配慮において、一番重要なことは、一人ひとりの児童生徒に対するアセスメントです。担任は、支援教育の視点を持って、教育活動にあたっていますが、児童生徒一人ひとりの状況は個別性が高く、専門的な知識が必要になり、担任がアセスメントを行うことは、難しいことでもあります。

そこで、教職員は、児童生徒の見立てや支援方法についてスクールカウンセラーに相談をして、児童生徒との信頼関係を築く中で、支援の手立てを探っています。

平成28年度からは、市教育委員会内に特別支援教育専任スクールカウンセラーを配置しました。子どもの発達と心理に関する専門的な知識や技術により、児童生徒が抱える発達上の課題の改善に向け、児童生徒や学校、教職員の支援や援助を行います。これにより各学校に配置のスクールカウンセラーも、必要に応じて、特別支援教育専任スクールカウンセラーに、児童生徒の見立てや必要な支援に係る助言を求めることができます。

学校内外のさまざまな関係機関と連携をして、支援が必要な児童生徒の適切な指導と必要な支援につなげるように努めています。

「藤沢市立学校における障がいを理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」を施行しました

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の施行を受けて、神奈川県、神奈川県教育委員会、藤沢市では、平成28年4月に対応要領を施行しました。

市教育委員会では、市立学校における、障がいを理由とする差別の解消に向けて、どのように取り組んでいくことが大切なのかを考え、教職員が対応する際の指針として、対応要領を策定し、平成28年10月1日に施行しました。

策定にあたっては、藤沢市障害者総合支援協議会及び藤沢市特別支援教育協議会の委員、市立特別支援学校の保護者から『教職員の研修がとても大切になる。』『本人だけでなく保護者の申し出を学校が受け止めることを明記してほしい。』等のいただいた意見を反映させながら、検討を重ねました。

この対応要領は、障がいを理由とする差別の解消に取り組むこととともに、すべての児童生徒に適切な支援を行う「藤沢の支援教育」の考え方を基本として、さまざまな理由により支援が必要な児童生徒に対して、適切な指導と必要な支援を行なっていくことを定めているところが特徴です。

また、学校の教育活動において、特に必要でないのにもかかわらず保護者等付添者の同行を求めることは、不当な差別的取扱いに当たりうると具体例も記載しています。

この対応要領が市立学校において適切に取り組まれるためには、教職員が、法の趣旨やこの対応要領の取り組みについて理解することが重要になると考え、施行以降、直ちに、学校管理職や教職員に説明をしてきました。

その際、特に重点をおいて説明したポイントは、次の2点です。

1点目は、本人やその保護者の望んでいることをよく聞き、学校と相談する中で合意形成を図り、提供する合理的配慮を決定することが大切であるという点です。

「障害者の権利に関する条約」に関する検討が行われた際に、すべての障がいのある方の共通の思いを表した「私たちのことを私たち抜きに決めないで」という言葉が示しているように、学校だけで合理的配慮や支援を考え、決定するのではなく、本人やその保護者から困り感や、どのような支援を望むのかということについてよく聞き、学校と保護者が話し合って決定することが大切です。

2点目は、本人や保護者から相談を受けた担任が個人で判断するのではなく、学校が組織として対応する相談体制を含め、校内支援体制を各学校で整えて対応していくことです。それにより、教職員個人の意識の差から、対応に差が出ることを防ぐとともに、教員一人で抱えることを防ぎ、児童生徒に関わる多くの学校教職員が、支援に関わることによって、児童生徒の安心安全な学校生活につながります。

市教育委員会が主催する教職員の担当者会では、この対応要領の取り組みを進めるために、各担当者に担ってもらいたい役割等について説明しました。

校内支援に係る担当教員に対しては、校内でコーディネーター役になり、必要な場合は、外部機関とも連携し、ケース会を開催することや、決定した合理的配慮を全教職員で共通理解を図り、適宜見直しを行いながら、次年度への引継ぎを行うこと等の大切さについて確認しました。

また、特別支援学級や通級指導教室等の特別支援教育に係る教員は、普段の教育活動において、子どもの特性に合わせた指導や支援の仕方、誰にでもわかりやすい明確な指示の仕方、視覚的な支援、スモールステップの学習課題の設定等を行なっています。通常の学級の担任等にもその知識や技術を伝えるために、校内研修会の開催や、ケース会への参加も促しています。

さらに、生徒指導担当者に向けては、生徒の表(おもて)に現れている問題行動の背景には、発達障がい等を有している場合もあるので、校内支援担当者やスクールカウンセラー等と連携をして、学習面や生活面で本人の困難さを理解するよう努める必要があることや、その生徒の生活や学習上の困難さを改善又は克服するために必要な支援と指導を行う校内支援体制の構築について改めて依頼しています。

先日、ある障がい児者の会の方々と「対応要領」について懇談の機会を持ちました。その際、この対応要領の「障がい」の定義について、「発達障がい」を「精神障がい」に含めず、独立させてほしいというご意見をいただきました。その他にも、これまでの学校の対応の賛否について、直接、お聞きすることができました。大変貴重な機会でした。

この対応要領については、施行後1年を過ぎた時期に、いただいたご意見や施行状況をみて、再度、見直しを行う予定です。

取り組みを積み重ねていく中で、各学校で実践される合理的配慮については、他の学校でも共有し、参考にできるようにしたいと考えています。

この対応要領ができたことによって、藤沢市立小・中・特別支援学校全55校において、足並みをそろえて取り組んでいくことになります。このことは、学校教育において、すべての子どもが、個々の違いを認識し、さまざまな人々が活躍できる「共生社会」をつくるための基礎となるものを、子どもたちや保護者に対して啓発していくことにつながり、重要な意味を持っていると考えています。困難な課題にも直面することもあるかと思いますが、知恵を出し合って、一歩ずつ確実に進めていきたいと思っています。

(たきたにのりこ 藤沢市教育委員会教育指導課)