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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

当事者・関係者の声

ともに働くために

薬師寺剛

私は新潟県の教員で、全盲の視覚障がい者です。私がかつて勤務していた病院併設の病弱養護学校(現在の特別支援学校)で、ご配慮やご支援をいただいたことを書いてみます。ともに働くための職場における合理的配慮などの視点でご参考になれば幸いです。

1 施設設備の整備面で

私が赴任して初めて校舎に入った時には、すでに廊下の出入り口付近の手すりに「中1教室」「パソコン室」といった、教室表示の点字のシールが貼られていました。このシールをもとに、教室を確認して入ることができました。

また、年度当初にはありませんでしたが、4月中に校舎内の廊下や階段など注意すべき箇所に点字ブロックが敷設され、さらに玄関から門までの間にも点字ブロックが敷設されました。

私は白杖を使い徒歩で通勤していました。ところが、病院の敷地の端と道路との間に1.5メートルほどの深さの側溝がありました。「通勤で、何か困ることはないですか」と事務の方に尋ねられたので、その側溝が危険であることを話すと、翌日にすぐ金属の板で蓋がされていました。

私が使用するパソコンには、画面の文字情報を音声で読み上げるソフトがインストールされていました。さらに点字プリンタも設置され、おかげで私自身が読むための生徒用のプリントや会議資料などを点字で印刷して使用することができました。

2 授業について

私は数学を担当していました。授業は2人のティームティーチングです。役割分担として、

  • 授業の進め方は薬師寺が考える。
  • 課題のプリント等は薬師寺が作成し、印刷等はもう1人の先生に依頼する。
  • 新しい事項の説明や発問は、薬師寺が行う。
  • 板書は薬師寺が指示した内容を書いていただく。
  • 生徒がノートに書いていることの確認は、もう1人の先生からしていただき、私に要な情報を伝えていただく。

また授業の時間とは別に、一緒に授業に出ていただく先生から、教材の資料や生徒のノート等の朗読をしていただきました。定期テストは、私が考えた内容をテキストデータにして伝え、それをもとに図やグラフ等を挿入して作成していただきました。採点も私が示した解答に沿って行なっていただきました。

前記のような時間は、私が授業を行う上で欠かせない時間であったので、時間割のコマに「教材研究の時間」として位置づけ、私ともう1人の先生の双方を持ち時間としてカウントしていただきました。

教科書については、採択されている教科書と、盲学校で使用されている点字の教科書が別の出版社から出されていました。そこで、新潟県の点字図書館に相談し、点訳ボランティアの方から点訳をしていただきました。分量が多かったので、すべての点訳には1年近くかかりました。それまでの間は前記の「教材研究の時間」に教科書を朗読していただき、ポイントを点字で手書きして資料としました。数年後に教科書の採択の時期になった際に、数学科の先生方にご相談して点字教科書が作成される教科書を採択していただき、生徒と私とが同じ教科書を手にできるようにしていただきました。

3 同僚の先生方のご配慮

私が赴任した際、盲学校での勤務のご経験がある先生方が数人いらっしゃいました。まずその先生方から、校舎内の教室や職員室、下足置き場など、部屋や物の位置について私が覚えるまで教えていただきました。また下足置き場では、私が分かりやすい一番上の右隅、などの場所にしていただいたのです。

会議資料は墨字は読めないので、すべてパソコンでテキストデータ(文字のみのデータ)にしていただき、USBメモリ等の記憶媒体をやり取りさせていただきました。私はパソコンでそのデータを音声で読み上げて確認しました。そのテキストファイルの作成の仕方について、私の赴任前にすべての先生方に説明がなされていました。

赴任してからあらためて私に声をかける際は、ご自身の名前を名乗ること、廊下に物を置かないこと、物を動かしたら分かるように知らせることなど、私に接する上で気をつけることを話す機会を設定していただきました。これは毎年4月に実施されました。先生方は真剣に私の話に耳を傾けてくださり、「こんな時は、どうしたらいいですか?」と、積極的に質問を出して、私の障がいの理解に努めてくださったのです。

(やくしじごう 新潟県立新潟盲学校教諭)