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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年2月号

知り隊おしえ隊

究極のユニバーサルスポーツ
卓球バレーってどんなスポーツ?

堀川裕二

1 希望郷いわて大会のオープン競技

2016年10月22日から24日までの3日間、東日本大震災の被災地である岩手県において、第16回全国障害者スポーツ大会「希望郷いわて大会」が開催されました。その2日目、盛岡市にある「ふれあいランド岩手」の体育館は700人の人で溢れていました。その施設の体育館で、オープン競技として開催されていたのが「卓球バレー」です。【写真1】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

卓球バレーが初めて岩手県に紹介されたのは約5年前の2012年1月ですが、翌年3月にはオープン競技の開催が決定しました。正式競技(個人競技6、団体競技7)の選手強化責任者を務める岩手県障がい者社会参加推進センター(スポーツ協会の役目も担う組織)の事務局長さんは、重度な障害のある方や高齢の障害者が出場できる競技が少ないことに悩んでいましたが、そんな時に出合った卓球バレーに、思わず「これだ!」と感じたそうです。

そして、それから彼と二人三脚の岩手県内での普及活動が始まりました。日常生活に介助が必要な方を対象とした障害者支援施設(旧身体障害者療護施設)から、知的障害や精神障害の方を対象とした施設や団体等、さまざまな場所を訪ねて体験会を実施しました。

2 卓球バレーの歴史と現状

卓球バレーは、大阪府の筋ジストロフィー症児のための養護学校で始められた競技で、1974年に「第5回近畿筋ジストロフィー症児交歓会スポーツ交流会」において実施されたあと、京都市の鳴滝養護学校を中心にルールや用具を改善・工夫しながら京都府下に広まっていきました。当時のメンバーの一人で、後に日本連盟の初代会長となった片山美代子先生は、とにかく「筋ジスの子どもたちにもスポーツの楽しさを味わってもらいたい」との一心で工夫を重ねたと話されていました。

そして、1988年に京都で開催された「第24回全国身体障害者スポーツ大会」では公開競技として実施されましたが、残念ながら全国への普及には繋(つな)がりませんでした。

その後、九州・山口を中心に普及が進み、京都大会から20年を経た2008年に大分で開催された「第8回全国障害者スポーツ大会」において初めてオープン競技として実施され、その大会中に日本卓球バレー連盟(以後、日本連盟)が発足しました。【写真2】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

翌年には3ブロック制(当初は中ブロックと西ブロックのみでしたが、2016年5月に東ブロックが発足)の導入や日本連盟編「競技規則」が制定され、2013年度からは日本連盟公認審判員・指導者制度も正式にスタートしました。

大分大会以後の全国障害者スポーツ大会では、2011年の山口大会と2015年の和歌山大会でオープン競技として実施され、昨年の岩手大会を迎えました。

このようにオープン競技実施が続いてくると、「正式競技に」との声が聞かれるようになってきましたが、現在の形の正式競技よりも、開催県をはじめとした多くの皆さんが参加できるオープン競技こそが、卓球バレーに相応しいと思っています。

2016年末現在の日本連盟加盟団体は、京都、和歌山、富山、福井、大分、宮崎、熊本、鹿児島、山口、佐賀、鳥取、岩手、埼玉の13協会と徳島の1団体。公認審判員と指導者を合わせると、その数は全国34都府県で1,500人近くに達しています。【写真3】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

3 卓球バレーとは?(用具とルール)

卓球バレーを一言で表すと「6人制ゴロ卓球」。その名のとおり「卓球」と「バレーボール」が合体したスポーツです。用具や台は、主に卓球やサウンドテーブルテニス(以前は盲人卓球と呼ばれていた全国障害者スポーツ大会の正式競技)、ルールの多くはバレーボールに準じています。

まず使用する台ですが、普通の卓球台を使用します。最大の特徴はボールを転がしてプレーすることで、ネットの下に設けられている57ミリの隙間を通してプレーします。サーブだけはネットに触れたらミスになりますが、ラリー中は触れてもOK。障害者スポーツ、特に視覚障害や重度な障害のある方を対象とした競技では「ゴロ」が1つのキーワードになっています。三次元より二次元の方がプレーしやすいこともありますが、面(卓球台)を利用することも大きな利点となります。

ラケットは木製の板(縦・横共に30センチ以下)、ボールは前に述べたサウンドテーブルテニス用のボールで、普通のピンポン球の中に金属の小さな玉が4つ入っています。視覚障害者のために音が出るのはもちろんですが、金属の玉が錘(おもり)になってあまりバウンドせず転がりやすくなっています。【写真4】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真4はウェブには掲載しておりません。

そして、6人対6人で実施するのも大きな特徴点です。その利点は、まず守備範囲。卓球台の一辺を2人で守るので、重度な障害のある方でも自分のエリアを守ることが可能になります。そして、団体プレー。障害者のスポーツでは一人ひとりの能力の差が大きいため、団体競技のほとんどは障害別に分かれて実施されています。しかし、卓球バレーは、その種類や程度の違うさまざまな障害者が一緒になってプレーすることができる非常に稀(まれ)なスポーツだと言えるでしょう。

1チーム6人の競技者は、サーブを行う4人のサーバーとネット際に位置する2人のブロッカーに分かれます。サーブは両チームが交代で行いますが、サーブをしたチームが得点してもサーブ権は必ず相手側に移り、8点ごとに一巡します。これも障害の軽い方や健常者が何度もサーブを続けることで障害の重い方が不利にならないことや、サーバーができるだけ多くサーブをすることができるための配慮です。また、ブロッカーの選手は相手のサーブを直接相手コートに返すことができないのも、チームワークの大切さに繋がっています。

その他のルールとしては、バレーボールのように3打目までに相手コートに返す(3打目がネットの触れた場合は4打目までOK)。同じ人が2回続けて打ったり(打球がネットに触れた時は、もう1回だけ同じ人が打てる)、ボールがラケットの面を転がると「ドリブル」の反則。また、ネットにラケットや体が触れたら「タッチネット」、ネットを越えて打ったら「オーバーネット」などの反則があります。【写真5】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真5はウェブには掲載しておりません。

そして、卓球バレー特有のルールに「スタンディング」があります。競技者のお尻が椅子や車椅子から離れたり、椅子を動かしてプレーすると反則です。これは、下肢が不自由で立ち上がることができない方への配慮で、障害の重い方にルールを合わせるという障害者スポーツの原則の一つです。

勝敗は15点3セットマッチ(2セット先取)で行われますが、主な大会では、予選リーグを2セットマッチ(引き分けあり)で行われることが増えています。これは多くのコートを使用するため、各コートの午前中の終了時刻がバラバラにならないためで、昼食の際に介助が必要な選手への配慮等でもあります。

4 ユニバーサルスポーツとしての普及

2011年に50年ぶりに改められたスポーツ基本法によって障害者スポーツを取り巻く状況は大きく変わってきています。今まで障害者に関わることがなかった多くのスポーツ関係者の「子どもから高齢者まで、障害のあるなしにかかわらず楽しめるユニバーサルスポーツ」への関心が高まっており、市町村のスポーツ推進委員や、総合型地域スポーツクラブの方々等からの用具購入や、指導者養成等の問い合わせが多くなっています。

さらにその動きは海外にも広がり、ここ数年、南米のブラジル、パラグアイ、アルゼンチンやラオスにおいても卓球バレー指導者が誕生し、その普及が急速に進みつつあります。

そんな中で、昨年8月に開催されたリオデジャネイロオリンピックの最後の2日間に、2020東京オリンピック・パラリンピックや日本文化を紹介するジャパンハウスにおいて、卓球バレーのデモンストレーションが行われ好評を博しました。【写真6】
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真6はウェブには掲載しておりません。

卓球バレーにチャレンジしてみませんか?

(ほりかわゆうじ 日本卓球バレー連盟普及委員長)


【参考】

「卓球バレールールブック」 日本卓球バレー連盟編(2016年版)