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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

意思疎通のためのコミュニケーション支援機器

内山量史

話す、聞く、読む、書くという言葉を操ること全般が難しくなる失語症の人にとって、意思の疎通性を高める目的で数多くのコミュニケーション支援機器が開発されています。今回は、生活場面において役立つ福祉用具や便利グッズをいくつか紹介します。

1.コミュニケーションノート

対象者が良く使用することばを絵や文字で表しまとめたノートです。聞きたい内容や日常的に確認が必要な項目があらかじめ用意されているため、コミュニケーション相手側はその頁の絵と文字(単語)を提示して質問し意思の確認を図ることが可能となります。

また、音声を用いて意思表示するのが難しい場合に、絵や文字を指差してもらうことでコミュニケーションをとりやすくします。対象者に合わせて、ノートに日常的な動作や物品の絵や写真を貼り付けて活用する例から、市販のものまでがあります。

2.簡易筆談器

聴いて理解することが難しい場合でも、漢字単語の理解が可能な場合が多くあります。その際、単語を書いて説明する際の補助手段として活用できます。すぐ消せて、何度でも使えることと、メモ用紙などに書くのとは違って内容が消えるので、プライバシーの保護にもなります。

3.ICレコーダー

相手が何を話しているか十分理解できない場合など、会話内容を録音することで音声メモツールとして活用ができます。手にマヒがあってメモが取れない方や会話を覚えていられない方への活用も可能です。

また、あらかじめいくつかの音声を録音しておき、必要な時にメッセージを選択して会話に使用することで、音声出力コミュニケーションエイドとして活用することも可能です。

4.みえる電話:株式会社NTTドコモ

通話相手の言葉をリアルタイムで文字に変換してスマートフォン画面に表示するサービスです。聴覚障害者用として開発されましたが、相手の言葉を聞きとるのに不自由さを感じている方には便利なサービスです。

5.「コミュニケーション支援・会話の見える化アプリ」UDトーク(ユーディートーク)

音声認識技術を使うことにより、リアルタイムで字幕を作成することができます。1対1の会話から多人数の会話や会議まで、使い方次第で幅広くさまざまな方とのコミュニケーションに活用できます。聴覚に障害をもつ方向けに開発されたアプリですが、相手の言葉を聞きとることに困難さを感じている失語症の方にも活用できます。

6.指電話:有限会社オフィス結アジア

あらかじめことばを登録しておき、タップして流暢な音声で伝えるスマートフォン用のアプリです。五十音タイプ、絵カードタイプ、筆談タイプがあり、用途に合わせて使用できます(有料)。

7.クイックトーカー:パシフィックサプライ株式会社

複数のキーにメッセージをあらかじめ録音し、使用者は場面に合わせてキーを押すとメッセージが再生され、相手に意思を伝えられるVOCA(Voice Output Communication Aids)です。クイックトーカーは3つのコアメッセージと5レベルの個別メッセージ数の録音・再生が可能です。

8.携帯用会話補助装置「トークアシスト」開発元:明電システムソリューション株式会社

日常会話に困難を感じている方のための携帯用会話補助装置です。コンパクトで軽量、タッチスクリーンのシンボルに触れるだけで簡単に操作ができます。お使いになる方の状況(障害レベル・回復状況)に応じて機能選択も可能です。「タイマー」「スケジュール」「自己紹介」などの機能も搭載しています。

9.Go Talk(ゴートーク)シリーズ:こころ工房

メッセージを録音して、ボタンを押すだけで音声を再生できるコミュニケーション・ツールです。軽くて丈夫で携帯に便利なデザインとなっています。スライド式オーバーレイには、絵や字を書き込むことができますので、それを見れば再生したいメッセージがどれなのかが分かります。使用用途や録音できる数によって3つのシリーズが出ています。

10.携帯電話

出かけた場所を伝えたりする場合、会話でのやり取りが困難な場合は写真に記録しておくことでメモツールとして活用ができます。ひと昔前までは、コミュニケーションに低下がある方には携帯電話を使用しての会話は難しいとされていましたが、音声録音機能、カメラ機能、アラーム機能、メール機能を活用することで意思伝達の補助として十分活用されやすくなりました。

11.ポケットカレンダー

12枚のカレンダーの一番上にポケットシートが付いています。1日ごとのポケットに、忘れてはいけないもの、予定カードなどを差し込んで使います。終わった日にカードを差し込むことで今日が何日か分かりやすくなります。

以上、いくつかのコミュニケーション支援機器を紹介いたしました。ハイテクの時代を反映して多くの製品が開発・販売されています。また、ノートや携帯電話などといった身近な物も活用法やアイデア次第ではコミュニケーションを図る機器として使用できることを理解していただけたと思います。

コミュニケーション支援機器や用具は、上手く活用できれば円滑にコミュニケーションが図れますが、その場合にもコミュニケーション相手側の理解が必要となります。機器や用具を導入するだけでなく、コミュニケーションを図ろうとする姿勢や努力、適切な対応によって困難感が解消されることも理解してください。

NPO法人全国失語症友の会連合会の「失語症の人の生活のしづらさに関する調査」(平成25年)では、発症後「生活がしづらい」と感じている失語症の人は9割に上るとされ、生活のしづらさの具体的な内容で最も多かったのは「他の人とのコミュニケーションの困難さ」であったと報告されています。また、約半数の人が1人での外出が難しいと答え、コミュニケーションの困難さが日常生活の自立はもちろん、自らが行いたい趣味などといった活動への参加も制限されていることがうかがわれます。

失語症などコミュニケーションが困難な方が、地域での活動に参加できるように具体的なコミュニケーション方法に関する助言や指導を行なったり、失語症友の会などの地域活動組織への支援や協力を行い「失語症の人にやさしい社会の実現」のために、当会もさらなる努力をしていきます。

(うちやまかずし 一般社団法人日本言語聴覚士協会副会長)


【参考文献】

1)NPO法人全国失語症友の会連合会「失語症の人の生活のしづらさに関する調査」結果報告書、平成25年

2)財団法人テクノエイド協会、福祉用具シリーズ Vol.11、コミュニケーション支援用具