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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

当事者活動・支援活動

埼玉県若い&ミドル失語症者のつどいの活動

友井規幸

「失語症」は若い年代でも生じるが、その数は圧倒的に少ないといわれている。若い世代は、地域の失語症友の会に入っても年上の参加者が多く、どうしても違和感を持ってしまうのだ。それに、勉強やスポーツへのやるせなさや、仕事に対する焦り、恋愛への不安など、悩み事が異なるため、余計に孤立感を抱えてしまうことになる。そして、自宅に引きこもる人が増えてしまうのだ。

「埼玉県若い&ミドル失語症者のつどい」の成り立ちは、東京の「若い失語症者のつどい」に参加したことから始まる。もともとは、言語聴覚士(以降STと呼ぶ)の故・遠藤尚志先生が1995年に企画した北海道のキャンプからである。2組の若い失語症の青年・家族が出会い、「失語症をもった若者と交流を持ちたい」という思いが強くなり、1999年12月に「若い失語症者のつどい」が開催されたと聞いている。

私が2000年、36歳で脳梗塞を発症し入院した時、失語症の若者は誰もいなかったのを覚えている。悶々としていたある日、ある講演会で、STの故・遠藤先生に出会った。先生は「今度、東京で若い失語症者のつどいがあります」と教えてくれた。行ってみると、多くの若い失語症者がいて、あまりの嬉(うれ)しさと勢いを感じて、もうぼろぼろ涙が止まらなかった。あれが2002年4月のことだ。

早速、埼玉県でも会を作ろうと、失語症者の友人と私で企画をし、「東京は遠いけれど、埼玉県でもできる」「外に出る機会がほしい」「もっと同年代の仲間に出会いたい」「リハビリの施設や薬、生活状況などの情報を得たい」という思いから、2002年10月、「埼玉県若い失語症者のつどい」を立ち上げた。もちろん、家族とSTが見守ってくれていた。当初、失語症者は約10人のスタートだった。その後2010年8月、「埼玉県ミドル失語症者の会」が築かれた。今では、失語症者の名簿に載っている会員は約90人に増えた。

「若い失語症者のつどい」は20~30代。「ミドル失語症者の会」は40~50代となっており、若い失語症者も年々歳をとっていくので、後から作られたのが「ミドル失語症者の会」である。

「若い」&「ミドル」では、合同の定例会を開催している。定例会は、年間5回、場所は主にさいたま市、時間は11時半から17時まで、会費は1000円、STやボランティアは無料(弁当は別に500円)。内容は、自己紹介や発表、ゲーム・歌を唄うなどのレクリエーションとなっている。

私は、「若い」&「ミドル」のつどいに関して、大きく分けて、ポイントが4つあると思う。

まず1つ目に「仲間づくり」。つどいに参加してくれる失語症者たちは、失語症者同士、瞬く間に仲間になれる。それは、笑顔の先には、悲しさ、苦しさ、そして悔しさを乗り越えた、ある意味、失語症者の誇りを見ているからだと思う。

次に「仕事」。職場復帰をした人、就活中の人、新しい職場の人、職業訓練校に入っている人など、さまざまだ。つどいの中で情報交換をし、ヒントを得、就職に結びついた人もいる。就職だけではなく、職場が失語症について無関心・理解を示してくれないなど悩み事を相談する場にもなっている。

3つ目は、未婚者は「恋愛や結婚」、既婚者は「子どもの成長・家庭の問題」についてだ。つどいの仲間の中には、出会って結婚したカップルもいた。また、恋愛に悩みを持つ人もいる。「子どもの成長・家庭の問題」については「子どものしつけ方は、どうしていますか?幼い子どもには失語症の理解も難しいです」といった相談や、子どもが結婚し、孫が生まれたという話、離婚話や親の介護などさまざまな家庭の話題も出ている。

そして、4つ目。主に未婚者は「親からの独立」だ。親には感謝している人や、ありがた迷惑という人、また一人暮らしを始める人もいる。「料理は難しいのではないか?」「片腕で爪切りはどうすればよいのか?」「洗濯ばさみはどうするのか?」など、一人で暮らしていくための手掛かりをもらいながら、改めて生活を見直せる場にもなっている。

この4つはどれも正解は無いが、意見や感想を言いあうことで、相手の気持ちを理解し、新しい自分を知ることにつながっている。

また、このつどいに長い間参加していて、意外なことに気がついた。それは、年々、失語症者の言葉のやり取りがスムーズになっていることだ。明らかに口調が変わった人もいる。言語のリハビリにも成果を出していると思う。それから態度や姿勢など、良い悪いの対応ができるようになり、声には出さないことでも十分、人間力を高められていると思う。

最後に、みんなで、このつどいを、何も言わなくても、笑え、共感でき、泣ける会、勇気、自信、希望に満ちあふれた会にしたいと思っている。そして、若い&ミドルの会は、東京や関西、北海道、東北、東海などでも開催しているので、ぜひ参加してもらいたい。

(ともいのりゆき 埼玉県ミドル失語症者の会会長)