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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

当事者活動・支援活動

失語症者に特化したデイサービス
~言語生活サポートセンター~

園田尚美

(株)言語生活サポートセンター(以下、当事業所)は、失語症のある方々の介護保険適用通所介護施設として2013年10月に設立、2014年5月に開業した。

当事業所は、失語症のある方々(以下、失語症者)が生活環境に即したリハビリテーション(以下、リハビリ)の機会を得、さまざまなコミュニケーション手段を用い、「失語症があっても地域で生き生きと暮らす力」の獲得を目標に掲げる。言語聴覚士(以下、ST)4人、通所者定員午前・午後各10人(月~金)の小規模地域密着型通所介護施設として指定を受けた。地域密着型だが、失語症の機能訓練事業所が少ないため、近隣の市・区からの通所者は定員の約25%を占める。介護保険非該当の方々には、実費負担で言語機能訓練を提供している。

当事業所はグループ訓練と個別訓練を併用している。グループ訓練は、言語性に関しては、自由会話や会話練習、語想起(しりとり、カテゴリー、連想課題等)。身体的にはラジオ体操や口腔体操、歌体操等の課題を提供する。グループ構成は失語症の重症度にかかわらず、同じ空間・時間を共有する。仲間と共に練習することで言語等コミュニケーション手段の獲得に著しい相乗効果が認められる。合計3時間15分の中で、4人のSTが入れ替わり行う。

個人訓練はグループから2人ずつ移動し30分間実施。個人の生活に合わせた練習を行う。自由会話や聴覚的理解能力・把持力、読解能力、喚語能力、書字能力向上課題。高次脳機能障害合併者には遂行能力、注意力・注意向上課題、構音障害合併者には呼吸・発声・構音等の課題を提供する。

失語症者は十分な機能回復の場所や機会を得て、個人の言語力に応じた適切なコミュニケーション手段を獲得すれば、症状が残存しても、家族等との穏やかな生活を取り戻し、社会参加や就労、就学の道も開かれる。

しかし、全国に多くの介護保険施設があるなか、言語機能訓練に特化した施設はほとんどなく、失語症者を対象にした機能訓練型デイサービスは全国に20施設弱しかない。さらに、行政やケアマネジャー、介護認定調査員の失語症理解が乏しいこともあり、介護保険制度内で、失語症はその社会的障壁に比して介護認定基準等が低く、甚(はなは)だ不適当と思わざるを得ない。失語症の機能回復の機会は閉ざされているも同然である。また、介護保険非該当の失語症者も相当数いるにもかかわらず、機能訓練の場は極めて少ない。

NPO法人日本失語症協議会が行なった調査でも在宅に戻った失語症者のリハビリ環境は、全くニーズが足りていないことが明らかである。

私の失語症との関わりは、15年前、夫が54歳時に、脳塞栓を発症、重度の失語症、右片麻痺の後遺症を持ったことが発端である。発症前は、高血圧・糖尿病等の症状はなく、企業戦士として夫の日常は、「ある意味充実した忙しさ」であったと推察するが、その多忙が発症原因となった。

夫は病院退院後、杖歩行が可能となり、都身障の職リハ等も意欲的に受講したが重度の失語症のため、復職は叶わず暫(しばら)く落胆した生活を送っていた。その後、気分一新、数年間福祉作業所に通所した。通所が日常になったある日、車の当て逃げ事故に遭う。失語症のため、けがの状態も言えず放置され、腰椎骨折、車いす生活となる。外出も億劫となり、次第に言語力・体力ともに低下、現在はほとんど引きこもり生活をしている。

夫のように、訓練の機会もなく社会参加が果たせない失語症者も適切な訓練と仲間との出会いの機会があれば社会参加・復帰が可能になり、自立した生活の構築が可能ではとの思いで事業所開設に至った。

介護保険制度の発足当時、失語症に特化した事業所はなかった。その後誕生した事業所では、言語機能訓練専門のSTがプログラムを組み、工夫し訓練を実施し、成果を上げているにもかかわらず介護保険制度の枠に縛られ、ほとんどの事業所は経営が困難な状況にある。理由はいろいろあるが、デイケアや訪問リハビリのような「リハビリ実施・実績・計画等の加算」がないこともその一要因である。

言語機能訓練施設は、全国に52万人余りと推察される失語症者の社会参加・復帰促進のために必要不可欠な施設であり、既存施設の存続と新規施設開設促進のために、現状に即した制度の是正を願っている。

現在、当事業所は平成29年度からの自立訓練(機能訓練)に係る基準該当障害者福祉サービス実施に向け申請中である。原因疾患にかかわらず、失語症と診断された「失語症のある方へ言語回復機能訓練が提供できる施設」という設立当初の目標の一歩手前まで来ていることをご報告する。

(そのだなおみ 株式会社言語生活サポートセンター代表取締役、NPO法人日本失語症協議会副理事長)


【注釈】

「失語症の方とご家族の生活のしづらさに関する調査」(2013年)、「失語症の方の就労に関する調査」(2014年)等。