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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

1000字提言

「スーパー猛毒ちんどん」

雨宮処凛

今、猛烈にハマっているバンドがある。

ライブはまだ一度しか行けていないけれど、そのバンドの存在は、私に天地がひっくり返るほどの衝撃をもたらしてくれた。

そのバンドの名は、「スーパー猛毒ちんどん」。なんと、障害者がやっているバンドだ。

昨年11月、初めてライブを観た時の衝撃は忘れられない。顔を白く塗り、着物やドレスなどの派手な衣装に身を包んだ総勢二十数人のメンバーたちは、全身全霊で自分たちの体験を歌った。

「おれたちは先生にいじめられた 養護学校の先生にいじめられた 動きがのろいって蹴られた こんなのもできないのって殴られた」(「いじめ」)

「知的な会話にもうんざりだ 原発なんかどうでもいい いますぐ世界が終わりゃいい センズリもできない寝たきりのオレに 君は優しいけれど 君に襲いかかる狼になりたい」(「怨歌」)

歌詞はどれも強烈だ。だけどステージで歌い踊るメンバーの姿は楽しそうで自信に満ちていた。ライブ中、今にも爆発的に泣き出しそうで叫び出しそうで、もう正気を保っているだけで精一杯だった。だけど多幸感にも満ちていてデタラメに楽しくて、そしてそこには剥き出しの生命力みたいなものが溢れていて、障害者とか健常者とかそんな概念はどこかに吹き飛んで、ただただ彼ら彼女らのパワーに圧倒されていた。狭い客席には人がひしめきあっていて、その中には、真剣なまなざしで彼らのパフォーマンスを見つめる車椅子に乗った若い男性もいた。

彼らはさいたま市の障害者団体「虹の会」が運営するリサイクルショップで働く人々だという。知的障害の人が多いそうで、バンド活動は仕事のあとにするという。バックバンドのメンバーは普段は一般企業で働く人たち。曲の歌詞は、みんなで経験を出しあって、ホワイトボードに書きながら作られていくという。字の読めない人もいるので、そういう人には耳で歌詞を覚えてもらうそうだ。そうして、彼らにしか作れない、彼らにしか歌えない名曲がたくさん生まれた。

「オレのあだなは『トクちゃん』 とくがくだから『トクちゃん』 1日誰とも話さない ばかがうつるって蹴られた ぶつかったら痴漢と言われ 給食は先生と2人」

特別支援学級を歌った「トクちゃん」という曲の歌詞だ。車椅子に乗った女性が歌う「あしがない」という曲も素晴らしいし、「アンタの障害者年金がなかったら一家が生活できないの」というきわどいタイトルの曲もある。

ああ、こうして書いていたら、ライブに行きたくなってきた。スーパー猛毒ちんどんは、私の中で世界一カッコいいバンドである。


【プロフィール】

あまみやかりん。1975年、北海道生まれ。作家・活動家。反貧困ネットワーク世話人。「公正な税制を求める市民連絡会」共同代表。格差・貧困問題、生きづらさの問題に取り組む。最新刊『一億総貧困時代』など著書多数。