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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年3月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

成人期重度肢体不自由者に対する余暇支援
「~楽しく体を動かそう~高校卒業後成人期グループ活動」の取り組み

小島匡治

はじめに

今回ご紹介するプログラムは、平成26年度から、筆者が勤務する障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下、ラポール)と横浜市総合リハビリテーションセンター(以下、リハセンター)との連携による、高校卒業後(以下、卒後)の生活を余暇場面から支援する取り組みです。ここでは、卒後~20歳代の脳性まひを中心とする重度肢体不自由者が、作業所帰りにスポーツセンターに集まり、仲間とスポーツに親しみ余暇を過ごしています。

リハセンターが、成人期を見据えて、療育段階からライフステージに沿った支援の整備を進めている一環となります。取り組みにあたり、学齢後期から成人期にかけてのリハビリテーションに対する肢体不自由児本人及び保護者の意識を調査しました。その結果、「親以外の人や一人での外出」、「自主トレや体調管理の自立」、「体格変化による身体機能の低下や二次障害、痛みの出現への対応」などのニーズを確認しました。

卒後の生活は、学校中心から仕事へ環境が一変し、ストレスや作業による身体的疲労などが生じます。在学中は運動の時間が確保されていますが、卒後は本人自身や家族のサポートで運動を行い、健康管理していかなければなりません。そのための運動の場所や方法の知識が必要になります。また、外出には家族の介助が必要となるため、その負担も増えます。以上の理由から生活が非活動的になると、二次障害に繋(つな)がり社会参加にも影響を及ぼすことが予測されます。

これらを背景として、卒後成人期に移行する段階に、運動習慣と余暇活動のきっかけを作る支援に取り組むことになりました。運動習慣と余暇活動の促進には、気軽に取り組むことができる環境と一緒に活動する仲間、自主的な活動の促しが大切で、特に楽しさは重要な要素となります。

プログラムの状況

プログラムは、第1・第3水曜日の16:15~18:00に通年開催。運動(ストレッチングと筋力トレーニング)と軽スポーツ(ボウリング、ゴロ卓球、ボッチャ)を実施。スタッフは、ラポール体育指導員3人、リハセンターセラピスト1人(理学療法士)、ボランティア2人(横浜市障害者スポーツ指導者協議会会員)。参加者は現在13人で、リハセンターに継続受診し、自力移動とグループ活動が可能なことが条件です。

移動手段は、電動車いす7人・自走式車いす5人・歩行1人。知的水準は中等度から軽度で、全員が特別支援学校を卒業しています。なお、活動中、家族の付き添いはありません。

プログラムは、始まりの会→運動→休憩→スポーツ→終わりの会で構成しています。

まず、始まりの会では体調とスケジュールを確認します。前者では、「フェイススケール」を用いて気分を聞き取ります(写真1)。感想の多くが、「仕事のストレスや疲労」、「睡眠不足感」、「体の強張(こわば)りや痺(しび)れ」などの訴えです。顔の表情の絵による確認で、疲れなどの自覚を促すとともに、気分に応じた行動が行えるように伝えます。たとえば、「体を動かすと気分がスッキリするよ」、「ゲームの合間に腕を伸ばしてストレッチしてね」、「疲れたらスタッフに声をかけて休憩するよ」など、主体的な体調管理を促します。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

後者では、1日の流れを確認します。特に、スポーツを始めるまでの準備の自立を目指します。たとえば、ラポールにあるボウリング場の利用で、「申込用紙の記入」、「受付スタッフへの挨拶」、「申込用紙の提出」、「車いすのタイヤを拭く」(写真2)などの手順をスモールステップにして、それぞれができることを分担します。参加者同士で行えない作業は、ボランティアへ援助依頼するように伝えます。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

次に運動は、理学療法士(以下、PT)とともに、自宅や職場でも行える座位や寝て行うストレッチングと筋力トレーニングのパターンを作り、繰り返して行なっています。リハセンターの機能訓練場面との繋がりも持たせて、運動の日常化を促しています。

休憩では、休憩時間の過ごし方を習得します。たとえば、水分補給で鞄に入れていた水筒を出したいときに仲間やボランティアへ声を掛け、援助を依頼できるように促します。雑談もこの時間の楽しみの一つです。雑談場面を意図的に設定して、会話による交流を引き出します。

休憩後のスポーツは、運動面と視知覚認知面の能力を考慮したグループで取り組みます。たとえば、運動面では、卓球用具の工夫、ラケット操作時の姿勢や動作の改善などをPTと行います(写真3)。認知面では、視覚情報の捉え方の弱さに対して、ボウリングのピンと投球補助具の位置が適切に理解できるよう、視覚的な手がかりを活用するなどの工夫を、作業療法士と行なっています(写真4)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3、4はウェブには掲載しておりません。

また、審判や時間計測係りなどの役割を設定し、それぞれができることを分担したり、見学時の応援や他者がミスしたときに励ますなどの行動を促したりしています。十分な課題理解と円滑な動作を引き出すことは、できた自信と意欲を高めると考えます。

終わりの会では、その日の活動を振り返ります。活動後の気分を「フェイススケール」で聞き取ります。それぞれの感想にあわせて、体を動かす大切さを実感させるとともに、ナイスプレー場面、仲間との協力、主体的な体調管理や援助依頼の場面を肯定的にフィードバックし、行動の定着を図ります。そして、次回の活動内容を伝え、スケジュールの自己管理を促します。また、プログラムで培った活動スキルを生かして参加可能なラポール主催のイベントを案内し、参加機会の拡充も図ります。

参加者の様子と今後について

「フェイススケール」の数値は、毎回実施後に好転しています。実施前のストレスや疲労の訴えは、「卓球のラリーが続いた、ストライクが取れた、などの成功や達成の喜び」、「体を動かした爽快感や心地よさの実感」、「仲間からの応援や協力の喜び」、「失敗を受容して、次に頑張ろうという意欲の高まり」などに変化しています。また、仲間を愛称で呼びあったり、名札を自己管理したりと、自立的な行動も徐々にみられています。

そして、参加者同士で声を掛け合い、ボッチャやボウリングの大会に参加したり、ラポールにあるレストランでランチをしたりと、参加の場も広がっています。

今後は、ラポールやリハセンターのスタッフが介入せずに、現在の参加者同士でボランティアとともにスポーツ活動が自立的に行われるように定着を図ります。そのため、障害特性を理解して対象者の主体的な行動を引き出し、ともにスポーツを親しむボランティアを育成します。また、ラポール以外の活動参加を視野に、重度肢体不自由者が参加可能な場のリサーチや、地域資源との連携を進めます。

(こじまきょうじ 横浜ラポールスポーツ課)