音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年4月号

障害者差別解消法施行1年と熊本地震

東俊裕

1 はじめに

2013年6月26日に公布された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号)は、2016年4月1日に施行された。施行まで3年近くの時間をかけたのは、行政向けの対応要領、民間事業者向けの対応指針と呼ばれるガイドラインを作成し、禁止される不当な差別的取扱いや提供が求められる合理的配慮の基本的な内容を周知させるためであった。

現在、国レベルでは38の府省庁において、地方公共団体ではほとんどの都道府県をはじめ、全体としては4割を超える自治体で対応要領が作成され、15の府省庁において、その所管する民間事業者向けの対応指針が作成されている(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html#cao_taiou 参照)。

こうした準備を経て昨年4月に同法は施行されたわけであるが、1年を経過して、その施行状況がどうであったのか、その検証が求められるところである。

しかしながら、施行直後に発生した熊本地震によって被災した障害者への支援に明け暮れた筆者にとって全般的な検証を行う余裕はないため、行政による災害支援に焦点を当てて、法の施行状況を検証することにしたい。

2 繰り返される過ち

障害者権利条約は、あらゆる分野の差別を禁止するだけでなく、各論の2番目(第11条)においては「締約国は、国際法(国際人道法及び国際人権法を含む。)に基づく自国の義務に従い、危険な状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)において障害者の保護及び安全を確保するための全ての必要な措置をとる。」としている。

このように自然災害を含む危機的状況における保護義務を締約国に課したのは、障害者が危機的状況に対して脆弱であるにもかかわらず、障害者は救援を受けられず放置されたり、後回しにされるなどの過ちが繰り返されてきたからにほかならない。

東日本大震災の場合、障害者の死亡率が一般に比べ2倍であったことが明らかにされている(NHK「福祉ネットワーク」取材班、本誌2011年11月号)が、災害後の支援においてもさまざまな課題が指摘されてきた。残念ながら、それらの課題はそのまま熊本地震に引き継がれることになった。

3 避難所からの排除

大災害が起こると、膨大な人が身近な避難所に駆け込み、そこで救援を待つことになる。熊本地震の場合も、避難者数はピーク時で183,882人で、避難生活は最後の避難所が閉鎖された11月18日まで約7か月にわたっている(第44回政府現地対策本部会議・第49回熊本県災害対策本部会議資料、2016年11月18日朝日新聞)。

障害者人口の比率を6%として単純計算すると、避難者18万人の中に障害者が約1万人ほどいても不思議ではない。避難所に行ったかどうかは別として、被災した障害者が何人であったかのデータはないが、決して少ない数ではなかったと思われる。

災害の発生によって障害者は障害のない人以上に最も身近な避難所へ避難して救援を求めざるを得ないことになるが、現実には、多くの障害者が身近にある避難所を利用できない状況にあったものと思われる。それは、避難所の物理的バリアや避難所運営側の障害への無知・無理解・偏見などにより、事実上排除されるからである。

たとえば、車いすでも利用できるトイレがない。視覚障害者は動けたとしても、足の踏み場もないほどにごった返している中ではトイレまで移動したり、救援物資の配給の列に並ぶこともできない。聴覚障害者には水や食糧の配給の情報が届かない。精神障害者や自閉傾向の強い障害者はごった返す人の中でパニックになったりして、避難所の管理者から人に迷惑をかけるなら出て行けと言われる。介助を必要とする障害者は、一人で避難所で生活することは極めて困難であるにもかかわらず助けてくれる人がいない。自分の子どもには発達障害があり、こうした騒然とした中で列に並んで配給を待つことはできないといくら説明しても、平等に並ばなければ配給できないと言って子どもには水も食料ももらえないなど、多くの障害者は、避難所での支援サービスから排除されていくことになる。

障害者が障害のない人と同様に避難所で避難生活ができるようにするには、これを阻む社会的障壁を除去するための合理的配慮が必要であることは東日本大震災でも指摘されていたところであり、当然想定しなければならないところであった。

しかも、必要とされる合理的配慮としては、物理的バリアを除去するための応急措置を講じたり、精神障害や発達障害の人が落ち着けるような小部屋を提供したり、音声情報だけではなく、その日の予定を書き込んだ模造紙を張り出したり、その他必要な人的なバックアップ体制を講じるなど、やる意思と知恵があれば、何とかできるようなことがほとんどであると思われる。

にもかかわらず、熊本学園大学やその他の少数の避難所を除き、災害直後から障害者を正面から受け入れる体制を構築した一般避難所はなかったと思われる。

4 バリアフルな応急仮設住宅

避難所の設置運営の次に用意される災害支援の柱は、応急仮設住宅の提供である。熊本地震では16市町村110団地4303戸が建設された(http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_15918.html?type=top 参照)。

しかし、熊本県が用意したこれらの仮設住宅は、10戸に1つの割合でスロープがあるものの、トイレはドアが狭くて車いすが入れず、お風呂に至ってはトイレのドアより狭く、しかも段差があるなどきわめてバリアフルな代物でしかなかった。トイレをする、入浴するといった住宅の持つ基本的機能を障害者だけに提供しないのは、合理的配慮の不提供という前に、不当な差別的取扱いともいうべき事態である。

バリアフリー法に基づく交通や建築物のバリアフリー化について長い歴史を有する日本で、なぜこのようなことが許されるのか、全く理解できないところである。おそらくは、こうした緊急事態においては、災害支援に携わる公務員の頭の中から障害者の存在がスッポリと消え去るからであろう。

熊本県との交渉の結果、バリアフリーな仮設住宅が建設されたが、たかだか6戸だけであり、お風呂やトイレに入れるようにするなどの合理的配慮として求められる個別の改修もいまだかって不十分な状態にある。

5 緊急時を想定した法整備

熊本地震では東日本大震災の時とは異なり、すでに差別解消法が施行されていたにもかかわらず、過去の大震災に学ばず、過ちが繰り返される事態となった。

こうした事態に決別するには、障害者権利条約第11条を踏まえ、この課題に正面から取り組むことが求められている。

具体的には、差別解消法については災害支援に当たって必要な合理的配慮の詳細な対応要領を策定することだけでなく、災害対策基本法や災害救助法に要支援の高齢者や障害者について避難所への誘導にとどまらず、避難後の避難所の運営や応急仮設住宅の供与において必要な合理的配慮、日頃の福祉サービスではまかないきれない災害時に必要とされる支援などについて、体系的に盛り込む法改正が必要と思われる。

(ひがしとしひろ 熊本学園大学教授、被災地障害者センターくまもと事務局長)