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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年6月号

列島縦断ネットワーキング【北海道】

メディア事業所って何?!
~人と人、人と情報をつなぐ新しい取り組み~

ここリカ・プロダクション

1 発足のきっかけ

北海道札幌市白石区にある、就労継続支援B型事業所ここリカ・プロダクション(以下、ここプロ。公益財団法人北海道精神保健推進協会が運営)は、2014年6月16日に開所しました。ここは「メディア事業所」を掲げており、情報弱者とも言われている障碍者の立場から情報発信を行なっています。

ここプロは、同じ法人が運営する独立型精神科デイケアである「こころのリカバリー総合支援センター」のプログラムから作られたという経過があります。デイケアでリハビリを終えた後に、どのようなところがあると良いのかという話し合いから始まり、自分たちが考えて作った事業所ならモチベーションも上がるということになりました。どのような仕事ができるのかという話し合いも続けられ、メンバーとスタッフが一緒になってアイデアを出しあいました。検討の結果、「情報発信」をキーワードに、メディア事業所としてスタートしました。

ここプロの特徴として、町内会の人たちを調理員として採用していることが挙げられます。おいしい料理を作ってもらえるだけでなく、事業所に町内会の人たちが出入りすることで、何を行なっているのか、知ってもらえています。さらに、町内会からは仕事の依頼や情報提供、近隣の町内会などに宣伝してもらうなど、さまざまな形で応援していただいています。

2 仕事をする上で大事にしていること

ここプロの仕事の仕方は、常に工夫をし、変化すること(自分自身が変わることができるという意思を持って仕事をしている)が特徴と言えます。

協働(パートナーシップ)、話し合い、チャレンジの3つが核になっています。ここプロは、開所時からメンバーとスタッフが話し合い、協働を大事にしています。

新しいことに取り組む時は誰しも不安になるものですが、ここプロにいる精神障碍者の多くは、障碍から、その不安が人一倍強く、変化に弱いという特性があります。そのため、見通しを立てるための話し合いをし、仲間と共にチャレンジするので、新しいことに取り組むことが可能になっています。

常に話し合い、良好な関係を維持して仕事を進める中で、自分自身と向き合わなければならないのは、メンバーもスタッフも一緒です。役割の違いももちろんあります。共通の部分と違う部分を意識し、協力しながら仕事を進めています。仕事を通して、メンバーもスタッフも共に成長しているという実感があります。

3 仕事の深まりと広がり

メディアの仕事はとても範囲が広いので、ここプロのメンバーはそれぞれの個性を活(い)かして働くことができます。場の空気を和ませる人もいれば、撮影の得意な人、編集などのパソコン作業の得意な人、企画が得意な人、大学での講義など人前で話すのが得意な人など、自分のストレングスを発揮できる場になっています。

代表的な仕事として、1.イベントや研修会などの撮影、編集、2.大学など福祉・医療の分野を学ぶ学生などへの講義があります。講義の仕事は、準備を通して、自分自身の障碍、人生と向き合い、人前で発表することで新しい自分を確立することに役立っています。

講義の内容としては、精神障碍の理解(統合失調症、発達障碍、高次脳機能障碍など)、支援のあり方、障碍を題材にした寸劇など、講義の内容は依頼先の希望に応じて設定しています。

今でこそ毎日忙しく仕事をしていますが、開所当初は「仕事を探すのが仕事」でした。自分たちで仕事を見つける、創り出すという主体的な動きが、モチベーションにつながっているかもしれません。

ここプロの仕事のスタンスは、「つながり」を大切にすることです。その結果、人の「つながり」でまた次の仕事につなげていく、という今の形ができあがりました。

その代表的なものが、浦河ひがし町診療所との関係です。通年で、米作り(田植え、稲刈り、収穫)を撮影、編集し、交流してきました。さらに、今年は「札幌国際芸術祭2017」に浦河ひがし町診療所のグループが選ばれ参加することになり、ここプロも一緒に参加しようと誘われ、共に音楽セッションをする予定です。

また、平成28年度に自主映像作品「カメラを持って飛び出そう」を制作し、「東京ビデオフェスティバル2017」に応募しました。作品は監督、脚本、出演、撮影許可申請もここプロのメンバー、スタッフで行いました。この作品は「TVF2017アワード」で140作品中40選に入り、東京で行われた表彰式に参加してきました。今年もまた前回よりも良い作品を作り、応募する予定です。

他にも、札幌市白石区役所複合庁舎地下2階で、毎月一度、自主映像作品を上映するイベントを行なっています。ここプロのある「白石区」をテーマに制作・上映しています。制作した作品を定期的に上映する機会ができ、張り合いがでるうえに技術も向上するという機会にもなっています。

また今年の4月から、コミュニティーFM「エフエムしろいし」で「つながるここプロラジオ」を、毎週火曜日15時から16時までの1時間生放送をしています(再放送毎週土曜日16時から17時)。メディア事業所として、今まで以上に「外への情報発信」という新たな一歩を踏み出しました。「エフエムしろいし」(83.0メガヘルツ)は、スマートフォンやパソコンで全国でもお聴きいただけます。

ここプロは現在進行形で、常に変化し、成長しています。

4 夢をかなえるメディア事業所

ここプロの仕事は先行きが見えにくい仕事です。一見、同じような撮影・編集の仕事でも、同じ場所で、同じ人が、同じ内容のものを撮影・編集して納品することはありえません。一般的に、精神障碍者は先行きが見えないものに対して手順・段取りが立てられなくて、健常者の人より何倍も不安を抱えているとも言われています。それでもアットホームで、笑いのある環境で仕事を行なっています。

映画監督の黒澤明氏の言葉を借りると、「映画とは、映画を見終わった後には、観客を晴れ晴れした気分にしなくてはいけない」。個人の言動、ここプロのチームとしての仕事、ここプロが作った作品…気持ちが晴れたと言われるのなら、その中に充実感を持続させる手がかりが隠れているかもしれません。それを探し、伝えるのもここプロの役割なのかもしれません。

ここプロは、障碍者の働く場であるだけでなく、みんなが夢や希望を出しあい、それに挑戦できる場にもなっています。一見、仕事に関係のないように思える「夢や希望」でも声に出して話せる機会があり、それを叶えるためにできることをみんなで考え、それが仕事の1つになり得ます。それが、ここプロらしさであればいいと思っています。

(板垣実(いたがきみのる)、岡本明広(おかもとあきひろ)、小松史枝(こまつふみえ)、菅原正和(すがわらまさかず)、鍋山健二(なべやまけんじ)、丸子慎平(まるこしんぺい)、山畑若菜(やまはたわかな)、渡辺亜美(わたなべあみ)、橋本達志(はしもとたつし))