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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

重度知的障害者の地域生活支援 障害者からの自立生活への提言
尊厳死ではなく尊厳生を

中西正司

東京大学の市野川容孝教授によると、相模原障害者殺傷事件と同様の施設職員や看護師による大量殺人事件はノルウェー、オーストリア、アメリカ、ドイツ、オランダなどと頻発している。

意思表示の困難な人たちへの命の軽視は、ALS、脳損傷による遷延性意識障害、そして重度の知的障害者の人たちにまで及んできており、「役立たない命」の軽視の克服は世界共通の課題となりつつある。

相模原事件で犠牲者となった人たちは、親が親亡き後を心配して施設入居を求めた場合と、行動障害があって地域に受け入れてくれるグループホームや日中活動センターがなくなり、行き詰まった結果、施設を家族が求める場合である。しかし、このような選択をした場合、現状では劣悪な施設しか選択肢は無くなる。知的障害者の中でも、特に対応が困難とされている行動障害者は地域でのマンツーマン体制の介助サービスを構築する以外に生きる道は無くなる。

A君は28歳男性、八王子市在住の重度行動障害者である。体重100キロ、身長180センチで暴れだすと親の手には負えなくなる。施設でも女性の甲高い声にはイライラして叩いてしまうなどのいざこざを起こす。家庭ではPCが故障すると混乱して、その場で代替品を用意できないと親にも暴力をふるう、などの事態で施設入居をさせたところ、施設職員に虐待を受け内蔵出血し、救急車で病院に搬送され九死に一生を得た。現在、重度訪問介護を使っての地域生活を目指して、地域の緊急一時保護施設、グループホーム、日中活動センターなどの連携で市の地域移行部会が核となって計画を進めている。

2017年より重度訪問介護が知的障害者や精神障害者にも使えるようになった。1日8時間以上の介助サービス利用者はこのサービスを使うが、知的障害者でこのサービスを使っている人は、今全国でも20人程度と思われる。行動障害者にこそこのサービスを使ってほしい。これによって施設で起こる虐待や殺傷事件を防げ、本人の主体性を尊重した自立生活が可能となる。

相模原事件は知的障害者の尊厳死を求める優生思想の復活版である。この法律が通れば知的障害者の尊厳死は合法化され、やまゆり園事件の再発は目に見えている。それは遷延性意識障害の高齢者にも適用され、命の軽視には歯止めが効かない事態となる。

(なかにししょうじ ヒューマンケア協会)