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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

スウェーデン:入所施設閉鎖と地域移行後の地域生活者支援

河東田博

1 はじめに

筆者は、かつて重度・最重度知的障害児入所施設の職員だった。入所施設で働いていて、利用者が自ら望んで入所してきたわけではないことを知った。どんなに建物が立派でも、どんなに人手があっても、利用者の生活の質が良くなるわけではないことを知った。そのため、働き始めて12年経った1986年3月末、入所施設を必要としない社会づくりを目指したいと思って施設を辞めた。以後、5年間スウェーデンで暮らし、その後も毎年のようにスウェーデンを訪れている。

長年にわたるスウェーデンでの生活や訪問を通して、地域生活支援策が整っていれば、どんなに障害が重い人たちでも地域生活が可能だということを知った。また、地域生活支援策の検討には、障害当事者の視点や参画が欠かせないことも知った。

2 入所施設閉鎖に向けた動きと地域生活支援策

スウェーデンで初めて入所施設閉鎖を打ち出した法律が、1985年に制定された精神発達遅滞者等特別援護法(以下、「新援護法」と略記)である。新援護法は、世界で初めて知的障害者に「自己決定権」を認めた法律でもあった。1994年から施行された機能障害の援助とサービスに関する法律(以下、「LSS」と略記)では、特別病院と入所施設の閉鎖計画を1994年末までに策定するよう各県に命じた。1997年には特別病院・入所施設解体法が施行され、1999年12月末日までに全国の特別病院・入所施設を閉鎖することになった。特別病院や入所施設が閉鎖されたということは、地域生活支援策が整えられたということを意味していた。

スウェーデンの地域生活支援策には、ホームヘルプサービスなど社会サービス法に基づくものと日中活動などLSSに基づくものがあるが、地域生活者一人ひとりにあった支援を創り出していくためには、社会的な支援をシステムとして創り出し、機能させていく必要がある。

3 地域移行後の地域生活者支援の実態

地域移行後地域で生活を送るようになった人たちは、地域生活を送る上で必要なサービスをうまく使いこなしていかなければならない。そうすれば、地域生活に対する満足度も高まっていくはずである。

筆者は、2008年から2009年にかけ、スウェーデンに滞在しながら、地域移行後の地域生活者支援の実態を調査1)した。以下は、その調査結果の概要である。

調査対象者(19人:男8人、女11人)の「平均年齢」は63.7歳(男59.4歳、女66.9歳)、「年齢幅」が51~87歳(男51~67歳、女55~87歳)、全員が「未婚」(子どもなし)、平均「施設在所年数」が29.5年、平均「地域生活年数」が22年であった。半数近くが早くから施設に入所しており、学校教育を受けていなかった。

地域移行後の「生活形態」は、全員がグループホーム(ほとんどが家的機能を持つ広いグループホーム)だった。大多数(63%)がデイ・アクティビィティ・センター(以下、「DC」と略記)で日中活動を行い、全員が普通に暮らすことのできる障害基礎年金または老齢年金を受け取っていた。「家事」の面で支援を必要としており、週末も支援を受けていた。「近所付き合い」は、挨拶程度(68%)しか行われておらず、隣近所との付き合いが希薄だった。

一方で、多様な余暇活動を行なっていた。一人でまたはグループホームの仲間と一緒にTVを観たり、CDを聴いていることが多かったものの、職員や仲間と一緒に近所に「外出(散歩)」(47%)をしたり、ガイドヘルパーなどと一緒に「付き添い外出」(16%)を行なっていた。一方で、多くの人たちが「一人でいる」(37%)ことが多かった。

4 地域生活者支援の特徴

スウェーデンの地域生活者支援策には、他の人と同様の生活を保障しようとする社会的試みと、その結果生じる孤立・孤独解消に向けた数々の社会的努力が見られており、今尚その努力が続けられている。それらの地域生活者支援策の中から、以下、3つの支援策を取り上げ、その特徴を見てみたい。

(1)家的機能を持ったグループホーム

児童・青少年のためのグループホームは、成人(20歳)まで利用でき、その後は成人用グループホームに移行する。成人用グループホームには、65歳になるまで入居することができる。65歳以降は、高齢者用サービスハウスに隣接した高齢者用グループホームに同居者と共に移る。

成人用グループホームにはさまざまなタイプのものがあり、1人用住宅や2人用住宅を組み合わせてグループホームとしているものや、4人用グループに付属しているものもある。4人用グループホームには、原則として24時間介護の必要な重度の人たちが住んでおり、各自が機能的な広い空間(40平方メートル前後の台所兼食堂・居間・寝室・トイレ・浴室・WCを有する「家」的機能を持った住まい)に住むことができるようになってきている。

グループホームは4~5人用が基本で、5~6人の職員が配置されている。重度加算があるため、10人前後の職員が配置されているところもある。

(2)自己決定を支えるパーソナルアシスタンス制度

パーソナルアシスタンスは、「障害のある人一人ひとりが自分自身の介助システムを注文・企画して、介助者の配置・計画・訓練・雇用・解雇に至るすべての決定をする」2)という自己決定に基づく制度である。「直接給付型」で、余暇活動や文化活動にも適用されている。

どんなに障害が重い人たちにも適用可能な制度で、重症心身障害者の全国組織JAG(「連帯・平等・自立」の頭文字をとって組織名としている)のメンバーもこの制度を利用し、パーソナルアシスタントの援助を受けて地域生活を送っている。この制度を有効に活用することによって、JAGのメンバーの地域生活が保障されるようになった。また、この制度を利用し、協同組合を立ち上げるグループも見られるようになってきた。

こうしたグループでは、メンバーが出資者となり、自ら理事会を構成し、職員を雇用して日常の仕事や活動を行なっている。さらに、この制度を重度知的障害者用グループホームにも適用し、職員の代わりにパーソナルアシスタントを雇ってグループホームを運営しているところもある。

(3)友達の輪を広げるコンタクトパーソン制度

コンタクトパーソン制度は特別なサービスの一つで、LSSには「個人的関心を発達させ、自分の友達を持ち、他の人と同様の個人的ライフスタイルを持つことができるように支援するために欠かせない人的援助手段である」と明記されている。

孤独な思いで暮らしている地域生活者がいる。そのような人たちに友達をつくってほしい、社会の空気も吸ってほしいと願ってこの制度が生まれた。

コンタクトパーソンは「友達のような存在」だが、このような人がいてくれれば、地域生活を豊かにしていくことができる。銀行への付き添いにも使えるし、一緒にコンサートに行くなど余暇活動時にも使うことができる。このような役割をもった人を得ることによって、人と人との繋(つな)がりの輪が広がっていくのではないかと期待されている。

5 おわりに

地域生活者たちは、自分の年齢や機能的な衰えとも相談しながら、自分に適した日中活動所に通い、さまざまな制度を活用し、社会的な支援を受けながら、自分に合った、自分のやりたいことに取り組んでいる。また、多くの人たちからさまざまな支援を受けながら社会的経験を積み重ね、人と人との関係の輪を広げ、地域生活を意義あるものにしようと着実に歩みを進めている。

(かとうだひろし 浦和大学)


【注】

1)筆者が行なった地域生活支援実態調査結果は、下記文献に所収されている。
河東田博『脱施設化と地域生活支援:スウェーデンと日本』現代書館、2013年

2)パーソナルアシスタンスの定義等は、下記文献に記されている。
アドルフ・D・ラツカ(河東田博・古関―ダール・瑞穂 訳)『スウェーデンにおける自立生活とパーソナル・アシスタンス』現代書館、1991年