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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

1000字提言

望むのは、傍観しない社会

柴本礼

「高次脳機能障害というものを、もっとみんなに知ってもらいたい」という1人のディレクターの熱い思いにより、拙著『日々コウジ中』が「ザ・世界仰天ニュース」という人気番組に取り上げられてから6年も経つのだが、この障害の認知度は当時とあまり変わっていないように思える。

ドラマ自体は本の内容に忠実に描かれてはいたが、番組全体としての障害の取り上げ方は疑問が残るものだった。司会者やゲストたちはこの障害について語り合うのではなく、テーマを夫婦愛に絞り、自分たちの恋愛や結婚観を話すことに終始したからである。本が出版されテレビにも取り上げられ、すっかり「この障害には日が当たっている!」と喜んでいた私は、勘違いしていたにすぎない。芸能人のプライベートな話とセットにしないと国民の関心を惹(ひ)かないというこの障害の位置づけの低さを、改めて突き付けられた気がして愕然(がくぜん)としたのだった。

そもそもこの国には、自分に直接利害が関係してこないものには興味を持たない、関わろうとしない人が多いようである。つまり、障害・病気・貧困・被災・人種的偏見や難民問題に至るまで、いわゆる社会的弱者と言われる人たちの苦しみを想像し、問題を共有しようとする人が少ないのだ。言うなれば「当事者」であろうとはせず、多くの人は気楽な傍観者であることを選んでいる。こんな傍観者だらけの社会では、支えが必要な人たちが幸せになれるわけがない。否、人は等しく支え合っているのだから、皆が幸せになれないのである。この国は、残念ながらまだ互いに助け合うという基本的なことができていない、未熟な国なのだ。

さて最後に、これからの課題を述べたい。まずは、高次脳機能障害がきちんと病院で診断されること。医師が診断しない病院のスタッフには、「ほかの病院で診断を受けた方がいいですよ」と患者家族に耳打ちしてくれることさえ望む。さもないと、この障害に良いリハビリを受けたり、家族会の情報、障害年金や手帳の取得、障害者枠での就労など、診断の向こう側に広がっている世界へつながっていかない。

当事者家族には臨床心理士ら専門家が相談に乗り、リハビリには効果が期待されるグループ療法や音楽(運動)療法などを取り入れてほしい。障害が軽度の人、重度の人、柔道事故による受障、子どもの当事者、運転はどうするか、介護者亡きあと、など考えるべき課題はまだまだ山積している。

高次脳機能障害をもつ人たちの障害症状がさらに改善し、より良い人生を送るためにも、今より理解と支援が進んだ社会という海で、のびのびと泳ぎ回れる日がきてほしい。また、最近は当事者本人が発信することも増えてきたが、今後はそうした方たちが社会をさらに変えていってほしいと思っている。


【プロフィール】

しばもとれい。1963年生まれ。イラストレーターとして仕事をしていた2004年に、夫がくも膜下出血から高次脳機能障害を負う。夫のリハビリと社会復帰を支えたあと、主婦の友社よりコミックエッセイ『日々コウジ中』『続・日々コウジ中』を出版。現在は家族会「コウジ村」の代表を務めつつ、講演活動を行なっている。