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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年7月号

ワールドナウ

第17会期 障害者権利委員会
―カナダの審査を傍聴して

佐藤久夫

13人でスイス・ジュネーブへ

JDF(日本障害フォーラム)は2017年4月1日から6日まで、障害者権利委員会(以下、委員会)でのカナダの審査とそれをめぐるカナダNGOのロビー活動を見学してきた。JDF阿部一彦代表をはじめとする総勢13人で、筆者もJD(日本障害者協議会)からの派遣で参加してきた。

主な日程は表のとおりで、これ以外の時間帯に石川准さんなど4人の委員会委員と懇談がもてた。

2日(日) 14:00~17:00 カナダNGOの会議(3日のブリーフィングの準備)
3日(月) 11:30~13:00 委員会へのカナダNGOブリーフィング
15:00~18:00 委員会とカナダ政府の建設的対話(前半)
4日(火) 10:00~13:00 委員会とカナダ政府の建設的対話(後半)
14:30~17:00 カナダNGOの会議(総括所見への提言づくり)
18:00~20:00 カナダ大使館によるレセプション

カナダNGOのロビー活動

国連の障害者権利条約(以下、条約)の締約国審査はかなりWEBで可視化されており、パラレルレポートを含むすべての資料(添付資料を除く)も建設的対話(動画と議事要録)も公開されているが、現地に行ってみると、WEBでは分からないNGOの委員会に対する働きかけの様子が分かる。そのうえ、今回はカナダNGOの特別の許可で、本来非公開とされている委員会へのブリーフィングの会場にわれわれ傍聴団も入室できた。

筆者が驚いたのは、IDA(国際障害同盟)のスタッフ(イグナチオ氏)が委員会とカナダNGOとのパイプ役を果たしていることだった。

3日の委員会への1時間のブリーフィング(結果的に開始が早まり1時間半となった)の準備のために、2日(日曜日)の午後、イグナチオ氏の司会のもとでカナダNGOが会議を持った。氏は「この1時間はあなた方が言いたいことを言う場ではなく、委員が聞きたいことに答える場だ」と言った。

さらに、3日のブリーフィングや3、4日の建設的対話で委員にどんな発言をしてほしいかの「モデル質問文」があれば、今夜中に私に知らせてほしいとも言った。また建設的対話の休憩時間や夜に、委員に個別に接触して説明することを勧めていた。

さらに、「建設的対話」が終わった4日の午後、イグナチオ氏はカナダNGOと3時間ほど話し合い、「カナダに対する総括所見への提言」をまとめていた。カナダ担当報告者(デヘナー氏)が総括所見の素案を作成する前に参考にしてもらうべく、最後のロビー活動をしたものといえる。この提言はおそらく最終素案に反映されて委員に送られ、10日には委員会で討議・採択された。

もちろん、NGOとして最も重要なのは説得力あるパラレルレポートを作ることだが、そのうえに、さらにジュネーブの現地でもロビー活動の余地があり、委員会への直接の働きかけが委員会からも歓迎されていることがよく分かった。

18人の委員のメールアドレスを公開すると混乱するので、IDAのスタッフが調整役として存在しているものと思われた。

委員会と政府・NGOの間の議論のポイント

多くの興味深いやり取りが見られたが、その中のいくつかを紹介する。

まず、監視機関の指定をめぐる議論。政府に対して「政府からの独立というパリ原則を満たしているカナダ人権委員会があるのに条約33条が求める監視機関の指定をしないのはなぜか」と問われた。政府は、「カナダ人権委員会だけでなく連邦と州の政府、州の人権委員会、NGOなどが総合的に監視する」と答えた。独立した機関がなくて監視に使えない日本から見れば、あるのに使わないとは不思議な話である。

筆者の推測では、この指定がなされれば州・准州の独立性を認めた憲法に違反するという意見があるからではないかと思う。カナダの締約国報告は20頁を連邦政府が執筆、残り40頁を13の州・准州が数頁ずつ執筆している。

分権化が進んだ国で、条約の統一的な「監視」をどう確保するか。そしてその前に、各州が独自に法律を制定できる中で、条約の統一的な「実行」をどう確保するか、多くの委員から質問が出された。政府代表はまとめの言葉で、カナダはユニークな統治体制を取っているが機能していると思う、と胸を張っていた。

認知症とLGBT(性的少数派)の人々の取り上げ方にも注目された。2日のNGOの会議では、アルツハイマー協会とLGBT団体の代表が参加していた。アルツハイマー協会は第2回目のパラレルレポートではじめて提出団体として名を連ねていて驚いたが、ジュネーブにまで代表を派遣していた。LGBTはパラレルレポートでも触れられていなかったが、最終段階のジュネーブで活発なロビー活動を行なった。どちらも、自分たちはこの条約の対象であるのに排除されていると訴えていた。その訴えは受け入れられ、建設的対話での政府代表の結びの言葉でも、「カナダは努力をしてきたが、この建設的対話の機会にまだ何が足りないかを学んだ」と述べ、その文脈でLGBT団体の参加に感謝した。

こうした認知症とLGBTの団体代表の活動の成果が、カナダに対する総括所見に現れた。そこでは認知症は知的障害、多発性硬化症などの機能障害の一種として位置づけられたが、LGBTについては(機能)障害としてではなく「障害のある女性」、「障害のある先住民」などと同様の「障害のあるLGBTの人々」(第20項)という表現を使ったり、「LGBTと名乗る障害者」(第9項)という表現を使ったりしている。

この点について、カナダ人権委員会の最初のパラレルレポートでは、LGBTなどの人々が差別から保護されたり必要な支援を利用したりするために、医学モデル優勢の現行制度の下で、LGBTを精神疾患や(機能)障害と見なしてもらわなければならない面があり、これを直ちに改めなければならないと述べている。

石川委員、ブンタン委員などとの懇談

今回の傍聴団の目的の一つは、日本人で今回初めて委員に選出された石川准さんにお会いすることだった。石川さんは全盲であり内閣府の障害者政策委員会の委員長、静岡県立大学教授でもある。他の委員から「新任とは思えない」と高く評価されていた。アルメニアの審査で、「差別禁止法が無いが権利保護の制度が必要ではないか」と質問したことに対して、その国の障害者団体から感謝されるなど、手応えを感じている様子だった。

知的障害の当事者として、初めて選出されたロバート・マーティンさん(ニュージーランド)も元気で、カナダ政府に対して意識の向上と医療に関する質問をしていた。

2期目に入ったタイのブンタン委員は、パラレル報告について重要なことを我々に伝えてくれた。パラレル報告で大事なことは科学的な証拠を示すこと、統計的な事実を示すこと。感情的、理念的な主張をしてもあまり影響はない。良いパラレル報告の例は、ニュージーランド、デンマーク、オーストラリア。これらは総合的な情報を提供し、またその国の良い点も悪い点も紹介している。パラレル報告がないと、委員会としては標準セットの事前質問事項を使わざるをえない、と。

(さとうひさお 日本障害者協議会理事)