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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

時代を読む94

日本福祉用具評価センターの設立

一般社団法人日本福祉用具評価センター(通称JASPEC)は、神戸空港や世界第2位のスーパーコンピュータがある神戸ポートアイランド(PI)に設立し、今年で13年目を迎える。業務内容は、福祉用具を安全に使用するための環境づくりである。福祉用具の工学的な安全性確保のための製品試験や、臨床的評価、用具を安全にメンテナンスできる人材の育成、福祉用具関連専門職を対象にした研修会開催、国からの受託研究事業等を生業としている。

2003年2月、車椅子業界団体事務局長であった筆者は、ある介護用品大手卸会社の役員からの電話を受けた。

「弊社は神戸市が推進する『医療産業都市構想』誘致に応じ、PI内に拠点をつくる。但し、直接ビジネスをしないことが神戸市からの条件であるため、車椅子など福祉用具の安全性チェック機関が設立できないか相談したい」

この電話の前年、国民生活センターが「試買試験」として、市場にある手動車椅子の走行耐久性試験を実施し、試験結果を公表していた。手動車椅子のJIS規格では、当該車椅子の最大使用者体重に相当するダミーを載せて駆動輪を20万回転させ、支障を来さないことが走行耐久性条件となっていた。ところが結果は、検査した3メーカー6機種すべてが20万回転に至る前に金属フレームに亀裂が生じる等の不具合が生じたのである。

「これは単に車椅子という製品あるいは業界だけの問題ではなく、極論すれば、JIS制度の信頼性にも関わる事態であることを認識して、業界として対応策を講じてください」

公表後、経済産業省の担当者から言われた言葉である。この言葉を待つまでもなく、製品の安全性をいかに高めるかが業界の課題となっており、「車椅子試験センター」の構想を練っていたタイミングでの出来事だった。

このような時期の冒頭の電話である。構想を神戸進出プロジェクトに練り直すことにしたのである。課題は、資金であった。大手卸会社がスポンサーとなることは願ってもないことだったが、第三者試験所としては、その会社の影響下に置かれることは避けなければならなかった。そのため、福祉用具に関係する団体・企業を訪問し、設立趣旨を説明する日々を続けた。結果、設立に必要な基金を集めることができ、翌年11月に設立登記に至ったのである。

設立当初は、「措置時代」の名残なのか供給者側の安全性意識が不足していた。試験機等の設備投資に見合う受注がなく、組織運営継続が危ぶまれることがしばしばあった。しかし、すべての役職員は、「安全な用具を利用者に安心して使用いただく環境をつくるのだ」という覚悟と、「次代に必要なこと」という信念を持ち、苦しい坂道も乗り越えてきた。

現在では、国や東アジア諸国からも注目される「民間の福祉用具専門製品試験所」になったと自負している。

(鈴木寿郎(すずきとしろう) 一般社団法人日本福祉用具評価副理事長・センター長)