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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

障害者が直面する問題(肢体障害者)

鈴木千春

私は車いすを使う生活を始めて25年になります。当時、出かけるに際には、「駅にエレベーターがあるか」「トイレは移動経路上のどこにあるのか」という心配を常に抱いていましたが、エレベーターや車いす用トイレの普及等により、大阪市内においては、事前に調べなくても出かけられるようになってきました。今では、まちを行けば、多くの障害者とすれ違うことが当たり前になっています。

最近は、「ターミナル駅の乗り換え経路が分からない」「排泄時にはベッドが必要だが、どこにあるか分からない」「ストレッチャータイプの車いすでは大きなエレベーターがどこにあるか分からない」というような問題点が指摘されています。

今回、大阪で交通アクセスの改善に対して、長年にわたり障害者が声を上げてきたことを紹介したいと思います。

1976年に結成された「誰でも乗れる地下鉄をつくる会」は、名称の通り、車いすのみならず誰もが乗れることを掲げました。地下鉄のエレベーター設置を求めて大阪市交通局に対し、4年にわたっての地道な話し合いを15回重ねた結果、1980年に、日本初の地下鉄エレベーターが谷町線喜連瓜破駅に設置されました。

以後、障害者団体との継続した話し合いも重ねられ、「エスカレーター・エレベーター整備5カ年計画(1991年策定)」、「第1次ええまち計画(1993年策定)」、「第2次ええまち計画(1997年策定)」により、エレベーター整備等が進められてきました。

2011年には、大阪市営地下鉄全駅(ニュートラム含む)で、ホームから地上までエレベーターでのワンルートが達成され、2013年にはすべての乗換駅における経路のワンルートが達成されてきました。その他にも、1列車中の車両ごと1か所の車いすスペースが設置されていますし、ホームゲートの設置の際には、ホームと車両の段差と隙間(すきま)の解消をセットで検討するよう話し合いを継続しています。

その結果、ホームゲートが設置された長堀鶴見緑地線・今里筋線・千日前線(既存線)いずれも、ホームと車両の段差と隙間の解消がなされ、多くの車いす利用者が駅員による渡し板介助が不要となり、単独乗降が可能となってきています。

また、大阪市交通局バリアフリー化モニター会議の委員(公共交通機関を日常的に利用する障害当事者)との検証や意見交換を重ね、さまざまな障害者の移動負荷を改善する策が検討されてきました。

たとえば、電光車内案内が始まる以前から、紙ベースの駅案内情報に各駅の扉開閉方向を表示することによって降車時の不安を解消することや、車内扉の車両位置の点字案内の高さについても、視覚障害者の通学時における視覚障害者の1人移動を考慮して検討されてきました。

しかし、車いすスペースの設置数に関して、国土交通省の「公共交通機関の車両等に関する移動等円滑化整備ガイドライン(バリアフリー整備ガイドライン(車両等編))」では、「標準的な内容」として「客室には1列車に少なくとも1以上車いすスペースを設け、車両編成が長い場合には、2以上の車いすスペースを設ける」と、そして「望ましい内容」として「車いす使用者が車両又はエレベーター等の設備まで最短距離で移動できるよう、1車両毎に1カ所の車いすスペースを設置することが望ましい」とされている状況です。

車いすをはじめ、ベビーカーや大きな荷物を持つ旅行者など移動困難者と言われる人たちのフリースペースを求めるニーズは、今後さらに増すことが予想されており、法やガイドライン等は環境整備が進められるようなものでなければなりません。

今も大阪には多くの課題があります。たとえば、駅から他社線への乗り換えにおいて迷うという問題です。案内サインの表示は、主経路として、階段ルートで設定されている場合が多くあります。エレベーターは後付けで設置されたことが多いため、分かりにくく遠い場所に設置されることが多く、エレベーターを主経路とする移動者にとって、「表示が無くて、どこにエレベーターがあるのか分からなくなって迷う/困る」ことがあります。

特に、地上を移動していると、地下駅や地下街に向かうエレベーターが見つけられないことや、地上にエレベーターで上がると、周辺案内サインが無くなり、方向感覚を失ってしまう状況にある人を見かけることも増えています。

これらの課題からも分かるように、「2本の足で歩く大人の健常者」しか想定されていないまちのつくられ方に問題があり、移動の多様性に応じて、障害者をはじめとする移動困難者の声を聞くこと、困っている声を聞き続けることが重要であり、それぞれの自治体/地域でのバリアフリー基本構想制度の継続協議のような協働しスパイラルアップしていく仕組みが重要となると考えます。活(い)きたまちづくりを目指し続けていくためにも、さらに一人ひとりが声を上げていきましょう。

(すずきちはる 自立生活センター・あるる)