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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

フォーラム2017

日本障害フォーラム(JDF)障害者権利条約のパラレルレポート作成に向けた取り組みについて

市民社会団体としての取り組みとパラレルレポート作成の意義

阿部一彦

本年4月1日~6日にかけて、JDF傍聴団の代表として第17会期障害者権利委員会のカナダ国審査の過程を傍聴し、カナダ市民社会団体(障害者団体等)のメンバーや、障害者権利委員会委員数名(今年から着任した石川准氏を含む)と意見交換する機会を持った。また、通常は非公開である、市民社会団体と権利委員の国別ブリーフィングにも同席させていただいた。そして、2020年春に予定されるわが国の審査に向け、市民社会団体としてのJDFの役割の大きさを強く認識した。

障害者権利条約の推進を目的に結成されたJDFとその構成団体は、条約締結のための集中的な法制度の改革や、昨年6月に障害者権利委員会に送付された政府報告書作成作業の監視等に関わった。今後は、条約締結後の現状やさまざまな取り組み等を分析・評価し、さらにそれらの取り組みの推進に協力するとともに、それでもなお残る課題を明確化し、課題解決のための方向性について検討してパラレルレポートを作成する必要がある。

障害者権利委員会において的確な審査が行われ、わが国に対する適切な総括所見や勧告が作成されるためには、パラレルレポートが大きな意義を持つ。

また、障害者権利条約の意義やその大きな影響力について、多くの人々や組織等に周知する活動を展開することも重要である。

なお、権利条約に関わるこれまでの活動や今後の取り組み予定については、それぞれの担当者から述べる。

(あべかずひこ JDF代表、日本身体障害者団体連合会会長)


障害者権利条約に関わる活動の経緯

原田潔

JDFは2004年の設立以来、障害者権利条約の推進に取り組んできた。2002~06年にニューヨークの国連本部で開かれた、条約策定に向けた特別委員会での交渉に、延べ200人のJDF関係者を派遣するとともに、2006年の条約採択以降は、日本の批准に向けて、政府との意見交換や、超党派の「国連障害者の権利条約推進議員連盟」との連携などを通じて、国内法制度改革を民間の立場で進めてきた。

2014年の批准以降は、締約国としての条約実施を進める取り組みを行なっている。その核となるのが、条約の実施状況について、市民社会から国連に提出する「パラレルレポート」の作成である。

締約国は、条約の実施に関する国家報告(政府報告)を定期的に提出し、国連・障害者権利委員会での審査を受けることとされているが、この審査にあたって、権利委員会では市民社会からのパラレルレポートを重要視している。また権利委員会における「建設的対話」と呼ばれる審査に際しては、その国の市民社会団体が参加し、委員への説明や意見交換を行うことができる。

JDFでは、パラレルレポートの作成に向けて、過去の権利委員会における審査の過程を継続的に学んできた。韓国から権利委員や障害者団体を招き、同国の建設的対話に関する経験を学んだり、イタリアのパラレルレポートの読み合わせをしたり、またカナダについては、阿部代表の原稿にあるとおり、ジュネーブで開かれた権利委員会に傍聴団を派遣し、建設的対話を実際に見聞している。

去る6月7日には、前述の権利条約推進議員連盟の総会が参議院議員会館で開かれたが、この機会に、JDFによる権利委員会傍聴報告会を併せて開催した。報告会には議連役員のほか、助成財団、関連NGOなどから約100人が参加した(写真参照)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真はウェブには掲載しておりません。

さて2016年に日本が提出した国家報告を受け、国連における建設的対話は2020年ごろになると言われている。JDFでは、今年度より「障害者権利条約パラレルレポート準備会」を設置し、骨子案の作成を始めるとともに、幅広い関係団体の意見を得られるよう、レポートの執筆体制づくりを行うこととしている。なおこれらの取り組みには、複数の助成財団から継続的なご支援を得ていることを特筆し感謝申し上げたい。

(はらだきよし 日本障害フォーラム事務局(日本障害者リハビリテーション協会))


応援メッセージ
権利委員会の傍聴報告を受けて、今こそJDFの結束強化を!!

田中皓

JDFが障害者権利委員会を傍聴され、課題解決のための方向性を示したパラレルレポート作成の重要性を認識されたと伺い、今後の活動に活かされることと力強く感じました。

思い起こせば、2003年10月にJDFの設立構想を初めて伺い、2004年1月には日本障害フォーラム準備会と助成財団有志団が初会合を開催しました。

以来、参画した助成財団は「損保ジャパン日本興亜福祉財団」「キリン福祉財団」「ヤマト福祉財団」「トヨタ財団」「三菱財団」「住友財団」ですが、国連障害者権利条約は少子高齢化の急進展する日本社会に大きな変革をもたらす、必要不可欠かつ重要な条約であるとの共通認識を持ち、JDFと共に歩むことを決意した熱い気持ちを改めて思い起こしました。

以来、権利条約の国連での承認(2006/12)、日本国の批准(2013/12)、権利条約の国内普及(2017/3)を節目として14年間にわたり活動を共にし、現在は第4期目として、充実したパラレルレポート作成への取り組み支援を開始しています。

障害者権利委員会における審査に堪えうるレポートの作成に向けては、JDFを構成する団体の拡充と、小異を捨て大同につく密接な連携強化が望まれ、そのことが、わが国の障害者福祉の向上並びに国民全体の福祉向上に資する活動に結び付くことを期待してやみません。

(たなかあきら (公財)助成財団センター専務理事)


JDFパラレルレポート準備会の設置

佐藤聡

国連障害者権利委員会は建設的対話(審査)に際し、市民社会から出されるパラレルレポートを重視している。障害者はどのような状況に置かれているのか、重点的な課題は何か、その国の障害者団体等の市民社会がどのように考えているかは、審査をする上での重要な情報なのである。

JDFはパラレルレポート作成に取り組むことになった。日本政府は昨年、第1回国家報告書を提出し、建設的対話は2020年春の第23会期とみられている。これに向けて、JDFとして、事前質問事項(本審査の前に出される質問)用と建設的対話用の2つのパラレルレポートを作成したい。

2017年度は、8月に「JDF障害者権利条約パラレルレポート準備会」を立ち上げ、第一案である「骨子」の作成に取り掛かる。パラレルレポートはさまざまな団体が独自に提出可能なのだが、できるだけ一つにまとめるよう望まれており、JDFとしても十分に議論を重ねていきたい。

当初は「準備会」としてスタートし、組織のあり方について丁寧な意見交換を行い、2018年度を目処に「準備会」の名称がない後継組織に移行したいと話し合っている。2018年度は骨子をベースに、事前質問事項用のパラレルレポート作成に取り組み、年度末に権利委員会に提出したい。

パラレルレポートとともにもう一つ重要なことは、ジュネーブの障害者権利委員会に行って、権利委員に直接働きかけることだ。2019年度の第22会期の終わりには、日本政府への事前質問事項が提出される見込みで、非常に重要な会期となる。ぜひとも代表団を派遣し、事前質問事項のワーキングに参加し、権利委員への働きかけを行いたい。

その後は、建設的対話用のパラレルレポート作成に取り掛かり、2019年度末には提出したい。そして、2020年はいよいよ本番を迎える。3~4月の第23会期と予想されている日本政府の建設的対話には積極的に参加し、市民社会が権利委員に対して行うプライベート国別ブリーフィングやロビー活動などを成功させたい。この一連のパラレルレポート作成を通じて、日本の障害者施策のさらなる発展に寄与したいと考えている。

(さとうさとし JDF条約推進委員長、DPI日本会議)