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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年8月号

ワールドナウ

デンマークの生活支援員(ペタゴー)育成システムに学んで

益本裕美

はじめに

2012年に放課後等デイサービスが新設され、事業所数3107か所、利用者数4万1955人から、事業所数9726か所、利用者数14万6202人になった(2016年12月)。

障害のある子どもの放課後保障全国連絡会(全国放課後連)の事務局として、私は活動の質を高めることを目的に全国各地で研修を開催しているが、条件さえそろえば開設できる仕組みである制度では、「儲け」を中心的な目的とする企業参入が後を絶たず、事業所によっては「子どもにテレビやビデオを見せているだけ」「子どものケガや事故が多発している」などの問題が指摘されている。さらに「子どもへの虐待が通報された」「報酬を不正に請求した」などの問題で処分を受けた事業所もある。

自信あふれるペタゴーとの出会い

私は、“福祉の商品化”がすすむ日本の現状に対し、どのように職員研修に取り組んでいけばよいかを探りたいと思い、NPO法人発達保障研究センターの主催する北欧視察ツアーに参加してきた。

デンマークには、保育士、放課後活動や学校での授業の支援、青年教育や介護などの仕事をする「ペタゴー(生活支援員)」という職種があり、さまざまな現場で重要な役割を担っている。その「ペタゴー(生活支援員)」は、大学で資格を取ると聞き、詳しく話を聞きたいと思っていた。

視察先の施設(事業所)で出会うペタゴーたちは、自信に満ちあふれ、笑顔で仕事をしていた。2015年に訪問した首都・コペンハーゲン市の青年余暇活動支援センターで、「専門性の学びとして、どんなことをされてますか?」という私の質問に、「船の操縦を学んでいる」と答えられた。この施設では、地域住民との交流や余暇活動のための自前の船を持っている、だから、そのための資格がほしい。ペタゴーとしての基本を大学でしっかりと学び、現場で仕事をしているからこそ、今必要な「専門的な」学びは、彼にとっては船の操縦資格だったのである。

ペタゴーを育成するリラベルト大学

アンデルセンで有名なデンマーク第3の都市・オーデンセンにあるリラベルト大学社会教育学部を2016年9月に訪れた。准教授メッテさん(哲学、老人学)がペタゴーの教育課程とそのねらいを話してくれた。

デンマークでは、1906年に貧しい子どもたちの保育園が開設され、1920年代~1930年代に「セミナー」という形で研修が始まり、その後ペタゴーという職種が生まれ、2007年にペタゴーの養成を大学で行うことになったそうだ。

ペタゴー養成のための「ユニバーシティー・カレッジ」は全国に8校ある。リラベルト大学もその一つであり、デンマーク南部エリアをカバーし、学生数7000人、職員700人。ペタゴーだけでなく、学校教員、ソーシャルワーカー、看護師、理学療法士、作業療法士など9種類の職業的学士を養成している。研究、追加の教育、教育研究センターの3つの機能を備えている。

学習環境は、教師と学生、学生間の議論によってそれぞれの考えを明確にしていく。教師は「コーチ」として学生に向き合う。議論や本を読む中で、さらに現場実習で よりベターな解決策を探して、仲間と議論する。

ペタゴーの養成は3年半。大学入学後2か月は学内授業、その後、オリエンテーリング的な9週間の実習がある。6か月の学内授業を終えると6か月の実習がある。その後1年間の学内授業、そして6か月の実習だ。以上が卒業までのスケジュールだ。

一般教科は、教育理論/国語・文化・コミュニケーション/個人と社会(集団との関係重視)/健康・身体・運動(自分自身を好きになること、身体に自信を持つこと)/表現・音楽・ドラマ(感情を表現できる技術)/手工芸・自然・技術/トレーニングである。とりわけ「他者との関係」「友達づくり」はとても重要と話された。

表現活動や音楽、ドラマなどの感情を表現する技術やコミュニケーションの授業では、自分を表現するだけでなく、直接処遇する相手の方の表現も読み取れることが目的となる。その話のなかで「民主主義的市民」という言葉が何度も出てきた。また、「自然、技術」では、土壌からテーブルに乗るまでをトータルに考えるという。これらは人と接するための技術、活動の幅を広げられる技能、社会の一員としての自分と相手という理念を学ぶと考えればいいのだろう。

ペタゴーには3つの特別専門コースがある。1.児童・青年(保育、18歳未満のさまざまな施設、学童保育、青年余暇クラス)、2.社会的問題を抱えた人(アルコール依存症、精神障害、親がアルコール依存の子ども)、3.身体的精神的な機能が低下した人たち(自閉症、ダウン症、発達遅滞の子ども)という理論を学び、グループディスカッションやグループワークに積極的に参加し学んでいく。

6か月の実習は実際に現場で働き、給料が支給される。学生に責任を与え、自らの手で体験し、テーマのあるアクティビティーを自ら企画し、それを実行した後に教授らの前でプレゼンテーションを行い、不合格なら再度6か月の実習が行われる。理論と実践の絶え間ない学びの交流。教師に支えられ、自ら学び、テーマを決めて実践し、自ら答えを考える。そんな大学での学びを経験したから、青年余暇活動支援センターで出会ったペタゴーは、自信に満ち溢れ輝いていたのだと得心した。

現場主義

ペタゴーの労働組合からは、この大学に理事を派遣していると説明された。各労働組合代表が現場の声を大学での学びにどう反映させるか、「何を学んでほしいのか」を議論していることに驚いた。実習に重きを置き、卒業後すぐに十分な戦力として活躍できる。

スウェーデンやフィンランドの他の北欧諸国も同様だが、小学生から民主主義教育がなされ、大学でも「民主主義的市民」を学ぶ。自分の意見をしっかり持ち、相手と話し合いながら答えを出す。障害区分認定という発想は無い。その人に必要なことを本人と関係者で相談し支援内容を決める。

支援するという仕事は、内面を含めてその人を理解し、集団を大切にし、自らが力を発揮することで自信を持ち、よりよい暮らしをつくっていくことではないか。それは決して、「儲け」を中心的な目的とした「仕事」ではないはずだ。デンマークのペタゴー養成の大学を視察して、考えた。

集団と遊びを軸に

モンキーポッドは、2003年に埼玉県単独の放課後施策事業により障害児だけの学童保育として誕生し、放課後等デイサービス制度新設に伴い移行した。

今年4月にモンキーポッドを全日利用するまで、愛(小6)は放課後等デイサービス事業所2か所を併用していた。面談で、他傷行為が頻繁であることを心配していると母親は話していた。しかし、1か月も経たない間に、愛はモンキーポッドでは他傷行為がなくなる。他傷行為をすることで「私と遊んで」「私を見て」を要求していると、職員がつかんだからだ。

また、愛は自分の願いや思いが実現(思い切り遊ぶなど)することや、くすぐりや言葉によって自分の思いが伝わることを実感したのだと思う。仲間が高い急な滑り台を滑るのを見て、職員に支えられながら恐る恐る滑ることができた。それによって自信が持てるようになり、今では滑り台で仲間と追いかけごっこをするまでになった。

モンキーポッドでは、小3から高3まで、ほぼ全員が全日利用をしている。常に同じメンバーでの集団だ。初めは苦手だと思った仲間も日を増すごとに、互いを認め合い、自分のことはさておき世話をやくようになっている。何かを教える場ではなく、遊びを通して人との関係を作り、自分で考える力を自らの手でつかみ取っていける場を目標としている。

子どもも職員も、デンマークでいう「民主主義的市民」としての生活を目指したい。

(ますもとゆうみ NPO法人放課後等デイサービス モンキーポッド施設長)