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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

福祉避難所について

川上一郎

東日本大震災を踏まえた平成25年6月の災害対策基本法の改正により、市町村長は、被災者を一時的に滞在させるため、一定の基準に適合する施設を指定避難所として指定することが義務づけられました。また、避難所における良好な生活環境の確保等の努力義務も課されることになりました。

指定避難所のうち、主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下「要配慮者」という)のための特別の配慮がなされた避難所を、市町村長は福祉避難所として指定します。たとえば、ある小学校が指定避難所でかつ福祉避難所として指定されていた場合、体育館など一般避難者の避難スペース(以下「一般避難スペース」という)とは別に、教室など要配慮者の避難スペース(以下「福祉避難スペース」という)があるということになります。このケースでは、その教室は「福祉避難所」ですが、小学校という施設として見るとこの教室は「福祉避難スペース」です。

なお、内閣府としては、社会福祉施設の「福祉避難スペース」が、「福祉避難所」として指定されていれば、施設としては指定避難所としても指定されておりますので、「一般避難スペース」もあると認識しています。

内閣府は「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(以下「ガイドライン」という)を平成28年4月に公表し、市町村等のより適切な運用を助言しております。

なお、「福祉避難所は2次避難所である」として、「一般の避難所が開設されてから、数日後でなければ開設されない」と誤解している人もいますが、明らかな間違いです。福祉避難所としてあらかじめ指定するメリットは、発災後に安全面の確認ができれば、指定避難所としてだけでなく、福祉避難所としても直ちに開設できるということにあります。

平成28年10月1日現在で、協定を締結したものも含めると福祉避難所を確保している市町村は、全国の約90%になるなど、確保が進んでいますが、引き続き、内閣府としては、全国の市町村において迅速に福祉避難所の確保が図られていくよう、促しております。

福祉避難所の周知については、約3割の市町村で周知が行われていない実態があり、また、熊本地震の対応事例などをみると、その趣旨を明らかにした適切な周知が行われていないなど、課題もあると考えています。

内閣府は、福祉避難所の運営について、ガイドライン等による助言を行なっているだけでなく、たとえば、災害により多数の者が生命または身体に危害を受け、または受けるおそれが生じているとして、都道府県知事が災害救助法の適用を判断した場合には、福祉避難所として指定されていなくても、実質的に福祉避難所として開設された場合には、同法による財政的な支援も行なっています。

ガイドラインは、災害救助法が適用された場合も含めて考えているため、概(おおむ)ね10人の要配慮者に1人の生活相談員等は配置することや、要配慮者に配慮したポータブルトイレ、手すり、仮設スロープ、情報伝達機器、パーティション等の器物、日常生活上の支援を行うために必要な紙おむつ、ストーマ用装具等の消耗機材を確保することも記載しています。

なお、災害救助法による支援は、発災後の応急的な支援であるため、資機材の確保に時間がかかる場合もありますので、平時から準備しておくことが重要であると考えています。

また、避難所のスペース、支援物資等が限られた状況であるということもご理解いただいた上で、避難者全員、または要配慮者全員に対する機会の平等性や公平性だけを重視するのではなく、介助者の有無や障害の種類・程度に加え、性別、環境が変わったことによる健康状態や声の出しやすさ、本人の理解、家族や周囲の状況等、さまざまな事情を考慮して優先順位をつけ、高齢者、障害者等の枠組みにとらわれず、「一番困っている人」から柔軟に、機敏に、そして臨機応変に対応することが望ましいと考えています。

いずれにしても、福祉避難所の体制等をどうするかについて、具体的には、地域の実情も踏まえ、市町村において判断されるものです。しかしながら、福祉避難所を確保し、一般の避難所では生活することが困難な要配慮者の皆様が、特別な配慮を受け、状況に応じて安心して生活できる体制を整備することは重要であるため、市町村等に対しては研修や会議等のさまざまな機会を通じて促していきたいと思います。

避難所の運営は、被災者によって自主的に行われることが望ましいと言われていますが、発災後の対応だけでは限界があると考えられています。また、中央防災会議が決定している「防災基本計画」には、「自らの身の安全は自らが守るのが防災の基本であり、国民は、その自覚を持ち、食料・飲料水等の備蓄など、平常時より災害に対する備えを心がけるとともに、発災時には自らの身の安全を守るよう行動することが重要」であると記載されています。

そのため、内閣府から市町村等には、平時より、ガイドライン等も活用し、地域住民の参加も得て、事前の準備に取り組んでいただきたいと伝えております。

皆様も、福祉避難所の設置・運営訓練等に是非ご参加いただければ幸いです。

図 災害対策基本法施行令(昭和37年政令第288号)(抜粋)拡大図・テキスト

(かわかみいちろう 内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(被災者行政担当))