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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

災害時の障害者の現状と課題と備え

有賀絵理

1 はじめに

昨今、災害が続いている。いつ発生するのか分からない。減災も防災も困難な現在、多くの災害を通しても、災害時要援護者、特に障害者の避難は容易なことではない。

2013年6月「災害対策基本法」が一部改正され、「災害時要援護者」を防災施策において、特に配慮を要する高齢者、障害者、乳幼児等を「要配慮者」とし、要配慮者のうち、特に災害時の避難に支援を要する者を「避難行動要支援者」とした(内閣府)。以下、本稿では「災害時要援護者」とする。

筆者は身体障害の災害時要援護者である。1999年9月30日の原子力臨界事故、2011年3月11日の東日本大震災を経験した。これらの災害経験から災害時要援護者の避難に関する研究をしている。

2016年4月、障害者差別解消法が施行されたことから、今まで以上に災害時要援護者の対応を重視しなければならない。だからこそ、災害時の障害者の現状を理解し、課題と備えを検討する。

2 災害発生時の障害者の思い

2014年7月から2015年2月、茨城県内の障害者や家族へアンケート調査を実施した。詳細は、公益社団法人茨城県地方自治研究センター「自治権いばらきNo.118(2015年3月発行)」“茨城県内の災害時要援護者の状況と今後の課題―重度障がい者の実態調査から―”を参照いただきたい。

アンケート調査結果での意見の一部を紹介する。

「災害時、全介助の障害者を抱えて逃げることは困難」「原発災害は避難生活を余儀なく強いられるから障害者の家族には大変!」「行政のマニュアルでは、要援護者も、一般の避難所に行ってから福祉避難所へ移動になっているが負担が大きい。直接、福祉避難所へ行きたい」「物資が届かず薬も手に入らなかった」「名簿登録していても東日本大震災時は連絡がなかった」「名簿登録があることを知りません」「障害者を理解してくれない近所との交流は難しい」「東日本大震災後、避難者の集いは増えたが、障害者が参加できる雰囲気は全くない。運営者にも障害者がいない。避難者に障害者もいることを知ってほしい」

等の声があがった。障害者や家族の思いは、災害に関して切実であることが理解できた。

3 障害者差別解消法施行によって

障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が2016年4月から施行された。

重要な点は、「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」と「社会的障害」(「社会的障壁」・「社会的バリア」ともいう)である。「不当な差別的取扱い」は、行政機関等も民間事業者等も禁止である。「合理的配慮の不提供」は、行政機関等は法的義務で、民間事業者等は努力義務である。今後は、社会的障害をゼロにする取り組みが重要である。

4 今後の課題と提案

災害時の課題と備えとして、

1.今までの災害を風化させず、反省を活(い)かすこと

過去の災害を“出来事の1つ”と済ませず、何が課題であるか、何が不足しているのか、今後何が必要であるのか等も検討しておくことが大切である。

2.災害時要援護者名簿を含む災害マニュアルの見直し

災害時要援護者名簿が義務化されたが、災害時要援護者対策が遅いと言っても過言ではない。自治体ごとに、名簿もマニュアルの内容も異なるのが当然であるが、ほとんどの自治体がほぼ似たように構成されている。

災害時要援護者の状況把握と本音に耳を傾け、実働できるマニュアルと名簿作成に対応すべきであるとともに、地域住民にも協力を仰ぎ、自治体と一緒に対応することが大切である。

3.法制度を理解し活かすこと

障害者差別解消法が施行されたことから、「今までどおり…」は通用しない。行政が指定する避難経路、避難所、仮設住宅、避難物資配布方法等の見直し、社会的障害の除去と合理的配慮が必要不可欠である。

災害救助法第4条の4に(救助の種類)として「福祉」の明記と、災害救助施行規則第4条(医療、土木建築工事及び輸送関係者の範囲)に福祉専門職が追加されることが重要である(月刊自治研2016年11月号『熊本地震「想定外」の災害に備える』)。

4.福祉避難所の在り方の再検討

年々、福祉避難所数は増加しているが、理解している人が少ないことから知名度を上げることが必要である。

1.運営方法、2.収容人数の想定、3.開設にあたるスタッフ不足、4.スタッフ向け管理・運営マニュアルの作成と理解の徹底、5.介助者等の人材確保と体制作り、派遣と勤務方法等、6.家族や付き添い者の受け入れ態勢、7.災害時要援護者以外の避難者、8.対象者の想定、9.普及・啓発不足、10.物資の設置と配布方法、11.広域福祉避難所との連携、12.二次避難所に位置付けられている福祉避難所の在り方、13.障害者関連施設が少ない、14.地域住民の理解促進と協力、が課題である。

また障害者差別解消法が施行されたことで、重度障害者でも“福祉避難所”に限定せず、どこの避難所でも使用可能であることが合理的配慮である。

5.バリアフリー仮設住宅の必要性

福祉避難所の検討と同時に、バリアフリー仮設住宅の検討も必要である。これまでの大災害時、バリアフリー仮設住宅が少なく、障害者や家族は、車中泊や崩れなかった・倒れなかった自宅で生活をしていたケースが多かった。

バリアフリー仮設住宅は、障害者、高齢者、妊婦や幼児のいる家族も利用しやすいことからバリアフリー仮設住宅の必要性は高い。

6.障害受容の大切さ

“障害受容”は大変なことであるが、自分の障害特性や介助方法を支援者等に伝えるためにも必要である。

大規模災害が発生すると、介助・介護の負担が大きくなり精神的苦痛も重なり、障害者世帯は“災害=死”を連想してしまいがちである。日頃の“障害受容”が大切である。

7.在宅障害者支援の強化

在宅障害者は家族と住んでいることで支援は不要と思われがちだが、災害時は、施設利用者よりも在宅者の方が避難が困難である。障害者世帯へも、救助の声があげやすい状況、避難所でのお風呂やトイレも遠慮なく使用できること、在宅や車中泊の障害者家族への避難物資の配布方法の見直しも必要である。

8.広域避難・広域支援と移動の確保

東日本大震災での原発事故を踏まえても、災害は広域で検討しなければならない。同時に、移動手段の検討も必要である。

広域避難する際、自家用車での移動も想定できるが、運転する家族が高齢者やけがをした等も考慮し、自治体が用意する移動手段に誰もが乗車できることが大切である。しかし現状は、自治体所有のバスには低床バス等が少ないため、早急に検討しなければならない。障害者の避難は、非障害者よりも時間を要することから「広域避難・広域支援」での検討が必要である。

9.地域力、連携・支援力・受援力を高めること

平常時から、地域、行政、NPO等と連携し、お互いに理解し支え合える関係づくりが大切である。それは地域力にも繋(つな)がり、障害者も地域の一員として地域のイベントに参加し触れ合うことができ、支援力が上がる。支援力は障害者や家族の精神的苦痛を和らげ、受援力を上げる。すると、災害に対し諦(あきら)めている障害者も家族も援助を求めやすくなり良い循環が生まれる。

10.一人ひとりの“こころのバリアフリー”と“人間力の向上”が課題解決へ繋がる

一人ひとりのこころのバリアフリーは、非障害者だけでなく障害者も必要である。年々バリアフリー構築がなされているが、ひとのこころがバリアフリーでないとバリアフリーは成り立たない。

障害者自身も“助けてもらって当たり前”ではなく、障害者も非障害者もお互いに認め合い、助け合い、支え合うことが自然にできる社会が重要である。一人ひとりの“こころのバリアフリー”と“人間力の向上”が課題解決へ繋がるのである。

さいごに、どの地域にも災害時要援護者は居る。そして、ひとは年齢を重ねるうちに誰もが災害時要援護者となる。筆者の著書『災害時要援護者支援対策~こころのバリアフリーをひろげよう~』((株)文眞堂出版)を参考に、今後の災害に備えていただきたい。

(ありがえり 公益社団法人茨城地方自治研究センター研究員/茨城大学非常勤講師)