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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

積極的に関わって地域の理解を進める
~南区手をつなぐ育成会の取り組み~

濱田智恵実

名古屋手をつなぐ育成会は、名古屋市内16区及び運営する施設、加盟団体等27の支部で活動しています。

南区支部は設立54年目ですが、南区という地域は、伊勢湾台風発生の時に大被害に見舞われました。東海豪雨の際にも床上浸水の被害にあった家屋が多数出て、住民の方の「防災」に対する意識は非常に高い地域です。また、高齢化率は28.9%と非常に高く、民生委員さんたちは懸命に高齢者の見守り活動を続けてこられています。

しかし、「障がいがある人」は地域の中でその存在を知られているのか、肩身が狭くてひっそりと暮らしてみえる方も少なくないのではないかという疑問は、常に私自身の中にありました。

平成17年度、名古屋手をつなぐ育成会の取り組みとして、地域の皆様に知的障がいがある人の特性を知っていただくために、会員希望者の「災害時要援護者名簿」を名古屋市を通して民生委員さんに提出したいと願い出ました。この時は「難しい」との判断で名簿の提出はお断りされてしまい、会員一同非常に残念に思ったものです。でも諦(あきら)めず、私が18年度南区支部会長に就任させていただいた折、「会員要援護者名簿を提出させていただきたい。必ず助けてほしいと言っているわけではなく、日頃から地域に私たちの存在を知っておいてほしい」と改めてお願いしたところ、福祉部長さんが了承してくださり、名古屋市民生委員児童委員連盟南区支部長様を紹介してくださいました。そして、「南区民生委員児童委員協議会」で、18学区の会長様に緊張しつつも説明をして直接名簿をお渡しすることができました。

それからは民生委員さんを私共の総会やクリスマス会にお招きしたり、私たちも社会福祉協議会の活動に積極的に参加するように努力しました。何かをしてもらうだけではなく、自分たちも何ができるかを考え、地域に積極的に関わっていくべきだと思うように変わっていったのです。

ただ民生委員さんの理解は深まりましたが、とりわけ「防災」となると、民生委員さんだけではなく区政協力委員さんたちが地域の防災リーダーになるので、その方たちの理解と協力が必要です。平成24年に「災害時要援護者のためのとりくみ」と称して、南区役所の福祉課、総務課にも協力していただき18学区の区政協力委員様、民生委員様、児童委員様に案内状をお出ししました。出席してもらえるか不安でしたが、当日は約半数の区政協力委員長さんと民生委員の会長さんがご出席くださったのです!そして初めて同じ席で、要援護者についての想いをお聞きいただき、また、地域の活動やお考えを知る機会となり、大変充実した話し合いができました。

同じ年に星崎学区との関わりが始まりました。星崎学区は防災科学技術研究所主催の防災ラジオドラマコンテストに応募し、今回は熱心な社協の方の勧めもあって、障がい者のことも取り入れる提案をしてくれました。星崎学区は前年度も同コンテストのマップ部門で最優秀賞を受賞されていますが、今回はドラマのセリフの随所に障がい者のことを取り入れていただきました。その内容が新鮮だったようで、星崎学区はドラマ部門でも最優秀賞を受賞されました。国が求めているものとして認められた気分で非常に晴れやかな気持ちになり、また学区の委員長さん、民生委員さん、消防団の皆さんと差し入れのおにぎりを食べながら何度も企画、練習を重ねたことが貴重な経験となりました。

同年、「なごや総ぐるみ防災訓練」に参加することになり、毎年16区で開催されている防災訓練に初めて障がい者が参加しました。初めは断られそうになりましたが、何度も総務課に出向き、学区協議会の定例会にも通い、障がいがある人を理解していただけるよう説明をし続けた結果、今では「防災訓練」があると区役所からお誘いいただけるまでに理解が深まりました。南区の防災訓練では、一般住民避難者の受付に加え、災害時要援護者の受付、保健師や民生委員からの障がい者本人のニーズ調査、一般避難所である体育館から福祉避難スペース(学校内の特別教室)への誘導、福祉避難所移送訓練等、盛りだくさんの内容を取り入れてくださっています。その際には当会の紹介の資料と、名古屋市と障がい関係の各種団体が製作した「こんなときどうする?障害のある人を理解し、配慮のある接し方をするためのガイドブック」も地域の皆様に配布しています。

10年前「名簿を受け取ってください!」と言わなければ、そして「どうせ分かってもらえない」などと引きこもってばかりいて地域の方に知ってもらう努力をしなかったら、現在の姿は決してなかったでしょう。訓練に参加した障がい者は、その後も地域で日頃から声をかけていただいています。地域の方は差別の目で敬遠している訳ではなく、「何かしてあげたいけど、どうしてよいのか分からない」と思っているだけなんです。

障がいがあることをカミングアウトするのはとても勇気がいることですが、一歩前に進んで地域の方に話してみたら、きっと道は開けるはずです。地域のおまつりや運動会、町内清掃等に積極的に参加したりして地域の人と顔と顔を合わせて共に生きていくことこそ、障がいがある人を理解し、普通に暮らす地域社会を築くことだと思います。

(はまだちえみ 南区手をつなぐ育成会会長)