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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

ALS患者の人たちを災害から守るための取り組み

長尾義明

2013年5月に東日本大震災の支援活動の教訓を引き継ぎ、南海トラフ地震などの大災害に対応するために日本ALS協会内に災害対策委員会(以下「災害対策委員会」という)が設置されました。

東日本大震災の教訓としては、ALS患者家族は、家屋の崩壊や浸水による待機命令がない間は、自宅に籠城して公助を待つことが良い、すなわち3日間、自宅で生き延びるための準備をすること。人工呼吸器を装着する患者は、72時間の電源確保が必要であり、食料や常備品の確保も常にすること。在宅のALS患者は、平時に避難行動要支援者個別支援計画を立てるよう市町で要支援者登録をして、避難所に行く必要がある場合の備えとして、避難訓練を計画・実施することでした。人工呼吸器装着者用の電源の整備は、呼吸器の予備バッテリーの診療報酬による明確化などで一定程度普及したものの、全国的な整備やその他の取り組みは不十分でした。

周知の方法は、協会報に掲載するなどこれらの教訓を全国の患者家族に呼びかけ、自助の重要性を2~3年にわたり唱えました。が、いつ来るか分からない震災にお金と時間を使えないといった傾向が強くありそうで、また、「いままで十分生きさせてもらったので、その時が来たら覚悟します」という患者の声もあり、具体的な戦略が必要であることを認識しました。

2015年9月6日、国立長寿医療研究センター会議室にて、平成27年度災害対策委員会~災害は忘れたころにやってきます、みなさま備えは出来ていますか~を開催しました。ここでは、福島県の理事から、東日本大震災の生々しい体験が風化してきたことについて発言があり、他にも電源、常備品は点検保管し、繰り返しチェックすることが大切であるが、予備バッテリーの劣化の問題が出はじめたが、それを補完する制度はない点、全国主要保健所45か所への「避難行動要支援者個別支援計画」を実施していますか?の電話アンケート結果によると、わずか3か所のみが呼吸器装着患者向けの計画が策定済みで他は計画中、患者の了解が得られないとの回答でした。また、安否確認のシステム化が進まない点が課題として上がりました。

2016年4月に発生した熊本地震では、東日本大震災と災害の形態が異なっており比較的、被災地が限られていましたので、鹿児島市在住の災害対策委員が何度となく熊本入りをして患者宅、病院、施設に救援物資を供給し、その対応の中で、新たな課題と東日本大震災の教訓を生かすことができていないことが分かりました。

課題は、患者の自助ができておらず、患者宅への安否確認が困難であった点、教訓が生かされていなかった点は、災害対策委員をはじめとする協会が組織的に動けなかった点が上げられました。

2016年11月13日、四日市市で毎年行われてきた「人工呼吸器装着ALS患者避難訓練」の後に、三重県立総合医療センター会議室にて、平成28年度災害対策委員会「~もしもの時~」を開催しました。先の熊本地震において、被災地に物資を届けた災害対策委員からは「人工呼吸器装着の在宅患者宅では、蘇生バッグ(アンビューバッグ、手動式人工呼吸器)がない、あっても使われていない事例があった」「災害時には誰かが何とかしてくれると思っている人が多い」「協会県支部、協会本部、災害対策委員が対策として、何をどこまでやるかを具体的に整理しておく必要がある」という報告と意見が出されました。

他には、被災地への情報提供が必要、患者さんの備えに対する意識改革が必要で、そのひとつが「もしもの時…?」であればいいといった意見も出されました。委員会の最後に私、長尾から「徳島のわが家で、もし津波で浸水するようなことがあれば、部屋に天井クレーンを取り付けていますから、天井まで吊り上げて家族は逃げることになっています。私は最後まであきらめません」と閉会の挨拶を行い、自助の強化の呼びかけと協会の組織だった取り組みの検討を今後の課題としました。

2017年7月1日、徳島市阿波観光ホテルにて、平成29年度災害対策委員会「~大規模災害でALS患者が取り残されないように~」を開催、翌7月2日には、中久保消防団員、ご近所の皆様の協力で私の自宅と中久保公会堂にて災害訓練を行いました。ALS患者家族が大規模災害時に生きて行ける方法を自ら考えることが必要であることから、自助と共助は患者会の取り組み、72時間後からは公助に委ねることが最善であると考え、その内容について、各県支部事務局長に向けた会員及び関係者への周知依頼内容をご紹介します。

1.支部会員が171伝言ダイヤル(WEB171)を確実に使えるようにしてください。安否確認(SOSの発信)の方法はいろいろありますが、過去の災害例から、携帯やパソコンは使えなくなることが予測されます。NTT171伝言ダイヤルは、SOSの切り札ですので、皆さんがご自宅の電話に登録できるように訓練願います。震度5強以上の地震において、171伝言ダイヤルは被災地域において使用可能となります(練習可能時期は、各月1日、15日、9月の防災週間等です)。

2.災害対策委員会作成の小冊子「もしもの時…?」(各支部事務局へ配布)を総会、交流会等の集まりの都度、読み伝えて自助力を強化させてください。

3.人工呼吸器装着患者さんは、蘇生バッグ(アンビューバッグ、手動式人工呼吸器)がベッドサイドにあり、すぐ使えるかを確認してください。呼びかけるなかで、蘇生バッグが手元にない患者さんが居れば装備できるように協力してください。

この具体的な取り組みが、平成29年度にどの程度実施できたかについて、平成30年度の災害対策委員会で検証する予定です。

(ながおよしあき 一般社団法人日本ALS協会 災害対策委員会委員長)