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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年9月号

列島縦断ネットワーキング【高知】

豊かな生活を可能にする地域づくりを目指すナチュラルハートフルケアネットワークの活動

下元佳子

豊かな生活を可能にすることができる福祉用具の情報を広げたい
~高知福祉機器展の立ち上げ~

理学療法士として臨床に出て数年後、地域の慢性期の病院へと転職しました。そこには、ベッド上のみで生活をしているたくさんの「寝たきりの高齢者」が入院生活を送っていました。手足の拘縮がひどく反応も少ない方を前に、自分の力のなさを痛感しました。目の前の方の生活を変えることができない、いわゆる機能回復訓練では役に立てないと感じた日々でした。もっとケアや福祉用具の知識や情報が必要であることを感じました。

拘縮の強い方をどうすれば負担をかけずに動かせるのか、どのような用具であれば姿勢を保持できるのか、そもそも拘縮をつくらないためにはどのようなケアをすればよいのかを考え、答えを求めてさまざまな研修や展示会に出かけました。

都会で行われる機器展や福祉用具の研修会に参加するたびに感じることがありました。福祉機器はどんどん開発・輸入され、便利なものが増えているにもかかわらず現場に届いていない、使われていない。高知では取り扱われていない物も多い。自分のように、便利な物があることさえ知らない当事者や専門職がまだまだたくさんいることを感じました。

車いすの選び方の間違いや、便利な用具を知らずに、また、知っていても難しそうだと使うことをせず、力任せに動作介助をすることで二次障害をつくっている現状。病気が進行して動けなくなり、そして、言葉を失うとコミュニケーションがとれないのは仕方がないと思い、一方的なお世話をしている現場…。可能性を広げることができる福祉用具を知ってほしい、情報を広げたい、そんな想いで、地域での小さな勉強会を立ち上げました。

そして、回を重ねるごとに目の前の方の生活を変えるためにも、県全体が変わっていくことの必要性を感じ、もっと広く情報を伝えたいと思い立ち上げたのが高知福祉機器展です。

2002年、発起人4人、実行委員17人からスタートしました。協力企業30社、来場者850人。企業別ブースではなく、物別・用途別にブースを作り、それぞれのブースを企業だけでなく、実行委員であるスタッフが一緒に担当しているのが特徴です。これは、16回を数えた今も変わっていません。可能性を引き出す用具を知ってほしいと思う機器展の必要性から、そして、そのためには地域の当事者や専門職が物を見て、比較して、情報を得られやすい場にしたいと考えました。

機器の専門家である企業とリハやケアの専門職が一緒に対応することで、よりその方に合った情報提供ができます。そして、地域のスタッフが関わることで、展示会当日だけでなく、終了後もフォローアップすることができ、ニーズ解決まで関わることが可能となります。16回目の今年の来場者は2000人と田舎の小さな手作りの福祉機器展でしたが、地域への情報発信を130社を超す企業がサポートしてくれており、多大な情報量をいただいています(図1)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

年間を通してニーズを解決できる拠点づくり
~生き活きサポートセンターうぇるぱ高知の立ち上げ~

福祉機器展をすれば何かが変わると期待しての開催でした。一番変わったのは自分たちの意識だったのかもしれません。機器展を開催すれば、その場で相談が解決し完了するのではなく、機器展が終了した後に、継続して解決につなげることが必要であったり、情報が広がることで相談が増えていくことを実感しました。そして、年に1回、機器展を開催しているだけでは地域は変わらないことを感じ、2004年に、ボランティア団体生き活きサポートセンターうぇるぱ高知を立ち上げ、それらに対応できる拠点としました。年間を通して相談を解決する場所、情報を発信できる場所、そして、物だけでなく、ソフトも一緒に広げる必要性を感じてのスタートでした。

相談対応は日常的に必要です。県の福祉用具展示場の展示品や相談対応を展示場のスタッフと福祉機器展のスタッフが繋(つな)がり、相談対応・貸し出し対応が始まったり、用具を使いこなせるソフトの向上のために、専門職向けに県の研修センターと連携をとり、さまざまなケアに関する研修を実施しての情報発信、県内の専門職のスキルアップに努めてきました。

高知の活動から全国ネットワークへ
~ナチュラルハートフルケアネットワーク開設~

高知で活動を続ける中で、全国あちこちに同じ想いをもったメンバーができ、2008年にナチュラルハートフルケアネットワークと名付け、お互いに連携をとりながら地域づくりをしてきました。

地域は違えど、課題は同じです。勉強会や機器展、研修活動、相談対応をそれぞれの地域で繰り広げています。「どんな状態でも(病院や施設、在宅を問わず)人としてあたりまえの生活が保障される地域づくり」を目的とし、人としての尊厳を保ち、自立を損なわず、二次障害予防のできるケアを広げるための活動を行なっています。

地域は離れていても、同じ想いを持ったメンバーが連携しながら進むことで、お互いにサポートできることもあります。全国から集まり、技術を磨く研修会、地域を変えていくためのマネジメントスキルの勉強会、一緒に学ぶ場、考える場を持つことで、他の地域からも学び自分の地域での活動の力を得ながら進んでいます。相談対応が困難な場合に、ネットワークを利用してアドバイスをもらうことも可能です。現在、全国19か所で活動をしています(図2)。
※掲載者注:イラストの著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

少しずつ活動が広がる中で、草の根ボランティア活動だけでなく、さまざまな地域で行政などとつながり事業を進めることも増えてきました。

これからの活動のための法人化とトレーニングセンターの開設

目的に向かって、より責任を持ち活動を行なっていくために、2017年4月に一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークを設立し、トレーニングセンターを開設しました。高知市内が拠点ですが、県内外を問わず、用具やケアの発信、相談対応を行なっていきます。豊かな生活、可能性を広げることのできる地域をつくっていくためには、何より人材育成が必要だと感じてきました。そのために必要なのは、イベント的なセミナーではなく、人を育てることができる研修であると感じ、計画的に活動していくことの必要性を感じてのトレーニングセンター開設となりました(図3)。豊かな生活を可能にする地域づくりを目指して、より計画的で実践的な活動を行なっていきたいと考えています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図3はウェブには掲載しておりません。

皆さん、ぜひ高知に一度お越しください!

(しももとよしこ 一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク代表理事)