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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

身体障害者補助犬に関するわが国の動向

秋山仁

1 身体障害者補助犬の現状

身体障害者補助犬は、14の盲導犬訓練施設、25の介助犬訓練事業者、21の聴導犬訓練事業者により育成が行われています。また、盲導犬は14の国家公安委員会指定法人で、介助犬は7の、聴導犬は6の厚生労働省指定法人で認定が行われています。

平成28年度は、盲導犬151頭、介助犬3頭、聴導犬13頭が指定法人により認定されており、平成29年9月1日現在、盲導犬950頭、介助犬70頭、聴導犬71頭が稼働しています。

2 身体障害者補助犬に関する施策

(1)身体障害者補助犬法

2002年5月22日に議員立法として制定された身体障害者補助犬法は、身体障害のある人の自立と社会参加の促進に寄与することを目的としており、補助犬の育成を行う訓練事業者には良質な補助犬を育成することを義務づけるとともに、使用者には補助犬の衛生・行動管理を行うことを義務づけました。また、公共交通機関や不特定多数の人が利用する施設等においては、補助犬の同伴を拒んではならないことが規定されました。

2008年には法改正が行われ、都道府県、政令指定都市、中核市に苦情窓口を設置すること、法定雇用率によって算出した一定規模以上の常用雇用労働者がいる事業者は、被雇用者が補助犬を同伴することを拒んではならないことが規定され、その後、法定雇用率の改定に合わせ、同法施行令を改正してきました。

2018年4月1日から民間事業者の法定雇用率を2.0%から2.3%に改定することを受け、2017年6月30日付けで同法施行令の改正が行われ、受け入れ義務の要件である「一定規模以上」の基準が、50人以上の常用雇用労働者がいる事業所から43.5人以上の常用雇用労働者がいる事業所に拡大されたところです(図1)。

図1
図1拡大図・テキスト

(2)障害者差別解消法関連の取り組み

2016年4月1日に施行された障害者差別解消法は、内閣府所管の法律で、すべての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として制定されました。補助犬の同伴のみを理由にサービスの提供等を拒むことは、この法律による不当な差別的取扱いにあたると考えており、この法律の理念が浸透し、補助犬使用者を温かく受け入れられる社会になることを期待しているところです。また、障害者差別解消法施行後、補助犬に関する相談に対して、補助犬の窓口と差別解消法の窓口が連携して対応することにより、スムーズに解決する例が増えています。

厚生労働省においても、福祉事業者(児童福祉、老人福祉、障害者福祉等)、医療関係事業者(病院、薬局等)、衛生事業者(飲食店、理美容業、旅館業等)、社会保険労務士の対象別に、障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針(ガイドライン)を策定しており、補助犬使用者をはじめとする障害のある人が社会に受け入れられるよう、理解促進に努めています。

3 身体障害者補助犬の育成等に対する助成

訓練事業者による身体障害者補助犬の育成に対する助成制度は、障害者総合支援法に規定する地域生活支援事業により行われています。この事業は、各地域の障害者のニーズ、社会資源の状況等を踏まえ、各地方公共団体が柔軟に要綱等を定めて運用することが可能なものであり、補助犬の育成については都道府県の事業として位置付けられています。以前から行われてきた補助犬の育成に要する費用に加え、平成28年度からは地域における理解促進・普及啓発に要する費用、地域でのニーズの把握及び育成計画の作成等に要する費用を補助対象として加えました。平成30年度においても事業の充実に向けた拡充について、概算要求をしているところであり、各都道府県による積極的な活用を期待しているところです。

4 海外の補助犬使用者への対応

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控え、海外から補助犬使用者が多数入国することが予想されます。来日する補助犬が法に定める日本の補助犬と同等と認められる場合は、国内の補助犬と同様、社会に受け入れられることが望ましいと考えています。現状では、一部の盲導犬訓練施設や指定法人において、法に定める補助犬と同等と認めた犬とその使用者に対し、一時通行証(一時的な認定証)を発行するといった取組を行なっているようです。

一方、補助犬に関する制度は、海外と日本とでは異なっており、海外の補助犬使用者に日本の制度を正しく理解していただき、使用中の補助犬が日本で受け入れ可能かどうかを来日前に確認していただくことが重要であると考えています。

厚生労働省では、海外の補助犬使用者の方に利用していただくため、英語版のリーフレットを作成し、ホームページに掲載してきました。それに加えて、2017年5月から、身体障害者補助犬法や日本における検疫の仕組み等について、海外の補助犬使用者向けの英語版ポータルサイトを作成して情報を発信しています(図2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

このサイトでは、日本における身体障害者補助犬法の概要、日本の出入国手続き(検疫等)、日本についての参考情報(日本の気候、飼育ルール等)、相談窓口等をまとめ、英語で情報提供しています。このサイトについては、厚生労働省の公式Twitter、Facebook、首相官邸の海外向け公式Twitterで全世界に発信するとともに、農林水産省の動物検疫担当部局にもご協力いただき、検疫所のページでも情報提供されているところです。

さらに、2017年度は、海外からの身体障害者補助犬を円滑に受け入れるための課題と必要な対応について調査研究を行います。現状、各指定法人等に委ねられている海外から渡航してきた補助犬使用者への対応について、補助犬の種類や訓練手法にとらわれず横断的な分析を行うこととしており、その成果を幅広く周知し情報共有を図るとともに、海外向けポータルサイトの充実を図る等により、海外から補助犬を伴って来日した方が混乱することのないよう取り組んでいきます。

5 普及啓発の取り組み

法の施行により、補助犬を同伴した障害者の社会参加が以前より進んだ一方、ペットと間違われたり、補助犬への理解が不十分だったりする事例がいまだにあるようです。特に、医療機関に同伴できなかったといった相談が、最近よく聞かれるところです。

身体障害者補助犬法に関する理解を深めるため、厚生労働省では、ホームページで情報提供するとともに、一般向け、医療機関向けのリーフレット、ポスターやステッカーを作成し、自治体・関係機関等を通じて配布しています。また、2017年度は補助犬使用者を含む障害者が、医療機関において、どのような支援を求めているかに関する調査研究を実施し、その成果については医療機関に分かりやすく周知する予定です。

また、補助犬の正しい理解を深めていただくことを目的とした啓発イベントを毎年12月の障害者週間を中心に開催しており、今年度は普及啓発が進んでいないと思われる地域での開催ができないか検討しているところです。今後とも、社会全体で身体障害者補助犬とその使用者を受け入れていただけるよう、普及啓発に努めてまいります。

(あきやまひとし 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室福祉用具専門官)