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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年10月号

列島縦断ネットワーキング【香川】

おへんろの駅こくぶの「昨日・今日・明日」

うちだはかる・うつみよしお

おへんろの駅こくぶ(以下、こくぶ)は、特定非営利活動法人Cs(シーズ)クリエーションが運営している。シーズクリエーションは、コスモスの家とリトルウエスト、そしてこくぶを運営している。いずれも地域活動支援センターとして活動している。その運営資金としては、行政からの委託料、県共同募金会・地元社協等各種支援団体からの助成金に依存している。しかし、資金面では厳しい状況ではある。

こくぶの立ち上げについて

2004年3月に、四国八十八カ所・八十番札所の傍らに空き店舗があるという情報から、空き店舗を利用した新たな作業所の立ち上げを計画。これまでの作業所は、つくる側の思いだけで運営されてきたが、そうではなく、働く利用者のニーズを大事にしようと考えられた。

空き店舗の大家さんの理解を得て、シーズクリエーションの理事を中心に数人のボランティアとともに開設準備会を行なった。国分寺町保健センターの協力で、当事者への声掛けから、行政との協力体制を手始めに、県民参画課による「NPO提案型共同事業委託事業」や各種助成金へ応募することで、当面の資金の捻出などを検討した。

店舗を借り受けたことで、保健センターの紹介を受けた当事者も顔を見せるようになり、具体的なイメージを描きながら、店舗内の片づけ・清掃を共に行なった。一方、県障害福祉課へあいさつを兼ねて、作業所立ち上げの経過報告や次年度の作業所認可を視野に「どこで」「なにが」「どう動いているか」を行政に伝えていった。

作業所立ち上げに際して

従来あるような場所にはしたくない。当事者のニーズがなければ、それは単なる箱ものに過ぎない。これまで、私たちを含め行政や医療は箱ものづくりを目指してきた。だが、ニーズのないところに当事者の意見が反映することはないのは目に見えていること。

私たちは、当事者の声を聴くところから始まった。おへんろさんは接待を受けて、へんろの道を歩むものだ。当事者の人らも医療という接待を受けていた人ではないかという想(おも)いがあった。意識をする思いはなくても…だ。

「こくぶ」を通じて、働くことで接待を受ける側から接待する側にまわることは意味があるのだろう。そう考えた私たちは、こくぶを立ち上げる際に「当事者」と呼ばれてきた人たちと共にこくぶを立ち上げることを大事にしてきた。当事者メンバーは、自宅生活がほとんどであったため、開設当時は無理をしない程度の活動を進めてきたが、慣れるに従いそれぞれの役割分担を行い、自発的活動がみられるようになってきた。

具体的には、掃除・洗いものやおしぼり等の接待、また、調理の下ごしらえなどを行なってきたが、慣れるに従って来客の方々との世間話など、徐々に対人関係のスキルが高まってきたことを実感するに至った。当事者メンバーの中には、一般就労した人も出てきた。「駅」の所以(ゆえん)であろう。「駅」は終着駅であり、出発駅であり、通過駅であるのだから。

こくぶの今

こくぶの所長は3人目だ。それぞれ特徴的だが、今の所長が良いだろう。当事者の話をまず聞く。その姿勢が良い。もちろん、それまでの所長も当事者の話に耳を傾けてはいたが、違うところは、何か。

話を聴き続けることではないか。

当事者の声に耳を傾けることは、当事者を知ることに繋(つな)がる。私たちは、相手の話を聴くことから始まることを知っている。しかし、話を聴き続けることは意外に難しいもの。つい言葉をはさみがちになるものだ。

先ほど、こくぶの所長は3人いたと書いた。初代所長はこくぶの基礎を作ってくれ、こくぶを取り巻く人たちから当事者への理解を得ることができた。そして次を引き継いだ所長は、新たな支え人を得ていった。その2人の所長の後を継いだ今の所長は、こくぶを訪れる人たちの声に、ひたすら耳を傾けている。

こくぶにはノートが置いてある。こくぶを訪れる人たちの声がつづられている。それを読むと、一人ひとりがこくぶを支えてくれる人だと分かる。この声に当事者やスタッフは目をとおしてほしいものだ。

続いて、こくぶを利用している当事者の声を残したい。こくぶの将来は当事者が担っている。こくぶを利用する前は、家にこもっていた人たちがほとんどだった。その彼らが、こくぶを利用することで、社会との繋がりをつなげてきたのだろう。そんな彼らを支えているのが、こくぶを訪れる人たちである。


うつみよしお

私は当事者メンバーとして、こくぶに出会った。理事の内田さんから「こくぶへ行ってみてはどうか」というお話をいただいたのが、約9年前だ。数年前から、当事者スタッフとして事務の仕事などをさせていただいている。

こくぶの存在を知ってから、実際にこくぶのドアを開けるまでに1年と少しの時間が必要だった。

当時のこくぶは今のように、にぎやかではなく、人数も少なく静かで暗い、今とは違う落ち着いた印象だった。今は人数も増え、明るく元気なこくぶだ。

初めは不安と緊張が酷(ひど)かった。他の当事者メンバーもそうだろうが、コーヒーを淹れたり定食をお客様に運ぶ時には手が震え背中に汗をかいた。

私は緊張からくる症状が強く精神的に不安定で、なかなか決まった日や時間に通うことが難しくなっていった時期がある。

長期間休んでいても、どこかこくぶとの縁が切れている感覚はなかった。いつでも帰れる場所という感覚に近い。

当事者メンバーの私は仕方がないにしろ、わがままだ。こくぶはそのわがままに気長に付き合ってくれ、許してくれ、待ってくれる。できないことはできないと言える環境である。

今はお店の奥で、パソコンの前に座って事務作業をしたり、外部の研修会や講演会に参加したりと、いろいろな働き方を提供していただき、助かっている。

こくぶの役割としてお遍路さんへのお接待、道案内や地域の方々への接客などがある。地域の中で、こくぶの役割が完全ではないが出来上がっている。

当事者メンバーとしては、こくぶでお遍路さんや地域の方々と接点があることで、社会の一員であるという安心感がある。少なくとも私にとっては安心できる居場所だ。

私は他の事業所がどのようなところか詳しくは知らないが、こくぶは外の人との関わりが広く深く、風通しの良いところだと思う。

当事者にできることはたくさんある。こくぶは個々のできることを拾って活(い)かしてくれる。

目指す未来のこくぶのあり方は、当事者主導で運営していくこと。そのことへの意識の有無にかかわらず、一人ひとりが日々できることをコツコツと、一進一退を繰り返しながら進んでいる真っただ中だ。

(NPO法人Csクリエーション理事(うちだ)、当事者(うつみ))