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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2017年11月号

発達障害児支援の動向

橋本圭司

1 発達障害の概念

もともと、発達障害(developmental disabilities)とは、さまざまな原因によって、乳児期から幼児期にかけて生じる発達の遅れのことを指し、医療の中で用いられてきた運動や精神、知的な障害など全般的な問題を含んでいた。

一方で「発達障害」の概念は時代とともに拡大し、その定義には歴史的変遷の跡がみられる。表1に示すように、米国精神医学会が作成するDSM(Diagnosis and Statistical Manual of Mental Disorders)に掲載された発達障害関連の臨床単位は、5回の改訂を経てその数だけでなく対象範囲も増した。近年は世界的動向にならって自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)、学習障害(learning disabilities:LD)、注意欠如・多動性障害(attention-deficit/ hyperactivity disorder:ADHD)など、知的障害から独立した高次脳機能障害へシフトした1)2)

表1 米国精神医学会DSMの改訂に伴う発達障害概念の拡大

DSMバージョン 作成時/改訂時新たに掲載された臨床単位
DSM-1(1952) 精神遅滞、学習障害、会話の障害
DSM-2(1968) 小児期または青年期の多動反応、チック
DSM-3(1980) 広汎性発達障害(幼児自閉症、小児期発症のPDD、非定型PDD)、注意欠陥障害、発達性言語障害、トゥレット障害、境界知能(Vコード)
DSM-3-R(1987) 運動能力障害、注意欠陥/多動性障害
DSM-4(1994)、DSM-4-TR(2000)
アスペルガー障害、レット障害、小児期崩壊性障害
DSM-5(2013) 知的能力障害群、限局性学習症/限局性学習障害、運動症群/運動障害群、コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群、注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害

文献1より引用

2004年12月には、発達障害者支援法が国会を通過し、2005年度から施行され、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義された。この結果として、身体障害、精神障害、知的障害に加えて発達障害が法律上も障害の仲間入りをした。

この法律が施行されるまでは、たとえば自閉症があっても、知的障害を伴っていないと公的扶助の対象とならなかった。知的障害を伴わなくても、対人関係面や、コミュニケーション面に課題を抱え、社会適応に困難を来す人たちが、やっと支援の対象になったわけである。役所の窓口で支援を求められれば、法律施行前と異なり、門前払いされなくなったわけである3)

2 発達障害の頻度

学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症等、学習や生活の面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒数について、文部科学省が2012年に実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の結果では、約6.5パーセント程度の割合で通常の学級に在籍している可能性を示している4)

また、2002年に文部科学省が調査した「教育上の配慮を要する児童」(調査は発達障害関連の質問紙を使用)数は約6.3%であり、2012年の段階でも全児童生徒の約7.5%とされており、10年間にわたり同じような状況が継続していることが分かる。これらの結果から、全員が社会的支援を必要としていないとしても、発達障害は極めて数が多い“障害”であることは間違いない5)

3 注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(ADHD)

ICD-10では、「不注意」「過活動」「衝動性」を主要症状とし、発症の早期性(7歳以前)、持続性(6か月以上)、広汎性(複数の場面でたびたび観察されること)を強調し、DSM-4-TRでは、注意欠陥/多動性障害とし、主要症状を「不注意」と「過活動/衝動性」に分け、7歳以前の発症、6か月以上の持続、複数の場面で現れる社会面あるいは学業面の著しい障害などを付帯条件とし、広汎性発達障害(pervasive developmental disorder:PDD)、精神統合失調症、うつ病などが除かれていたが、DSM-5では発症年齢が7歳以下から「12歳までに」に変更、症状型が次の4型に分類された。混合、不注意優勢:多動症状3/9以上、不注意(限定):多動症状2/9以下、多動性/衝動性優勢になり、自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)の除外基準の撤廃と思春期以降にも言及されるようになったことが主な変更点である6)

4 自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)

診断基準としては、対人的な相互反応の障害、社会性の障害、言語・非言語によるコミュニケーションの障害、想像力の障害とそれに基づく行動の障害が基本症状とされる。加えて感覚過敏、こだわりなども重要な症状である。難治性ではあるが特定の症例を除き進行性ではなく、隔たりはあるが発達もみられる。典型的に当てはまるものを自閉性障害(カナータイプ自閉症)、言葉の問題が明らかでないものはアスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)などが含まれる。PDDでは、知能指数が低い場合(古典的カナー型)と、知能指数の高い場合(高機能自閉症、アスペルガー症候群)がある。

DSM-5では、ASDとして、1.社会的コミュニケーション・社会的相互性の3項目を設け、すべて満たすことを条件とした。「社会的情緒的相互性、連続性の欠如」、「言語あるいは非言語コミュニケーションにより、社会的相互関係、連続性における欠陥」、「関係性、連続性を発展させ、維持し、理解することの欠陥」である。2.限定され、反復する行動、興味、活動性の様式として4項目を設け、少なくとも2項目満たすことを条件とした。「常同的で反復的な話しぶり、運動動作、物の使用、会話」、「同一性への固執、頑固な日常性への固執、言語的あるいは非言語的な行動における儀式的様式」、「きわめて限定され、固定された興味」、「感覚入力への敏感性または鈍感性、あるいは環境の感覚状況における通常でない興味」のうち2項目である。感覚入力については、DSM-4までは診断基準にはなかったものである。さらに、3.幼児期に発症すること、4.臨床的に明らかな障害を生じていること、5.知的発達症、全般的な発達の遅れ、では証明されないことが付け加えられている6)

5 学習障害(LD)、限局的学習症/限局的学習障害(SLD)

LDは、元来教育現場で用いられていた概念であるため医学的概念である「ADHD」や「PDD」と異なる軸で考えられていた。一般的には、「学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない」(学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究会議:学習障害児に対する指導について(報告).文部科学省,1999)と定義される。

DSM-5では特定の学習症として、読字障害、書字障害、算数障害が用意されている。SLDについては、1.学習に困難があり、これらの困難さに対して介入しても、症状は少なくとも6か月続く、2.障害のある学問的スキルは、個人の暦年齢から期待されるものよりも低く、学問的・職業的な行動、および日常の生活活動において、著明な障害があることが確認できる、3.学習能力障害は学齢期に始まるが、学問上のスキルが必要な能力限界に達するまでに、明らかにならないかもしれない、4.学習上の困難さは、知的能力、視聴覚的能力、精神的・神経学的疾患、心理社会的逆境、言語上達の欠如、不適切な教育妨害によらない、の4つを満たすことが条件である。

読字障害については「単語の正確な読み」、「読む速度や流暢さ」、「意味を理解して読む」を、書字障害については「正確につづる」、「文法と句読点の正確さ」、「明確に書いて表現すること」を、計算障害では「数の概念」、「算数上の記憶」、「正確ですらすらした計算」、「正確な数学上の意味」を、できれば特定する。軽度、中等度、重度の重篤度を決める6)

6 発達障害の特徴

発達障害の特徴として、1.外見からの課題の分かりにくさ、2.発達障害の存在の境界が明確ではない、3.外見は改善したようにみえることもある、4.家族的背景を持つことがある、などが挙げられる。

また、発達障害は、1つが単独で存在するのではなく、程度の差があっても、多くが重複して存在する。自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状で受診されても、ADHD、LDなどが重なっていることは珍しくない。知的障害、発達性協調運動症/発達性協調運動障害(DCD)、チック障害などが併存していることもあり、発達障害以外の二次的な障害が併発していることもあり、1人ひとりの発達障害児者はこれらが重なりあった存在であり、特定の疾患や障害にのみ結びつけるのが難しいのが実情である6)

7 教育との連携

学齢期の発達障害のある児童・生徒・学生への支援については、2007年度より始まった「特別支援教育」で個々のニーズに合わせた教育支援が徐々に浸透し始めている。医療・療育機関は、教育と連携して、個別や集団のリハビリテーションや、たとえばADHDに有効とされる薬物療法の併用や発達障害の一次的問題や二次的に派生する精神疾患の治療にあたることも増えている。

2016(平成28)年4月より施行された「障害者差別解消法」におけるキーワードともなっている「差別的取扱の禁止」「合理的配慮の提供(不提供の禁止)」を、文部科学省はいち早く導入し、各学校での合理的配慮がスタートしている。また、大学などでも、学生相談室などが窓口となり、発達障害などの特性への配慮事項の申請を受け付け、授業への配慮や支援の調整を行なっている学校が増えている6)

従来、発達障害児支援の現場では、教育と医療、福祉の連携の必要性が指摘されていたが、近年は、発達障害児の数の多さから、その必要性どころか、連携なくして支援は成り立たないといった状況に変化している。そのような中、発達障害児を都道府県や市区町村が管轄する療育センターや発達センターのみで支えることに限界が生じている。必然的に、民間事業者が運営する「児童発達支援事業」や「放課後等デイサービス」などの需要が高まっているわけだが、必ずしも専門職による支援を受けられるわけではなく、それらの質の担保も喫緊の課題である。

発達障害は、生まれつきの特性であり、その特性はどこまでが正常でどこからが異常かというような区切りはできない。発達障害という特性を抱えた児に直面した時に、教育、医療、福祉の現場において、一方向的に無理な教育やリハビリテーションを強いることで彼らの特性を変えようとするといったことがあってはならない。発達障害のリハビリテーションは、当事者のみが行うべきものではなく、それを取り巻く周囲の人々の理解と寛容さを育むものであると筆者は考えている。

(はしもとけいじ はしもとクリニック経堂)


【文献】

1)神尾陽子「発達障害の概念・分類とその歴史的変遷」精神科治療学 29(増刊号)、10-13、 2014

2)Kamio Y, Tobimatsu S, Fukushi H: Developmental disorders. In: (eds.), Decety J, Casioppo J. The Oxford Handbook of Social Neuroscience (Oxford Library of Psychology), Oxford University Press, Oxford, p848-858, 2011.

3)市川宏伸「現況と課題―国内外の動向―」総合リハ 41、7-11、2013

4)文部科学省HP『特別支援教育について』http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/001.htm(2016年1月12日アクセス)

5)市川宏伸「現況と課題―国内外の動向―」総合リハ 41、7-11、2013

6)宮尾益知・橋本圭司編著『発達障害のリハビリテーション 多職種アプローチの実際』東京、医学書院、2017