音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

新春メッセージ

パラレルレポートへの期待

石川准

国連障害者権利委員会による日本の第1回審査は、2020年春の障害者権利委員会第23会期に行われる公算が大きい。すると、事前質問事項は2019年夏の第22会期で作成される。また、日本の審査責任者(カントリーラポルタール)は、2019年春の第21会期で決まる。

審査責任者は、事前質問事項の原案作成と審査後に採択される総括所見の原案作成を担当する。審査責任者は立候補制なので、日本の審査に関心の高い委員が手を挙げる。なお、委員は自国の審査には関与できない。

委員は、審査責任者を担当することで、権利委員としての経験を深め、熟練していく。とはいえ、政府報告と事前質問事項への回答を読んで、政府との建設的対話を行うだけでは、権利条約に照らして、その国の障害者政策にどのような深刻な懸念があるのか、どのような改善を求める必要があるのかを、確信を持って判断するのは容易なことではない。どの国の制度も複雑であり、運用と制度には乖離があるからだ。

そのため、障害者権利委員会は、急所に刺さる総括所見を策定するために、審査対象国の市民社会に質の高いパラレルレポートを求めている。すなわち、条項ごとに、権利条約の国内実施における課題を端的に示し、具体的な改善方法を提案するレポートである。

一般に、パラレルレポートは、多様な障害者団体が一堂に会して作業チームを作り、そこで一緒に議論し、合意しまとめたものほど信頼性が高い。日本弁護士連合会のような法律の専門家団体からのパラレルレポートも同様だ。

パラレルレポートは、第22会期障害者権利委員会開催の2~3か月前までに障害者権利委員会(事務局の国連人権高等弁務官事務所)に送付することで、事前質問事項はいっそう的を射たものになる。さらに、審査を受ける締約国は、審査の前に事前質問事項への回答を障害者権利委員会に送付しなければならないが、市民社会も、事前質問事項へのパラレルレポートも作成することをお勧めする。

また、総括所見においては、改善の動きを1年間継続的に注視する最重要課題を二つ示すことになっている。これをフォローアップと呼ぶ。合意は簡単ではないと思うが、パラレルレポートのなかで、フォローアップへの指定を求める課題をいくつか絞り込むことができれば、また審査対象国との質疑応答(建設的対話)の前の市民社会からの説明(ブリーフィング)で念を押せば、総括所見に反映される可能性は有望である。良いパラレルレポートを作っていただきたい。

(いしかわじゅん 国連障害者権利委員会委員)