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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

新春メッセージ

パラレルレポート作成に期待すること

林陽子

私は2008年より国連の人権条約機関である女性差別撤廃委員会(CEDAW)の委員を務めているので、ここでは委員会の立場から見たパラレルレポートについて私見を述べたいと思う。なお、以下に述べることはCEDAWの作業手順に基づくものであり、障害者の権利委員会に適用されないものもあるかもしれないことを、あらかじめお断りしておく。

1 良いパラレルレポートとは

NGOレポートは、かつては「シャドゥ(影の)レポート」または「カウンター(対抗)レポート」と呼ばれ、政府報告書に対抗する「影の存在」であった。しかし、現在ではその重要性を多くの人権条約機関が認め、審査(政府代表団との「建設的対話」と呼ばれる)に必須の情報であると考えられている。レポートの呼称も、「インデペンデント(独立)レポート」、「パラレル(併行)レポート」と変わってきており、「影の存在」から表舞台に出てきた感がある。

委員会から見て有益なパラレルレポートとは、以下のようなものである。

・簡潔であり、統計や資料など、エビデンス(証拠)に基づいていること。

・国家(政府)報告書と見解を異にする点について、その理由が明確に述べられていること。

・具体例(たとえば裁判所の判決)が記載されていること。

2 パラレルレポートを委員に読んでもらうためには

CEDAWの場合は国別審査にタスクフォース(チーム)を構成し、主査(ラポルトゥールと呼ばれる)を中心にチーム内で担当の条文を割り当てる。なお、自由権規約委員会は主査の名前を公表していないと聞いている。障害者の権利委員会で日本審査の主査が事前にわかるのであれば、できるだけその委員に多くの情報を提供し、各条文を担当する委員に必要な情報を提供してもらうのが有益である。国連は「グリーン・ポリシー」との名の下に、ハードコピーの配布を制限しており、CEDAWに関しては電子メールでしかレポート類は提供されない。NGOのレポートは自分でコピーして持ち込めば配布できるが、そうでない限り、委員の机上には配られない。障害者の権利委員会で委員の情報へのアクセスについてどのような保障がなされているのか、私自身ももっと知りたいと思う。

3 日本の課題

障害をもつ女性の権利、特にリプロダクティブ・ヘルス・ライツとジェンダーに基づく暴力について、日本の国家報告書では情報が不足している。NGOからの情報提供に期待する。また、この項目が日本に対するフォローアップ事項(次回審査を待たずに追加情報を提供する対象)となることを願う。

(はやしようこ 弁護士、女性差別撤廃委員会委員)