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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

座談会
パラレルレポート作成に向けて

大胡田誠(おおごだまこと)
日本盲人会連合参与、弁護士
崔栄繁(さいたかのり)
DPI日本会議事務局
嶋本恭規(しまもとやすのり)
全日本ろうあ連盟理事
薗部英夫(そのべひでお)
日本障害者協議会理事
山田悠平(やまだゆうへい)
全国精神病者集団運営委員
司会 石渡和実(いしわたかずみ)
東洋英和女学院大学教授、本誌編集委員

パラレルレポート作成の意義

石渡 日本は2014年に障害者権利条約を批准し、政府は2016年に報告書を提出しました。この政府報告は、障害者権利委員会が2020年春ごろに審査を予定していると聞いています。障害者団体、市民として活動している私たちは、パラレルレポートを提出するわけですが、この意義について、崔さんお話しいただけますか。

 パラレルレポートは、NGOレポート、シャドウレポートとかいろいろな言い方をしますが、今日はパラレルレポートで統一したいと思います。

障害者権利条約第35条の規定に基づいて、条約を批准した国は2年を目途に政府の報告書を国連の障害者権利委員会に提出することになっています。国連には10の人権条約があり、それらの人権条約を監視する監視機関、条約体と呼ばれる委員会が、政府の報告書を審査する制度があります。

政府報告書は、制度の紹介や行なっていることの紹介のみに終わっていることが多いので、非政府組織であるNGOが実際に起きている問題や課題を報告書にまとめて、政府と同等の地位を持って提出できるという仕組みです。障害者権利条約も、障害者権利委員会が条約体として審査を行うことになっています。

NGO側のレポートは、障害者の生活の実態が詳しく書かれているので、その国の障害者施策を判断していくうえで、なくてはならない大切なものです。日本の場合は、まずはJDFが中心になって準備を進め、さまざまな意見を反映させていくために障害者団体に広く声かけをする予定です。他の多くの国では、行政府・立法府・司法府から独立した人権救済機関があり、そのレポートも重視されますが、人権救済機関がない日本では、日本弁護士連合会の役割も大切だと思います。ちなみに政府報告という言葉が流布していますが、DPIでは「国家報告書」としています。

薗部 「政府報告」ですが、この報告は政府のみならず、立法府・司法府を含めた締約国としての報告であることから、JDでは「締約国報告」と表記しようと話し合いました。

また、呼び名が長くてカタカナですとなかなか頭に入らないので、パラレルレポートを「パラレポ」と言っています。市民社会が作るパラレポは、権利条約に照らして、現在の日本の障害者に関する問題点をあぶり出すことが大切です。総括所見(勧告)が国連から出されても、それを反省して実行するかどうかは締約国の責任となります。でも問題点が明らかになれば、打開のための次の運動課題が見えてきます。

大胡田 パラレルレポートを出す意義は、国連の障害者権利委員会から、権利条約に照らして日本をどう評価するかという総括所見を得るための道具だという前提がまず必要かと思います。権利委員会が日本政府に対して、「事前質問事項」としてより詳細な報告を求める段階があるのですが、いい質問を書いてもらうためのパラレルレポートという位置付けをする。最終的にはいい総括所見を得るには、どういうレポートが必要なのかという視点で、JDFも日弁連も準備を進めていくべきだと思います。

また、レポートを読む側としての権利委員会は、いろいろな団体からバラバラ出てきた意見ではどこに問題があるのかがわかりにくいので、問題点をわかりやすく指摘することが、いい総括所見につながるだろうと思います。

弁護士は法律の専門家ですが、当事者の実感、肌感覚、声に対して必ずしも敏感でない時があります。日弁連としてはパラレルレポートを並行して作っていくなかで、勉強の機会をいただいているのは非常にありがたいですし、また法律の専門家だから言える視点もあります。日本の法制度の問題点、あるいは裁判でどのような不当な判決が出ているかなど、そういった視点も共有しながら、よりよいものにしていきたいと期待しています。

山田 パラレルレポートの最終的な目的は、権利条約に対する日本政府の解釈をどう改めさせるかだと思います。それを突破口にして、社会課題に応える法律改正(特に精神保健福祉法)に期待しています。なお、締約国報告は、内閣府の政策委員会の多様な当事者参画のあり方をはじめ、障害者団体で共有されている現状課題に対する記述が数多く抜け落ちています。パラレルレポートを機会に日本の実態を国際社会に示し、国内世論を喚起するような事前質問に寄与したいです。

他方で、昨今の政治や社会世相をみるに人権感覚が脅かされている時代のように思います。障害者コミュニティから、なぜ人権が大切かを問う役割もあると思っています。

連携した取り組みの重要性

石渡 それぞれの障害者団体は考え方や立場も違うかと思いますが、パラレルレポートを出す場合は連携して、統一した見解を出すことが求められると思います。連携の重要性についてはいかがですか。

嶋本 パラレポは、大変意義ある取り組みです。障害者権利条約が批准されて、それぞれの国がきちっと実行していく。そのためには、障害者団体が一緒になって意見交換をしていく取り組みは重要だと思います。全日本ろうあ連盟が重点を置き、取り組んでいるものを皆さまにもご理解いただき、また、私たち団体も、ほかの障害者団体が取り組み、目指していることを理解する。お互いに理解し、尊重し合えることで、連携運動が可能となるのではないかと思います。従って、このような機会をいただけることは有り難いことだと思います。

 JDFは今13団体で構成されていますが、これまでに多様な経験をしてきました。国連の権利条約を作っている最中に特別委員会が開かれた2002~2006年と、その後も含めて政府と20回ぐらい意見交換会を開きました。各団体がいつも同じ意見ではないのですが、内部で調整をしながらできるだけ同じことを言う。合意できないことは言わないで、各団体に任せるというルールを作って取り組んできた経験があります。

今回は権利条約をベースにして、子どもの人権などの近接領域も視野に入れながら、できるだけ幅広く進めていくことが大切だと思います。たくさんの意見を集約したパラレルレポートだと権利委員会に見せることは、説得力を生むと思います。どう連携していくかは内部で議論をしている最中ですが、非常に大切だと思います。

薗部 プロセスがとても大事ですね。権利条約に向けて政府との意見交換会をJDFで20数回行なってきたことは大きな意味があって、当時、政府側の担当者も障害者の実態を理解する機会になったと思います。そして今、JDFのパラレポ準備会がスタートして、毎月1回、4時間びっしりの会議があり、各団体が期日までに意見を出しています。その意見をもとに集中して議論すると、他の団体が考えていることがだいぶわかります。パラレポ作りのなかでお互いの現状を知り合うことはとても大事で、今後の日本の障害者運動にとても価値あるものと感じています。

石渡 権利条約ができたことで、今まで接点がなかった障害者団体が一緒に動くようになり、お互いの立場を理解し合うことが格段に進んだと思います。当事者団体JDFが出すパラレルレポートと、日弁連が出すパラレルレポートがタッグを組むと、インパクトある意見提出になるかと思いますね。

薗部 どうしたら国連の権利委員会が日本の問題点をわかってくれるかという視点で、限られた時間と分量の中で、連携しながらそれぞれがベストを尽くすことです。審査は、1か国約1日ですから、事前、当日のロビー活動も大切になりますね。

嶋本 全日本ろうあ連盟の加盟団体、47団体から現場におけるろうあ者の課題や問題がたくさん出ています。ろうあ者の課題・問題点の事例を取り上げていきたいと思います。

私たちからみると、ほかの障害者団体の方々は音声言語享受の面から見ると「聞こえる人と同じ立場」になります。手話は音声と同様、言語であり、手話や手話通訳の必要性を理解していただく。パラレルレポートの作成作業の会議に参加して意見を言うことが、私たちのことを知っていただき、また相互に理解する、重要な機会だと思っています。

山田 私は地元地域の活動が軸で、全国区の活動はまだ経験が浅いのですが、パラレルレポートの作成準備会に関わるなかで、各団体の課題意識を生の声を聞けるのは貴重な機会でとても勉強になっています。また、障害特性に応じた会議コミュニケーションのあり方を学ぶこともありました。地域での障害の枠を超えて連携する活動にも活(い)かしていきたいと思います。

パラレルレポートはボリューム的に制限があると聞いています。どのテーマを重点的に書くかといった問題が出てくると思います。障害をめぐる課題が山積する中で、その調整も大きな意味があり、どこまで連携がうまくいくかが成功のカギかなと思っています。

パラレポで強調したいこと

石渡 パラレルレポートで「ここを強調したい」ということを、それぞれの立場で具体的にお話しください。

◆手話が言語だと認めてほしい

嶋本 条文を特定するより、全般的な問題だと思っています。インクルージョンという考え方でいえば、社会の環境整備は非常に大事ですが、その前にろう教育という問題を考えなければならないと思います。聴覚障害者、聴覚障害児は手話を取得し、手話でコミュニケーションができるように整備していくことも一つの手段です。

インクルージョンの考え方になってくると、手話でコミュニケーションをとる環境が難しくなってしまう恐れもあります。ろうの子どもたちが集まり、教育を受けることがインクルージョンだという考え方もありますが、聞こえる人たちの社会にろう者の社会を確立するという考え方ではないのですが、社会の共生というか、少数であるろう者のコミュニティの必要性、手話に対する正しい知識、理解がないと難しいものがあると思っています。

石渡 権利条約の大事な視点として、違いを認め合う、多様性の尊重があります。そういう意味では、ろう教育、ろう文化を社会の中でどう位置付けていくかが大事になってくると思います。

嶋本 そういう面では、権利条約の第何条といったどれかに当てはめていくか、パラレルレポートに反映させるのは難しい面があるかもしれませんが、単純に私たちの要望を伝えて終わりではないと思っています。パラレルレポートにどう組み込んでいくか、効果的な方法を教えていただければありがたいです。

全日本ろうあ連盟は、日本政府に対して手話言語法の制定を求めていますが、手話言語法は、権利条約の条文に該当するものがないので、どう当てはめていくか、紐づけに意見を出して繋(つな)げていきたい。たとえば、教育面ならどこにどう結び付けていくのかが大事だと思っています。

石渡 生活にはいろいろな場面がありますし、人生のサイクルでも教育、働くこととか、いろいろな側面がありますからね。

大胡田 権利条約を手話言語法に結びつけるきっかけはいくつかありまして、権利条約第2条に「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう」という定義があったはずです。手話のような非音声言語も1つの言語だと定義されています。「自らが望む方法によって情報を受け、発信する権利がある」という21条の条文は、「手話が得意な人は手話で情報を発信し、情報を受けることを保障するべき」という規定です。これを国内で実施するには、独自の手話言語法が必要だということは、かなり説得力を持って言えると思います。

 第24条の教育では、ろう児のアイデンティティの確保が書かれてあるので、障害というよりは言語としてきちんと切り分ける必要があると思います。

薗部 権利条約はインクルージョンを強調しています。そして、それをなすためのアクセシビリティを強く打ち出しています。アクセシビリティは、「利用の容易さ、しやすさ」と和訳されていますが、本当は社会参加のための重要な中心的考え方です。アクセシビリティという視点から手話言語も展開できるといいと思っています。

嶋本 手話を言語として認めていただく、それは薗部さんが言うようにろうあ者もあらゆる場面において社会参加できることが一番の目標です。

私たちの社会参加の障壁とは、身体的機能で言えば、“聞こえない、うまく発声できない、”だけなのですが、手話でのコミュニケーションが可能な環境があり、情報環境があれば、自分たちの能力を最大限、発揮することができます。

また、ろうあ者の中には、文や言葉をうまく書けない人たちがいます。それは、適切な教育カリキュラムを構築しなかった、この社会の責任と言えます。障害の有無にかかわらず、一人ひとりに合った適切な教育を受けられてこそ、社会人としての役割が果たせる大人に成長できるのだと思います。

私たちろうあ者にとって、教育におけるコミュニケーション環境や情報保障の課題をクリアせずに、目指すべき社会参加のあり方には成り得ません。

◆精神障害者のアクセシビリティとは?

石渡 アクセシビリティは、精神や知的の方には明確にされきれていないという話も聞きますが、山田さん、いかがですか。

山田 パラレポの検討の際、アクセシビリティの関連では、病者集団からは、論点として社会参加を支える移動支援サービスを挙げました。定期的に外出できることは、体調が多少悪い時でも気晴らしになりますし、極端な体調悪化を防ぐことにつながり、精神障害者にとっても大事なサービスだと思います。しかし、まだまだ制度利用では課題が多いです。

精神障害者の移動支援サービスは、利用目的が固定したスケジュールで利用することばかりではないので、ヘルパー確保により困難が伴います。また、ヘルパーの交通費助成は、まだまだ全国的には制度化されていません。三障害同一に則り、我々にも交通費助成を保障してほしいと訴えていくことが大事だと思っています。

◆インテグリティー、そのままでいる権利

山田 個人的な見解ですが、パラレポでより重要だと思うのは、第17条だと思っています。インテグリティー、そのままでいる権利が書かれているわけですが、「病」や「障害」は異常なもので、治さなくてはいけないという価値観からの脱却はとても大事だと思います。なぜなら、「健常」か「健常ではないか」と規定する社会のあり方が、本質的な差別や抑圧につながる問題だと思うからです。強制医療に関連する第12条、第14条などももちろん重要ですが、根っこの部分で向き合うのは第17条なのかなと私は思っています。

◆「第1ロケット」でどこに重点を置くか

薗部 JDは62団体の協議会です。いろいろな意見があり、JDの政策委員会と3役の合同でプロジェクトチームをつくりました。JDFの会議とほぼ並行して、JDのそれぞれの団体が抱えている実態や意見をまとめる検討会を行なっています。福祉、雇用、所得保障、教育、コミュニケーション、意思決定などの分野で十分な見直しができていないと思います。

条文では、第1条では制度の谷間に置かれている人たちをどう救うか、第9条のアクセシビリティ、第12条の法律の前にひとしく認められる権利、第19条の自立した生活及び地域社会のインクルージョン、第21条のコミュニケーション、第24条の教育、第27条の労働及び雇用、第28条の相当な生活水準及び社会的な保障。このあたりが重点ポイントだと思います。

たとえば、第19条では、地域での福祉サービスの不足のために多くの障害者が精神科病院や入所施設から地域移行できないでいる事態がほとんど改善されていない。介護保険のサービスから「軽度」者を除外したり、利用時の自己負担額を増やすなど利用制限が進められ、社会的保護への公的な責任の後退が懸念されています。

また教育についても、通常の学校での基礎的環境整備も合理的配慮もともに不十分で「教育の質」に大きな問題がある。一方、特別支援学校では生徒数の急増に教育条件の整備が対応できない深刻な状況があります。実態を出し合うことが大事です。

ただ、今度のパラレポですべてが終わるわけじゃない。まずは大事な第1ラウンドと位置付けて、第1ロケットでどこを重点的に突破していくのか。第2ロケットでは何を重点課題にするか。ある意味、かなり中長期的な視野も必要です。パラレポは、今後のJDF活動の軸になっていくのではないでしょうか。

◆司法の問題、監視機関の設置

大胡田 日弁連としても、24条の教育は重要だと思っています。社会の新たな分断が起きていて、この15年ほどで特別支援学校に在籍している生徒が小中学校レベルで2倍になっています。特別支援学校の数も990数校から100校ぐらい増えています。インクルージョンが叫ばれていますが、むしろ学校レベルでは分断が進んでいる。一朝一夕にはいかないことはわかりますが、みんなと同じ教室で勉強できる合理的配慮を誰でも受けられるような予算措置と教員の資質向上が必要だろうと思います。

私の考えですが、5条の差別禁止、13条の司法、33条の政府から独立した監視機関の仕組みが大きな問題だと思います。差別解消法は立法府と司法府を対象としていないので、日本の立法と司法は差別禁止のルールを持っていない状況にあり、権利条約の理念からすると非常に不十分だと思います。差別解消法には大きな問題があって、民間事業者の合理的配慮が努力義務である点とか、間接差別や関連差別を規制しきれていないところも大きな問題だと認識しています。

13条の司法にも大きな問題があります。民事訴訟法、刑事訴訟法に障害者に対する差別禁止や合理的配慮を規定した条文がほぼ1つもないのです。そのため、障害をもった人が裁判の当事者や関係者になった時に、合理的配慮を受けられない事例があります。また司法関係者の教育が不十分なために、主に知的障害の方が障害の特性に配慮しない取り調べを受けて自白させられたり、やっていないことをやったと言わされたり、冤罪に結びついているケースも多く知られています。

33条については、政府から独立したモニタリング機関が必要ですが、日本にはそういった機関がありません。たとえば受刑者が権利条約違反を主張したいと思っても、どこに相談していいかわからない。事実上、日弁連が受け皿になっていますが、政府から独立して権利条約の履行状況を監督する機関がなければ、日本国内の権利条約の履行を確保できないだろうと思います。

石渡 根本的な課題が法律の視点から出てきました。法律への問題提起としても、パラレポを発信するのは大きな意味があるのでしょうか。

大胡田 非常に大きいと思います。条約は、日本国内で憲法の次に威力を持っているはずですから、法律が条約に合わせなければいけないはずですが、それがうまくできていない。その辺りを認識しなければいけないと思います。

◆「完パラプロジェクト」で事例収集、研究を

 障害種別を超えた当事者団体のDPIでは何が重要か、取り組みも含めてお話ししたいと思います。

DPIは団体の性質上、障害に関するあらゆることに取り組まなければいけないと考えており、昨年から、障害者権利条約完全実施のためのパラレルレポート作成プロジェクト、「完パラプロジェクト」を行なっています。

その中でも、障害者権利委員会から出されている5つの一般的意見を中心に研究、事例収集をしています。第6条の女性障害者、第9条のアクセシビリティ、第12条の法の下の平等、第19条の地域生活、第24条の教育です。その他に重要な点として、第5条の差別禁止、第33条の完全実施など、原理的にきちんと押さえるため、さまざまな人を交えながら研究しています。

12月に行なった政策討論集会は、その中間的な報告会の性格を持たせました。特別委員会の時の意見集約と同じですが、アイデア出しを通じて考えられるいい機会でもあると思います。

海外の動きも含めて発信し、日本の実情に合わせて具体的に政策展開をしていく。いろいろな仕掛けや工夫が必要になってきます。その1つがパラレポだと考え、中長期的な視点でいろいろな取り組みをしています。

石渡 12条との関係で話題になる成年後見制度については、関連する欠格条項をすべて廃止するという動きも出てきていると聞いています。それも、障害者権利条約が大きな推進力になったと感じますし、女性障害者の複合差別への注目も、DPIの女性ネットワークが頑張ってくれているからこその、新しい動きだと思っています。

参考にしたい海外の取り組み

◆各国のパラレポに学び、ロビー活動も

石渡 パラレルレポートを提出するにあたって、参考にしたい海外の取り組み、お手本になるようなレポートはありますか。

薗部 JDは、先進国のパラレポと総括所見の日本語訳に取り組んでいます。各国がどういうパラレポを出して、それに対してどういう総括所見が出されているか。国連はそれらをすべて公開していますが、言葉の壁があるので、ニュージーランド、イタリア、カナダ、デンマーク、ドイツなどのパラレポを訳して、「JD仮訳」としてホームページに公開しています。

こうした学習を大切にしながら、日本の締約国報告のそれぞれの条文について2年間かけて話し合いを続けて、「JDパラレポ草案」も走りながら公表しています。

ある理事はデンマークのパラレポを訳しているのですが、「権利条約を読んだ時と似たような衝撃がある」と言います。第12条では、「支援付き自己決定をする」とある。目の見えない人はサインできないから、スタンプを押すことで権利を認める措置が必要ではないか。知的障害の人は、選挙で文字だけでは情報がわからないから、顔やロゴマークで意思表示ができるようにしてほしい。パラリンピックのメダリストの報奨金が、オリンピックのメダリストの半分なのは同額にすべき、といったところまでパラレポで指摘されています。同年齢の市民と同等の権利を目指している権利条約の視点に立って作られたパラレポから、それに対して、どういう総括所見が出ているかを学び、日本のパラレポに参考にしたいと思っています。

石渡 今の話はとてもインパクトがあって、書くべきことが明確になりますね。

嶋本 先月、ハンガリーへ出向いた時に障害者権利委員会メンバーである、ロバシー・ラスロ博士とお会いし、いろいろとお話ししました。彼は聴覚障害者であり、アダム・コーシャ氏(ハンガリー出身、欧州議員)のアドバイザーや大学講師を務めておられます。

障害者権利委員会には各国18人のメンバーがいらっしゃいますが、はっきりした具体性のあるパラレルレポートを出さないと、日本はよくわからないという受け止め方をされてしまうのではないかと思います。

1か国あたりの審査では6時間しかないことから効率的対話が重要です。NGOとの事前協議の機会が少ない、パラレポの内容が一般的で具体性を欠く等、心配点があげられます。

また、締約国報告にある記述の一つ一つを取り上げ、良い点及び悪い点を提示し、具体的に書く必要があります。可能であればデータを示し、法的主張の形を出し、現実的で最もらしい根拠に基づく内容であるとお話しをいただきました。ただし、やはり列挙するのではなく、主張はそれぞれ簡潔に記載することも重要とのことでした。

薗部 総括所見を意識しながらピンポイントで主張の精度を増してしていくことが、求められていると思います。短時間でどれだけやれるか勝負ですね。

 パラレルレポートを総括所見に反映させるには、どこの国でもやっていますが、事前のロビー活動や委員へのアプローチが必要になってきます。日本からは石川准さん、日本の状況を知っているアジアのモンティアン・ブンタンさんも権利委員になっています。

各国を担当する審査委員は、文化などが近く、その国が理解しやすいということで、慣行的にアジアならアジアの委員です。まだ確実ではないのですが、モンティアン・ブンタンさんが日本の担当になる可能性は低くはないのではと思います。限られたレポートの中で全部を伝えることは無理ですので、エビデンスや事例、背景などを理解してもらうには、事前に委員を日本に呼んだり、資料を送ったりというロビー活動は大切だと思います。

山田 精神障害の領域では、2014年からTCI-A(精神障害者をインクルージョンする地域社会変革へのアジア横断同盟)という取り組みがスタートしました。アジアの中でも医療水準、文化などさまざまな違いがありますが、権利条約第19条の地域インクルージョンを共通理念とした連帯を図っています。去年、日本で会合を初開催しましたが、改めて権利条約を通じて国や地域を超えてつながるすばらしさを感じました。台湾は国連に対しては特殊な政治状況にありますが、独自の総括所見を実施したと聞いています。TCI-Aに関わる台湾のメンバーもパラレルレポート作成に参画し、地域インクルージョンやSDGsを意識したことなどの報告には大いに刺激を受けました。

なお、病者集団では自由権規約委員会に2017年7月に強制医療の問題や虐待について意見を出して、11月のリストオブイシューに反映することができました。国際社会で確認された課題として、国内でのアピールや法改正の議論に活かしていきたいと思います。また、障害者権利条約はもちろんですが、障害者権利条約以外の人権条約や人権理事会などで市民が発信できる機会を通じて、重層的に国際社会に訴えていくことが大事なことだと改めて感じています。

◆独立した人権救済機関の設置を

石渡 パラレルレポートには、他の人権条約との関連ですとか、長期的な視点、世界的な広がり、それぞれを併せ持つことが大事だということも感じさせられました。

大胡田 日本の法律は国内だけを考えていたと思うんですが、国際的なルールができて、日本の法律を国際政治に合わせる道筋ができたのはとても大きいと思います。国会議員も、権利条約ができたことによって、国際水準ではここまでやらなければいけないのかとようやく気づいた。まだ始まったばかりですが、日本の国内法制を国際政治に持っていくうえでは、権利条約の存在はとても重要なのかと思います。国内の人権水準をモニタリングする組織はまだ脆弱なので、政府から独立した人権機関を整備していかないと、日本国の人権水準は上がっていかないだろうという気がします。

 何回も話が出ていますが、独立した人権救済機関がないと、実際の人権救済も、人権条約をベースにした施策を監視することもきちんとできません。

私は韓国の調査研究を行なっていますが、韓国の人権委員会は権利条約も参考にしながら各行政機関に政策勧告を行なっています。日本では、障害者政策委員会に頑張っていただきたいのですが、政府の中の組織なので限界がある。NGOがタッグを組んでやっていくしかないという気がします。

参考にしたい海外の取り組みについて言えば、障害者権利委員会から韓国政府に出された総括所見の内容は、国情、制度が似ており、ある意味参考になります。もしかしたら日本にも60~70%は当てはまるのではないかと思います。逆に総括所見に反映させないように、制度改革に取り組んでいかなければと思います。

韓国も台湾もレポート提出の事務局は、障害者権利条約だけではなくて、国連の人権条約を政策に反映させようとするNGOが中心です。韓国では、国連人権政策センターというNGOが事務局で、セーブ・ザ・チルドレンという子どもの支援専門の団体なども入っています。台湾もNGOが事務局をして、障害者団体、法律家団体、死刑廃止運動をしている団体や、LBGTも精神障害当事者がいるということで関わっています。韓国では法律家、弁護士、学者も入っているので、チームに分かれてテーマごとに検討しています。

大胡田 行政・立法・司法から独立した立場で監督、監視をする機関がぜがひとも必要だと思います。

石渡 核になる組織を、民間の立場が連携して確立していくことが、権利条約の理念を実現していくにあたり、非常に大事になると改めて思いました。

2018年の取り組み

石渡 では、2018年、今年はこれに力を入れたいということをお聞きしたいと思います。

薗部 中長期的な流れも射程に置きながら、連帯できるところを強くしていくことが大切ですね。それと選択議定書の批准の課題があります。「今までやったことがない」からというレベルの対応しかない。選択議定書の批准は現在92か国を超えています。

 2017年8月9日にJDFパラレルレポート準備会の第1回の会合を開きました。事務局でテーマ、課題を設定して、できるだけ簡潔に各団体から自由記述をしてもらい、事例、データも出せるところは出していただいています。3月まで月1回ずつ開催して第33条ぐらいまで行い、3月終わりにレポート骨子案の下案の整理をして、来年度の活動に向けて準備会の委員にお示しして議論できたらと思っています。

来年度からはJDF以外の団体にアプローチをして、できるだけ広い意見を取り入れて作成する方法を考えています。2019年3月ごろには英訳を終えて、事前質問事項に合わせて国連の障害者権利委員会に提出したいと思います。

大胡田 日弁連も同じようなペースでパラレルレポートの作成を進めておりまして、おそらく来年度中には日本語版を作って翻訳していくと思います。日弁連は会内手続きが非常に煩雑なものですから、来年度前半ぐらいには完成させて、会内の説得にかかっていく流れだと思います。まとめる段階ではJDFとすり合わせをして、役割分担を確認していきたいと思っています。

個人的な思いとしては、パラレルレポートの作成は、これから5年先10年先に日本をどういう国にしていきたいのかを考える作業だと思います。事務的には結構大変ですが、何も変わらないと思うのではなくて、夢を持って、自ら何か仕掛けていくぞというような、ワクワクするような思いで取り組んでいきたいと思っています。

薗部 JDはこの2年間、権利条約とパラレポの学習を続けています。それでも、学習のたびに、「初めて知った」という人がたくさんいます。権利条約を学び続けていかなければと思います。そして「情報の公開と参加」が大事です。

政府は、「地域のあらゆる住民が支え手と受け手に分かれるのではなく、地域に暮らし、生きがいを共に作り、高め合うことができる地域共生社会の実現に向けた取り組みを」と「我が事・丸ごと」政策を進めようとしています。でも日本は、障害者が暮らしていくには社会資源が圧倒的に弱い。「自助」「互助」では無理がある。たとえば、重い知的障害のある人が安心して入院できる病院は関東エリアではほとんどありません。地域で生きるための社会環境を制度化して整えてより充実していくことが肝要です。そのための羅針盤は、権利条約、憲法、基本合意・骨格提言です。連帯して運動を強めていきたいと思います。

JDは、1月~3月に憲法第25条、生存権に基づく障害者施策のあり方を問い直す連続講座を企画します。2018年はとても重要な年になりそうですね。

山田 参議院先議の法案として、初めて市民の力で成立を阻止した非常に意義深い運動ともなった昨年の精神保健福祉法をめぐるたたかいが今年も展開されます。強制医療を合理化する問題、ある法律の廃案に引き続き頑張っていきたいと思います。ほかにも障害者基本法や障害者虐待防止法など重要な法改正、障害者雇用促進法の施行なども控えています。改めて現場目線で、課題点を検証し、学習活動、ロビー活動を展開していきたいと思います。

また、そもそもとして、精神障害者に対する偏見や差別はまだまだ根強いものがあります。人権モデルに基づいた精神障害の理解啓発についても実施していく必要があります。

地元の東京都大田区では、障害者権利条例制定を目指す活動があります。現場で起きている課題と、法律や制度の議論それぞれが活かせるように、地域での活動にも引き続き力を入れていきたいです。地域、全国区、アジア、3つすべてに共通する大きい軸となる障害者権利条約のパラレルレポート作りに引き続き頑張っていきたいと思います。

嶋本 パラレルレポート提出及び審査までにあまり時間がないので、かなり慌ただしい状態だと改めて痛感しています。JDから「JD仮訳」を出しているニュージーランド、イタリアなどをぜひとも参照し、聴覚障害関連を掘り下げて具体的な例を出せるかを検討していきたいと思います。

全日本ろうあ連盟として取り組むべきことはパラレルレポートだけではなく、手話言語法の制定を目指す取り組みもあります。聴覚特別支援学校の問題では、聴覚特別支援学校に通うろう児は減り、普通学校に通う子どもたちが増えています。その代わりに、ろう重複だけではなく、聞こえる知的や精神の子どもたちが入学しています。専門性のある教育があやふやになってきているという問題提起もしていかなければと思います。手話が言語であることへの認識と理解を改めてお願いしたいと思います。

 DPIは、ずっと「障害者が地域で平等に障害のない人と一緒に暮らせる社会を作っていく」と主張してきました。インクルージョンといった時には、いわゆる統合ではなくて、すべての人たちを一緒の地域、コミュニティに入れるように、社会の側が構造を変えていく。そこには差別解消法の充実、交通バリアフリー法の改正など、すべて含まれています。そのほか、法定能力の行使、意思決定を支援していく活動も必要です。成年後見制度の欠格条項をなくすことはもちろんですが、それ以外の欠格条項をなくす取り組みももちろん重要です。

課題がありすぎるのですが、パラレルレポートの作成は活動を進める推進力の1つにすべきだと感じていますので、JDFの皆さん、それ以外の団体と協力しながらやっていきたいと思います。また、一般社会に丁寧に伝えていくことも大切だと思っています。

石渡 市民社会の役割というところで障害者団体の役割は意識していたのですが、皆さんのお話を聞いて、改めて社会全体を変えるという方向になるのだと思いました。国際水準というグローバルな視点と長期的な視点の大切さ、いろいろな人たちが一緒に前に進んでいく連携の大切さを再確認しました。大胡田さんがおっしゃったように、夢、希望を持ちながら、取り組んでいけたらと思います。ありがとうございました。

(2017年12月11日開催)