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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

検証 障害者差別解消法 第6回

労働及び雇用分野における差別の解消(差別の禁止と合理的配慮の提供)の現状と課題

栗原久

1 労働分野での差別に係る相談状況の公表を

障害者差別解消法第13条は、事業主の立場で労働者に行う差別解消措置は障害者雇用促進法によるとしている。

ところで、厚生労働省のHPには、一般的な「いじめ・嫌がらせ」等への助言・指導等の状況をまとめた「個別労働紛争解決制度の施行状況」や、男女雇用機会均等法等に係る相談等の状況を集約した「都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」は公表されているが、障害者雇用促進法に基づく差別解消の実態(相談件数)は明らかにされていない。

一方、「使用者による障害者虐待の状況等」は、毎年度公表されている。労働局は使用者虐待に対して、労働基準関係法令(最低賃金法等)などに基づく指導等を行うが、雇用促進法に基づく助言・指導等は、平成28年度は132件(全体の13%)であり、平成27年度の79件(同8%)から7割弱増加している。

また、自治体が障害者差別解消法に基づき行う相談において、労働分野は大阪府(8/125件)、京都府(12/97件)、兵庫県(27/190件)等、おおむね1割前後あることが分かっており、労働局による差別解消に係る相談実態が分かる数値も、毎年度公表することを望みたい。

2 相談から解決に至った事例の活用も有効

次に、相談から解決に至った事例を挙げると、以下のようなものがある。第39回総合リハビリテーション研究大会では、「経営者の家族が、精神障害者の面接に反対して断った事例では、助言を経て面接が実施された」ことが、厚労省障対課長から説明されている。

また、平成28年度第1回大阪府自立支援協議会就労支援部会では、「遠方勤務に異動になり、改造車での通勤(1時間半)が負担になった例。障害者の要望を受け、元の勤務先への変更を合理的配慮として実施」した旨が、大阪労働局から指導例として報告された。

現在、合理的配慮指針事例集や、障害者雇用事例リファレンスサービスによる事例紹介はあるが、相談から解決に至った事例公表も、企業理解を促進するために有効と考える。

3 「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会(厚労省)」資料に見る課題

この研究会は、主に雇用率制度等の在り方に焦点を置いたものだが、ヒアリング資料等からは、差別解消の課題も抽出できる。

差別の禁止に関わるものでは、聴覚障害者が応募すら受け付けてもらえない状況が指摘されている。雇用促進法は募集・採用段階からの差別を禁止しているが、このことの周知が不十分であることの表れであると考える。

また、採用後の合理的配慮の手続きを企業が正確に理解し、積極的活用を図っているのかも気になった。1.事業主は採用後に、障害者である労働者からの申し出の有無にかかわらず、プライバシーに配慮し一斉メール等で合理的配慮提供の申し出を呼びかけ、2.把握した障害者に対して事業主側から定期的に職場で支障となっている事情を確認(本人からでも可)、3.障害者が希望する合理的配慮(支障となっている事情を伝えるだけでも可)について話し合う(支援機関の関与も可)等については指針等に明らかだが、改めて合理的配慮の手続きに特化した啓発を期待したい。

その他、中小企業が行う合理的配慮に係る支援にも言及があり、平成30年度実施予定の障害者雇用実態調査(5年に一度)では、事業所(5人以上)規模別の課題が明確になるよう、工夫した項目を盛り込んでいただきたい。

4 虐待防止の視点からも合理的配慮の推進を

使用者虐待の報告(平成28年度)には、次の事例が出ている。「事業主や事業主の配偶者から、作業が上手くいかない時に、『給与泥棒』等の暴言を受け続けている。…公共職業安定所は、障害特性を踏まえた指導方法等についての配慮を行うよう指導した」

こうしたケースでは、小さな芽のうちに摘むことが重要である。「作業が上手くいかない」ことに対し、指示の仕方を変える(見本を示す、絵で描いた指示書を作る等)発想が必要であり、合理的配慮の考え方が生きてくる。

筆者は現在、虐待防止のコンサルにも取り組んでいるが、合理的配慮が欠落した指示は、障害者の作業遂行の壁となるばかりか、支援する側のストレスにも影響を与え、虐待の要因になる場合があることを指摘している。

その意味からも、支援機関は積極的に企業に出向き、合理的配慮の提供が円滑にいくような働きかけを行なってほしいと考える。ヒアリング資料でも「現場での合理的配慮など社会モデルとしての接し方についてジョブコーチなども活用した教育」が提案されている。

5 国・自治体における表彰制度等への期待

最後に、松江市が条例で定めた合理的配慮等に対する表彰について触れたい。同市の要綱に係る例示には、雇用・就労の項目も掲げられており、今後、条例の有無にかかわらず、こうした動きが拡がることを願っている。

企業が合理的配慮に取り組むことは法の義務ではあるが、率先して取り組めるようなインセンティブも、また必要ではないだろうか。このことを国と自治体双方に期待したい。

(くりはらひさし (一財)フィールド・サポートem.(えん)代表理事/日本福祉大学実務家教員)