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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

霞が関BOX

高齢又は障害を有する受刑者を対象とした「社会復帰支援指導プログラム」の実施について

法務省矯正局成人矯正課 小島弘美

1 はじめに

近年、刑事施設では、高齢又は障害を有する受刑者(以下「障害を有する受刑者等」という。)の人数が増加傾向にあり、また、全受刑者に占める比率も上昇傾向にあります。

障害を有する受刑者等の中には、出所後の帰住先の確保をはじめ、親族からの支援を受けることが困難な方や、出所後に速やかに福祉サービスを受けなければ、自立した社会生活を送ることが困難であると認められる方が一定数認められるなど、出所後生活に困難な問題を抱えている方が多い実情にあります。

そのため、刑事施設において、従来から、障害を有する受刑者等の特性や問題性を踏まえて、更生のために必要な知識や態度を習得させるための指導に努めるとともに、保護観察所、地域生活定着支援センター、福祉関係機関等との連携により、刑務所に収容されている段階から、出所後速やかに適切な介護・医療・年金等の福祉サービス等を受けられることができるように調整を行う福祉的支援を実施するなど、出所後の円滑な社会復帰に向けた取組を進め、一定の成果を挙げてきました。

他方、障害を有する受刑者等を対象とした更生に向けた指導には、これまで統一的・標準的なプログラムが整備されていなかったこともあり、その実施の有無や指導内容は全国的に区々(くく)にわたっていました。また、福祉的支援は本人の意思に基づいて実施するものであるところ、障害を有する受刑者等の中には、福祉的支援の必要性が認められるにもかかわらず、福祉制度そのものへの理解不足や、社会復帰に向けた意欲の不足等から福祉的支援を受けることを希望せず、結果として、在所中に必要な支援を受けないまま出所する方が相当数存在するなどの課題がありました。

そこで、福祉的支援を必要とする障害を有する受刑者等を対象に、刑事施設入所後の比較的早期の段階から、出所後の円滑な社会生活を見据えた指導を実施することを目的とした「社会復帰支援指導の標準プログラム」を、福祉関係機関に所属する有識者等の協力を得て策定し、平成29年度内から全国的に展開することとしました。

2 社会復帰支援指導プログラム

(1)プログラムの目標

高齢又は障害を有する等の理由により円滑な社会復帰が困難と認められる受刑者に対し、基本的生活能力、社会福祉制度に関する知識その他の社会適応に必要な基礎的な知識及び能力を身に付けさせるとともに、出所後、必要に応じて福祉的な支援を受けながら、地域社会の一員として健全な社会生活を送るための動機付けを高めさせることを目標としています。福祉的支援を遠ざけずに、必要なときに自ら福祉の窓口に足を運ぶ、問合せをする、そんな気持ちを持ってもらうことを目指したプログラムと言えます。

(2)プログラムの受講対象者

高齢又は身体障害、知的障害若しくは精神障害(いずれも、その疑いがある場合を含む。)を有する受刑者で、福祉的支援の対象とすることが必要と認められる者(現に福祉的支援の対象となっている者を含む。)を受講対象者としています。

(3)プログラムの内容等

本プログラムは、全国の刑事施設(拘置所、医療刑務所等、一部の施設を除く。)で実施することとしています。

指導期間はおおむね4~6か月であり、全18単元を1~2週に1回実施する程度のペースで指導します。

指導項目は、1.基本的動作能力・体力・思考力の維持・向上、2.基本的健康管理能力の習得、3.基本的生活能力の習得、4.各種福祉制度に関する基礎的知識の習得、5.再犯防止のための自己管理スキルの習得に係る内容であり、実技、グループワーク、ロールプレイ、講話、視聴覚教材視聴等の方法により実施しています(図1)。

図1 社会復帰支援指導カリキュラム

  項目 指導内容 方法
1 オリエンテーション 1 受講の目的と意義を理解させる。
2 これまでの生活や、出所後の社会復帰に関する意識等を把握し、本指導受講の動機付けを図る。
・グループワーク
・講話
2 基本的動作能力・体力の維持及び向上(生活動作) 1 体力・健康の維持が、社会生活を送る上で重要であることを理解させる。
2 起居動作・歩行などに必要な体力・筋力等の維持及び向上を図り、在所中だけでなく、出所後も運動する習慣を身に付けさせる。
・グループワーク
・実技
・視聴覚教材の視聴
・講話
3 基本的思考力の維持及び向上(考える力) 1 物事を考えることが、老化防止につながることを理解させる。
2 日常生活で必要となる基本的な思考力等の維持及び向上を図る。
・グループワーク
・実技
・講話
4 基本的健康管理能力の習得1(身体の健康) 1 日常生活における健康管理の必要性を理解させる。
2 健康を自己管理する方法を学ばせる。
3 病気になった場合の、病院のかかり方を学ばせる。
・グループワーク
・講話
5 基本的健康管理能力の習得2(心の健康) 1 心の健康について理解させる。
2 心の健康を維持する方法を学ばせる。
・グループワーク
・講話
6

7
基本的生活能力の習得1、2(対人スキル等) 1 地域社会の一員として、良好な対人関係を維持することが再犯防止につながることを理解させる。
2 他者とのトラブルを未然に防止し、自己の考えをきちんと伝えるための対人関係スキルや会話スキルに関する基本的な知識と方法を学ばせる。
・グループワーク
・ロールプレイング
・講話
8 基本的生活能力の習得3(金銭管理) 1 これまでの金銭の遣い方などを振り返らせ、自分の金銭管理の問題性を認識させる。
2 円滑な社会復帰を図るためには、適切な金銭管理を行う必要があることを理解させる。
・グループワーク
・講話
9 各種福祉制度に関する基礎的知識の習得1(概要) 1 健康で安定した生活を送るための社会福祉サービスの利用について理解させる。
2 住民登録等の必要性を理解させる。
・グループワーク
・視聴覚教材の視聴
・講話
10 各種福祉制度に関する基礎的知識の習得2(就労支援と年金) 1 出所後の就労の確保の方法を理解させることにより、在所中又は出所後早期の段階で就労につなげる力を養う。
2 老齢年金等の基本的な内容を理解させる。
・グループワーク
・ロールプレイング
・視聴覚教材の視聴
・講話
11 各種福祉制度に関する基礎的知識の習得3(各種福祉制度) 1 健康保険及び障害者福祉、高齢者福祉、介護保険について学ばせる。
2 出所後に想定される生活上の困難場面等について整理させ、具体的な対処方法を学ばせる。
・グループワーク
・ロールプレイング
・視聴覚教材の視聴
・講話
12 各種福祉制度に関する基礎的知識の習得4(生活保護) 1 生活保護制度の仕組み、受給資格や申請の仕方等について理解させる。
2 社会福祉に対する関心を喚起し、関係窓口の利用の仕方について学ばせる。
・グループワーク
・ロールプレイング
・視聴覚教材の視聴
・講話
13 各種福祉制度に関する基礎的知識の習得5(特別調整と更生緊急保護) 1 特別調整と更生緊急保護について理解させる。
2 社会復帰後の生活について考えさせる。
・グループワーク
・ロールプレイング
・視聴覚教材の視聴
・講話
14 各種福祉制度に関する基礎的知識の習得6(まとめ) 1 出所後に想定される危機場面について考えさせる。
2 社会福祉に関するまとめを行い、出所後利用できる制度や相談の仕方等の確認を行わせる。
・グループワーク
・ロールプレイング
・視聴覚教材の視聴
・講話
15 再犯防止のための自己管理スキルの習得1(規範遵守) 1 ルールや約束事の必要性を理解させる。
2 社会生活においてルールや約束事を遵守する構えを身に付けさせる。
・グループワーク
・ロールプレイング
・講話
16 再犯防止のための自己管理スキルの習得2(安定した生活への動機付け) 1 安定した生活を送る必要性を理解させる。
2 安定した生活を送るための具体的な方策を考えさせる。
・グループワーク
・講話
17 再犯防止のための自己管理スキルの習得3(危機場面への対応) 1 再犯しないために、必要に応じて関係機関の助言を受ける等、適切な問題解決の仕方を考えさせる。
2 出所後の危機場面を予想させ、適切な対処法を具体化させる。
・グループワーク
・講話
18 再犯防止のための自己管理スキルの習得4(本プログラムのまとめ) 1 本指導で学んだ内容を振り返らせる。
2 受講者が抱えている不安や悩みを整理させ、円滑な社会復帰のための方策を具体的に考えさせる。
・グループワーク
・講話

受講者が実際に運動したり、出所後に福祉の窓口を訪ねた場合にどのような受け答えをするかをロールプレイで実演したり、出所後の金銭管理をシート(図2)に記入したりするなど、受講者が実際に「やってみる」機会を多く設定します。

図2
図2拡大図・テキスト

(4)本プログラムの指導者

本プログラムは、刑事施設に収容されている受刑者と社会の福祉的支援の橋渡しをするプログラムでもあります。

刑事施設の職員にあっては、教育を担当する職員はもちろんのこと、普段、受刑者の生活全般を指導している刑務官や出所後の帰住先等の調整を担当する部署の職員、社会福祉士、医務担当の職員等、全所的な関わりが必要となります。

また、この指導には、地方公共団体の関係部署や福祉関係機関の方々等、いわゆる「社会(外部)の方」のご協力が不可欠と考えています。障害を有する等の理由で人と関わることが苦手だった受講者が、指導を通じて外部の方との交流を図ることによって、施設在所中から社会と繋(つな)がる体験ができるからです。

さらに、障害を有する受刑者等の社会復帰を進めるに当たっては、社会の受け皿が不可欠であるところ、外部の方に実際に施設に来ていただくことにより、刑務所に収容されている受刑者の実態についてご理解をいただき、社会復帰を進めるに当たっての有用な示唆をいただけることが期待できるためです。

3 おわりに

平成28年12月に成立した再犯の防止等の推進に関する法律(以下「再犯防止推進法」という。)においては、国は、犯罪をした者のうち、高齢者、障害者等について、その再犯を防止するため、心身の状況に応じた適切な保健医療サービス及び福祉サービスが提供されるよう、関係機関や民間の団体等との連携強化に必要な措置を講ずるものとされています。

本プログラムは、このような再犯防止推進法の目的に沿う重要な方策の一つとして位置付けているところです。障害を有する受刑者等が、出所後、再犯をせずに穏やかな生活が送れるよう、今後も指導・支援を充実させてまいりたいと考えておりますので、引き続き、関係の皆様方のご理解とご協力をお願いして、本稿の結びとさせていただきます。

(こじまひろみ)