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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

ワールドナウ

フランス・ナントでうごいたもの、うごかされたもの
2017ジャパン×ナントプロジェクト~障害者の文化芸術国際交流事業~レポート

田端一恵

本誌2017年8月号で紹介した「2017ジャパン×ナントプロジェクト」。2017年10月21日から25日まで、フランスのナント市で開かれたこの事業を大まかに説明すると、日本の障害者のさまざまな芸術表現が、展示、実演、議論され、さらには障害のある人が芸術表現を楽しむための最新技術が紹介されたりしたということになる。幅広い内容であったが、今回はアール・ブリュット展と舞台芸術公演に絞ってレポートする。

最初に見せつけられたもの

この時期寒いはずのナントが、日本から渡った430人の熱気を帯びたのか暑くすらあった10月21日。この日は18時から日本のアール・ブリュット「KOMOREBI」展の内覧会と、このプロジェクトのオープニングレセプションがあった。ここで日本から参加した私たちは驚きの光景を目にする。フランス国立現代芸術センター“リュー・ユニック”内の展覧会場前が、オープン前から多くの人で溢(あふ)れかえっていたのだ。もちろん日本から参加した人たちもいたが、それだけではあんなには溢れない。

いざ開場。列をなし次々と会場内に吸収される人々。気づくとリュー・ユニックの外まで行列ができている。そのうち入場制限がかけられた。その後も何度か入場制限がかかったが、人々は静かに列をつくって入場の時を待っていた。リュー・ユニックに対するナント市民の信頼が厚いということは聞いていたが、初日と2日目の入場者数が歴代の2番目の数を誇ると聞くと、日本のアール・ブリュットに寄せる期待もあったことは間違いないだろう。

展覧会場内には、作品の面白さを発見した子どもが親にそのことを懸命に話している姿、納得したようにうなずきながら一人静かに鑑賞する姿などさまざまな形の熱心な鑑賞の姿があった。すべての人に、作品を見てどう思っているのかインタビューしたくなるほどであった。

オープニングレセプションは展覧会場の中にあるホールで行われた。ここも想定以上の人たちが押し寄せたため、入ることができなかった人たちも少なくなかった。レセプションは、ナント市のジョアナ・ロラン市長をはじめ、関係者のスピーチから始まった。日本からは木寺昌人在フランス日本国全権特命大使と藤原章夫文化庁文化部長がスピーチされた。全員フランス語でのスピーチであり、日本から参加した人たちは、何が話されているのかわからなかったが、レセプション会場内はいよいようごく「何か」を察し、静かながらも熱気を帯びていた。

この熱気をこもらせることなく、放出するのに一役買ったのが瑞宝太鼓(南高愛隣会/長崎県)である。オープニングパフォーマンスとして披露された瑞宝太鼓に、会場全体が魅せられた。フランスの人々は和太鼓演奏のリズムと体感に熱狂。日本人の私たちもワクワクさせられたが、それ以上に、日本のパフォーマンスがこんなにも現地の人を熱くするということに、これから始まるプログラムへの期待が高まった。

圧巻のパフォーマンスの連続

日本から瑞宝太鼓を含め4団体が公演を行なったのであるが、メイン会場であるナント国際会議センター“シテ・デ・コングレ”と“リュー・ユニック”のほか、この2館から歩いて20分ほどの距離にある日本庭園でも瑞宝太鼓と石見神楽(いわみ福祉会・芸能クラブ/島根県)の公演が行われた。日本庭園は屋外であるメリットが最大限に生かされ、見ようと思って訪れた人のほかに、太鼓や笛の音色に導かれて見に来た人たちも大勢いた。あまり多くの人が集まったため舞台は見えず、音と振動だけを楽しんだ人も多くいた。

じゆう劇場(鳥取県)はロミオとジュリエットを題材とし、演者本人の独白も交えながらの演劇を発表したが、中には涙する人もおり、いつまでも拍手が送られていた。石見神楽と瑞宝太鼓の公演ではスタンディングオベーションが起き、観客は演目が終わってもなかなか席を離れようとせず、最後は、舞台に押し寄せ演者に握手や記念撮影を求めていた。

そして前回の記事でご紹介した、渡航前から「何か」がうごいていた湖南ダンスワークショップ(滋賀県)は……。

最高のパフォーマンスをするために

ナント市での出演に向け、プロデューサーである北村成美さん(ダンサー・振付家)が、メンバー一人ひとりに出演依頼をし、渡航して演じる体力をつけるため、規則正しい生活を送るなど出演メンバーそれぞれに課題を課した。そのために毎朝欠かさず、地域のラジオ体操に通ったメンバーもいた。

湖南ダンスワークショップは、そんな一人ひとりの日常をナントにも活かした。朝は全員で街中へ繰り出してラジオ体操。普段通り過ごせるよう、メンバーに付き添った支援者たちはグループLINEでメンバーの様子をつぶさに情報交換。渡航前の準備も念入りで、出入国審査に戸惑わないように普段の練習時に動きを取り入れたり、事前打ち合わせに行った際に、機内から持ち帰ったカトラリーでの食事場面をシミュレーションしたりした。

北村さん曰(いわ)く、このナントプロジェクトへの準備段階から、それぞれの生活の場に帰るまで全体を振り付けたのだという。本番が湖南ダンスワークショップ史上一番の出来であったことは言うまでもない。湖南ダンスワークショップに限らず、他の出演団体、そしてツアーに参加した障害のある人たちにも、このようなエピソードはたくさんあるだろう。こうしたサポートもあって、4団体とも過密なスケジュールを何とか乗り切った。

うごいたもの、うごかされたもの

プロジェクトを振り返ると、ナント市民等から賞賛の嵐とも言えるリアクションを得た舞台芸術の4団体は、確実に自分たちがやってきたことにさらなる手ごたえを感じ、次のステップへと動き始めた。

ツアーに参加した人たちは、ナント市民等の熱心で温かい姿を見て、作者や演者への敬意の表し方を学び、また、彼らをそのようにさせた日本の演者たちを誇りに思っただろう。

そしてナント市民等は、こんな日本の芸術があったのかと発見し、障害のある人の表現の引き出し方、見つけ方にこんなスタイルがあったのかと心動かされ続けた5日間であったと思う。

そして、湖南ダンスワークショップを例に紹介した事柄は、日本の福祉の支援力の高さを示したとも言えるのではないだろうか。

(たばたかずえ 障害者の文化芸術国際交流事業実行委員会事務局)