音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

報告

アフリカ支援へのRIの新たな取り組み

松井亮輔

はじめに

国際リハビリテーション協会(RI)は、これまでアフリカでは、総会(1985年、スワジランド・ムババネ)、世界会議(1992年、ケニア・ナイロビ)及び総会と地域会議(2003年、南アフリカ・ダーバン)を開催している。しかし、近年はアフリカの加盟団体が減少し、他の地域での総会や世界会議等への参加が極めて少なくなっていることから、昨年のエディンバラでの総会で、アフリカにおけるRI活動を再活性化させることを目的に、中国障害者連合会(ハイディ・ザンRI現会長の出身母体)を通して中国政府からRIへの助成が決まった500万ドル(2017年から4年間、毎年125万ドル助成)を活用して、「アフリカ基金」(4年間で100万ドル)を創設することが決定された。それは、アフリカのRI加盟団体が、アフリカ各国の障害当事者団体と協力して、障害者の自立と社会参加を支援するためのプロジェクトの実施を意図したものである。

残りの400万ドル(プロジェクトの実施に要する管理費等を除く、340万ドル)は、「世界障害開発基金」としてアフリカ以外の途上国の障害者支援プロジェクトに充当される。「アフリカ基金」及び「世界障害開発基金」ごとに委員会が設置され、プロジェクト支援要綱の作成、それに基づくプロジェクトの募集・選考及びプロジェクトの実施状況のモニタリングやフォローアップを担当することになる。

そして、アフリカ基金について周知するため、エチオピアの首都アジスアベバ(以下、アジス)の国連アフリカ経済委員会(ECA)会議センターを会場に、2017年11月11日(土)から14日(火)にかけて、役員会、総会及びアフリカ地域会議などが行われた。

以下では、それらの会議のうち、地域会議の概要とともに、会議の開催に先立って行われた施設見学(11月10日(金))などを通して垣間見た、エチオピアの障害者事情についても紹介することとする。

1 エチオピアの障害者事情

エチオピアは、9つの自治州と2つの行政区からなる連邦民主共和国で、83の民族で構成される。その領土は日本の約3倍、総人口は約1億200万人(2015年の国連推定)である。首都アジス(人口は約327万人)には、アフリカ連合(AU)や国連アフリカ経済委員会の本部が置かれている。主要産業は、農業(穀物・豆類・コーヒー等)で、国民一人あたりの所得(世界保健統計2014年版)は、1,100ドル(2012年)で、日本の36,300ドルの約3%である。

RI会議でアジス滞在中、市内にある、インクルーシブ教育を行なっている公立小学校及び同校の敷地内に設置された、近隣の学校に通学する視覚障害児や聴覚障害児の教育支援をするためのリソース・センター、ならびに民間の肢体不自由児リハビリテーション病院(Cure Hospital)、肢体不自由児施設、及び全国盲ろう者協会を見学した。

公立小学校(エチオピアの初等教育は、前期4年、後期4年の8年制)の後期1年生のクラス(生徒数は、40人)の授業を参観。障害児が在籍しているという説明を受けたが、障害が軽いためか、よく分からなかった。

エチオピア政府の統計1)によれば、小・中学校に在学している障害児は、60,789人で、そのほとんどは、インクルーシブ教育プログラムがある一般校で教育を受けているという。

少しデータは古いが、「2001年から2002年の統計によれば、エチオピアの初等教育総就学率は64%。男子は75%で女子は53%と男女格差が大きい。1年生の中退率は、27.9%。また、都市と農村の格差も大きい。」2)とされる。

現在、インクルーシブ教育プログラムのある一般校に通うとされる6万人あまりの障害児が、同年代の障害児のどの程度の割合を占めるのかは、明らかではないが、障害のない就学年齢児の就学率が64%(2001年~2002年)であることから、障害児の就学率は、それよりもかなり低いことが予想される。

2 アフリカ地域会議(11月14日(火))

「アフリカにおける障害とインクルージョンにかかる挑戦への対応」をテーマとする同会議には、約50か国(うちアフリカ37か国)から約150人が参加。そのうちアフリカ関係者約130人の参加経費(介助者分も含む、旅費及び滞在費等)は、「アフリカ基金」により賄われた。

同会議では、アミラ・エルファディル・アフリカ連合社会問題委員会コミッショナー、アト・アブダルクニタ・アブタラヒ・エチオピア労働大臣、ハイディRI会長等による開会のあいさつに引き続いて、「アフリカにおける障害インクルージョンとリハビリテーションにかかる挑戦」をテーマとするパネルディスカッションが行われた。そのなかで、イソリス・アルズオマ・アフリカ障害フォーラム(ADF)(注1)会長、ライト・フォー・ザ・ワールド・インクルージョン上級顧問等が、アフリカにおける障害者の状況などについて、それぞれの立場から発表した。

続いて、ビーナス・イラガンRI事務局長から「RI2017年~2021年戦略」(注2)の概要について、そして、RIの7つの専門委員会のうち、技術・アクセシビリティ委員会(J・クァン前委員長(香港))、教育委員会(T・モルク委員長(ノルウェー))、及び労働・雇用委員会(F・メーホフ委員長)から、同戦略に関連する各委員会の活動についての紹介が行われた。その意図は、今後、アフリカ各国から提案されるプロジェクトに対して、RIとしてどのような技術協力や支援ができるのかをアピールすることである。

しかし、参加した一部のADF関係者からは、RIについての一方的な情報提供よりも、アフリカ各国で障害者が直面している課題やニーズについて、もっとしっかり聴いてほしいという強い要請があり、それには多くの参加者から賛同の声があがった。

おわりに

エチオピアは、2010年7月に障害者権利条約を批准し、2013年1月には国連障害者権利委員会に同条約の国内実施状況にかかる第1回目の国家報告を提出している。同報告などの審査結果を踏まえ、同委員会は、2016年8月に同国についての総括所見を公表した。それによれば、同国には、アクセシブルな社会的基盤整備に関する法律、規則及び指令がありながら実施されていないこと、社会への障害者のインクルージョンに必要な地域生活支援サービスが欠如していること、障害者の就業率が極めて低いことが、障害者の貧困率を高める大きな要因となっていることなどを指摘し、それらの改善策を講じるよう勧告している3)。こうした状況は、アフリカの多くの国に共通するものであり、RIの「アフリカ基金」がその改善に向けての取組みを促進する一助となることを期待したい。

(まついりょうすけ RI国内事務局長)


(注1)ADFは、アフリカ全土をカバーする8つの障害当事者団体、4つの小地域障害当事者団体、各国の障害者連合・ネットワーク34団体、及び5つの準加盟国団体から構成される。その最初の会合は、2016年3月に開催。本部は、アジスに置かれている。

(注2)同戦略は、2015年のRI総会で採択されたもので、焦点として掲げた、人権保護、貧困撲滅・インクルーシブで、安全な開発等を中心に活動を展開し、効果的に資源を動員できるよう、RIを手助けすることを意図したもの。

【参考文献】

1)Committee on the Rights of Persons with Disabilities “Consideration of reports submitted by States parties under article 35 of the Convention Initial reports of States parties due in 2012, Ethiopia”, 19 March 2015.pp 28-29

2)岡倉登志(編著)「エチオピアを知るための50章」、明石書店、2007年、92頁。

3)Committee on the Rights of Persons with Disabilities “Concluding observations on the initial report of Ethiopia”, 4 November 2016.pp 3-8.