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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年1月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

新しい機器の発掘
~福祉機器コンテストの実施~

山形茂生・金井謙介

1 福祉機器コンテストについて

福祉機器コンテストは、一般社団法人日本リハビリテーション工学協会の主要事業の一つとして1989年から年1回開催されているもので、2018年でちょうど30回目の節目を迎えます。本コンテストの目的は「障害者、高齢者のために新しく開発された福祉機器を発掘し、優れた機器を表彰するとともに、学生を対象とした啓発・普及を通じてこの領域に関する認識・参画を促進すること」にあります。

当コンテスト開始当初は、まだまだ今ほど多くの福祉機器が開発されていなかった状況であり、それぞれ個別に療法士やエンジニアが製作・調整して、障害のある人本人の工夫や努力によって生活を改善していました。しかし同じニーズを持つ人は他にもいるため、そうした経験や工夫を公表することで、共通の財産として蓄積することも当コンテストの当初の目的でした。

現在では、非常に多種多様な機器が開発されているため、当コンテストも「いつでも・どこでも・誰でも」必要な機器を入手できる社会環境の整備を目指して、市販化・製品化された機器を中心とした方向性にシフトしています。しかし、障害のある人の実際の暮らしに役立つ優れた作品を表彰し、広く普及させる目的には変わりはありません。

2 過去の主な受賞作品

これまでの主な受賞作品としては、こまわりさん(ハーツエイコー)、SRCウォーカー(有薗製作所)、インテリジェント大腿義足膝継手(ナブコ)、マイティエイト80(ミクニ)、オーエックスMX-1(OXエンジニアリング)、簡易昇降便座(TOTO)、リーダブル(ダブル技研)、95Reader(システムソリューションセンターとちぎ)、リムロック(ユタカ電子製作所)、ワイヤレスホームコール(アイホン)、「できマウス。」(町田健治)、PPSスイッチ(川村義肢)、レッツ・サウンド(ファンコム)、ネクストローラ―(ミキ)、Vela(パシフィックサプライ)、JINRIKI(JINRIKI)、ポータブル手動運転装置(ニコ・ドライブ)、ユニバケ(日本身障運転者支援機構)などがあります。

これらは受賞作品のほんの一部ですが、いずれも障害のある人の生活改善に大きく貢献した機器です。これらの多くはすでに市販化されたものでしたが、製品化前のプロトタイプ段階や個人が手作りした作品も多く応募されています。しかし、その中から当コンテストをきっかけにこれらの作品が市販化にまで進んだものはわずかであり、このような橋渡し的役割をどのように果たしていくかは、今後の課題であると考えています。

3 福祉機器コンテスト2017の概要について

機器開発部門の募集期間は5月8日(月)~6月12日(月)でした。また、学生部門の募集期間は5月8日(月)~7月10日(月)でした。機器開発部門28件、学生部門25件の応募がありました。一次選考会は、7月8日(土)に横浜市内にある中山福祉機器支援センターにて開催しました。機器開発部門は、書類と写真、動画にて審査を行い、10作品が一次選考を通過しました。また学生部門は、後日に主に書類での審査を行い9作品が一次選考を通過しました。

二次選考会は、8月23日(水)に第32回リハ工学カンファレンスin神戸の学会の開催中に同会場内にて行われました。機器開発部門は応募者自身によるプレゼンテーションを含めて審査の対象として、また学生部門は、応募資料と動画、現物作品を基に選考を行いました。

さらに第44回国際福祉機器展(HCR2017)において、入賞作品を日本リハビリテーション工学協会ブース内に展示と表彰式を行いました。

4 福祉機器コンテスト2017受賞作品紹介

■機器開発部門

最優秀賞:小児用車いす「Hello!」
株式会社 ジェー・シー・アイ 佐々木康尊氏

Hello!(ハロー)は小さなお子様のための小さな車いすです。初めて車いすに乗るお子様も、らくらく漕げる使いやすさと姿勢をサポートして、長時間安全に乗ることのできる座り心地を小さなフレームにギュッと詰め込みました。

優秀賞:ふわふわフィットパンツ
株式会社ニシウラ 西浦伸忠氏

縦・横方向ともに全体として高い伸び率を有して、お臍(へそ)の上方から、鼠径(そけい)部の下方までの2分丈のボクサー型パンツです。3種類の異なる編み方により尿取りパッドがずれることがなく、保持できる性能を有しています。

優秀賞:コミュニケーションボード「フリッキー」
松本亜砂子氏

身体運動機能と言葉を失ったばかりの人、普段は声やIT機器でコミュニケーションをとっている人でもそれが使えない時(風邪・食事・トイレ・風呂・ベッド・停電・災害等)に使うものです。OHP用紙を4エリアにわけて、各エリアに十字に配列した51音表の各行などを4つずつ貼ってあるので、身体に的確に動かせる部分が1か所あれば、ヘルパーが聞いていく形でエリア、十字形、目的文字を伝えることができます。

■学生部門

最優秀賞:SMA患者のための電動ストレッチャー
九州産業大学工学部バイオロボテクス学科 仲野翔紀氏 春野礼知朗氏 榊泰輔氏 青木幹太氏 櫻木美穂子氏 下川俊彦氏

身体を動かすことができないユーザー自らが操作して動かすことができる移動機器の開発です。コンセプトは、WEBカメラの映像をディスプレイ表示し、映像を見ながらSMA患者の運動障害に対応した操作デバイスを使用してストレッチャーを操作することです。

優秀賞:片手でおまかせ!ぶんぐくん
北学校法人筑波学園アール医療福祉専門学校作業療法学科 志井田はな氏 糸川知花氏 大沢千夏氏 渡久地美月氏

脳血管障害によって片麻痺を生じた方を対象として作りました。1.A4用紙の束を整える、2.穴あけパンチで穴をあける、3.ホチキスで留(と)める、という作業が片手で行える文房具です。さらに、クリップ等小さな小物を収納できる機能も取り付けています。

優秀賞:ボルダリング専用義手
北海道科学大学保健医療学部義肢装具学科 林諒一郎氏 猪俣毅氏 高尾春太氏

さまざまなホールドに対応できる機能を持たせました。ホールドは、大きく分けて掴(つか)む系、面で押さえる系に分かれると考えました。掴む系にはフックで対応、面で押さえる系には窪みを持たせ、義手を引くと閉じるはさみのようなもので対応しました。

5 おわりに(今後の課題)

このコンテストは、まだ関係者にも知られていない面もあり、もう少し認知度を上げて、多くの方が応募できるものにしたいと考えています。

(やまがたしげき・かないけんすけ 一般社団法人日本リハビリテーション工学協会)