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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年2月号

特別寄稿

日本の皆様へ
~パラレルレポート作成の意義と期待~

国連障害者権利委員会委員長 テレジア・デゲナー

2018年最初の日に、日本の皆様に新年のご挨拶を申し上げます! 皆様の新年の決意と希望がすべて実現しますように。

障害者権利条約(以下、権利条約)第35条に基づき2016年に提出された日本の報告の審査は、2020年に障害者権利委員会(以下、委員会)で行われる予定です。2011年に委員会は各国の報告の審査を開始しましたが、最初の建設的対話(審査)の対象国は革命直後のチュニジアでした。委員会、新政府とも初めての経験に不安を感じていたことを、私は決して忘れないでしょう! その後、委員会により決まった手順が編み出され、締約国との建設的対話にも進展が見られました。

締約国の報告と市民社会団体の代替報告やパラレルレポートも同様です。現在、すべての参加者、政府代表、障害者団体(DPO)及び国内人権機関(NHRI)が、過去の委員会のウェブキャストアーカイブを視聴することで、ジュネーブでの建設的対話に備えられますし、書面による資料も多数発行されており、ステークホルダーが報告の準備をする際に指針とすることができます。

2009年、委員会は締約国のための報告指針を採択しました。これには権利条約の実質的な条文に関する質問が多数含まれ、締約国の回答が求められています。締約国の報告を読む時には、この指針にあるすべての質問への回答がなされているかチェックし、回答がない場合、これらの質問を事前質問事項(LOI)で取り上げるよう提案します。LOIは、締約国の最初の報告に関する建設的対話に先立ち採択されます。LOIへの回答の中で締約国が再度質問に答えなかった場合、これよりも緊急の質問がない限り、通常その問題を建設的対話で取り上げます。

2014年に委員会は、委員会の活動へのDPO及び市民社会団体の参加に関するガイドラインを採択しました。これにはパラレルレポートの語数、作成スケジュールと内容に関する有用な情報が含まれています。DPO及びNHRIのパラレルレポートは、委員会にとって最も有用な情報源の1つで、これらの代替情報源なくしては、締約国との建設的対話を始めることはまずできないでしょう。多くの場合、市民社会団体は締約国の報告とパラレルレポートの両方の作成に関与してきました。これこそがあるべき姿なのです!

権利条約第4条(3)と第33条(3)では、DPO及びその他の市民社会団体が権利条約の実施と監視のあらゆる側面で協議及び参加を求められるべきだとしています。権利条約第35条に基づく報告は条約監視の中核をなし、報告作成においてDPOもNHRIも無視されるべきではありません。報告の内容と構成を決めるのは政府ですが、作成プロセスは参加型でなければならないのです。これは報告の仕組みの目的でもあります。

締約国が委員会との建設的対話を始める前に、政府は国内での権利条約実施について評価しておかなければなりません。報告はこの自己評価の手段となるべきで、政府は自らに問いかけておかなければなりません。どこが強みなのか? どこが弱みなのか? 国内での権利条約実施を阻む障壁は何か? すべてのステークホルダーの関与を得ずにこれらの質問に回答することが、どうして可能でしょうか?

他の多くの国際人権条約と異なり、権利条約には包括的な国内における監視の仕組みがあり(第33条)、第35条に基づく報告は、国際条約体に提出されるとはいえ、このような仕組みの一部とみなされるべきです。たとえDPOとNHRIが締約国の報告の作成に有意義な関与をしたとしても、パラレルレポートは重要です。特にDPOのパラレルレポートは、その国の障害者の声を代弁するもので、障害者にとって何が重要なのか、権利条約実施に関して障害者が考える強みと弱みは何かを教えてくれます。個人的には、締約国の報告のパラグラフやページに直接言及しているパラレルレポートや、建設的対話で取り上げるべき重要な問題をまとめたエグゼクティブサマリーを含むパラレルレポートが最も役に立つと感じました。報告で示された事実を最新のものに差し替えたものや、建設的対話で投げかけるべき質問、あるいは総括所見でなされるべき勧告について具体的な提案をしているものも参考になりました。

ほかにも、DPO及びその他の市民社会団体が委員会に提出するパラレルレポートを作成する際に拠り所にできる指針があります。国際障害同盟は2010年に総合ガイドを発行し、この点に関して有用なアドバイスを提供しています。ジュネーブの手順を熟知している他の人権機関も同様です。

委員会が日本の報告の審査を行うまであと2年ですが、これはパラレルレポートの準備にちょうどよい期間です。関係者の皆様のご成功をお祈りするとともに、皆様が日本ですばらしい相談役、特にこれまで権利条約の交渉に関与してきた方々に出会い、委員会の活動に深く参加してくださるものと確信しております。


*デゲナーさんの原稿は、今年1月2日に届いたため、新年のあいさつは、そのままにしました。(編集部)