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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年2月号

列島縦断ネットワーキング【千葉】

オリーブの樹の特色ある事業

加藤裕二

社会福祉法人オリーブの樹(以下「オリーブの樹」)の前身は、1984年に設立された小規模作業所オリーブハウスである。2001年に社会福祉法人を取得し、法定の授産施設になるまでの間は、補助金が乏しいがために常に市民の支援を仰いでいかなくてはならず、そのためには障害者や地域のニーズに応じた事業を見出し、先駆的に取り組んでいかなくてはならなかった。この姿勢は、法人設立時に引き継がれ「新しい福祉の仕事の開発」と「地域社会に役に立つ」が法人の理念として成文化された。その中で、触法障害者の受け入れ事業と地域の高齢者への支援事業は法人の特筆すべき事業となった。以下、2事業について詳しく述べる。

1 触法障害者受け入れ事業

触法障害者の受け入れ事業を行う直接動機は、Aにある。Aは、家族に恵まれず養護施設で育ち、そこからオリーブの樹のグループホームに入居した。しかし、入居直後から非行行為や犯罪行為を繰り返し、窃盗、器物損壊、恐喝、無免許運転、無銭飲食、無賃乗車、無断外泊等を繰り返した。そのたびに彼を庇(かば)い警察への身柄の引き取りなどを行なったが、改善は見られず大きな事件を起こしたのを契機に彼を逮捕してもらい、警察の手に委ねた。しかし、彼を見捨てたことには大きな後悔が残った。そんな折、B弁護士の触法障害者に関する勉強会があるのを知り、そこに通う中で刑務所には3割の知的障害者がいること、行政や施設は彼らの存在を無視し福祉の手を差し伸べていないこと、結果として、彼らは累犯者となっていることを学んだ。

Aへの償いとして、何とか触法障害者を援助できないかと思っていた時、国が触法障害者を支援する「地域生活定着支援センター(以下「定着センター」)」を設立し、全国展開をするとの情報が入った。千葉県内では他の障害者施設では関心が薄かった。そこで、定着センター事業にオリーブの樹が積極的に関わり、主導的な役割を負う中で2010年に「千葉県地域生活定着支援センター」が設立された。以後2017年まで23人の矯正施設出所者を受け入れた。

紹介先は定着センターが一番多く16人、他に保護観察所、刑務所などがある。犯罪内容は、強盗殺人、殺人、強姦、強盗、傷害、窃盗(累犯)、建造物破壊、不法侵入、器物損壊、詐欺(無銭飲食、無賃乗車)等、実に多様である。また、定着センター設立時は軽微な犯罪を繰り返す累犯者が中心であったが、現在は殺人等の重罪の犯罪者が多くなっている。

オリーブの樹の就労移行支援事業での就労訓練や、グループホームでの生活訓練を行う中で、彼らは生き直しを図っていった。その結果、一般就労して自立した者は5人である。障害程度等により他施設や医療機関へ移った者が8人、帰宅が3人、そして、残念ながら再犯してしまった者が2人となっている。現在、5人の触法者が施設を利用している。

触法障害者の抱える問題としては、彼らの成育歴等の中で以下のような事柄が揚げられる。

1.刑務所とホームレスの生活を繰り返す中で、生活のリズム、生活習慣が確立されていない。

2.暴力団や的屋の下働きしか行なっておらず、真っ当な就労経験がない。

3.見守ってくれた者がいないため成育歴での情報不足。

4.身に付いてしまっている威圧的態度、詐欺的言動(特に利用者に対して)。

5.愛情を受けて育っていないため、人間関係の形成を望まない。

特に5は支援員にとって、いくら彼らのためにと頑張っても、それに対して感謝の気持ちを表すことは無く不平不満ばかりを口にし、他の利用者とは異なり、彼らを支援していて達成感や喜びが感じられないということは根本的な問題であった。このような中で、支援者は彼らの問題行動にぶつかり、その対応に困惑し疲弊していった。いくら法人の先駆的事業の意義を支援者に説いても、「なぜそんな困難ケースばかりを現場に押し付けるのか」との不満の声が耳に入ってきた。支援の手法も支援者により差異が生じ、そこにまた付け込まれ、問題がさらに大きくなるということも見られた。

そこで彼らの「働く、暮らす」を支援する基本として「三つのまもる」を定め、統一した意識で支援に当たることとした。

1.職員の基本=護る

・反社会的勢力や過去の関係者(刑務所仲間、悪友、家族、裏社会の人物)の誘惑や悪行に対しては毅然たる姿勢で臨む。

・再犯者とならないように擁護する(警察への引き取り、弁護士との連携)。

2.利用者の基本=衛(まもる)

・反社会的勢力からの脅迫、誘惑から自分自身を衛る力をつける。

・裏社会へ近づかないよう、非行に走らないよう自分自身を律する。

・危機回避の能力、技術を身に付ける。

3.運営の基本=守る

・「護る」「衛」が実行できるよう職員、利用者が守るべき規則、約束を作り、双方が順守する(職員の業務規定、利用者の時間管理、金銭管理、等々)。

この「三つのまもる」を徹底し、これを拒否する者は、福祉の支援を受ける意思なしと判断し、支援を打ち切った。さらに、オリーブの樹が「触法障害者を何とかする」と一法人で抱え込むのではなく、ネットワークの形成にも力を入れ、彼らに適した施設等に移籍できるよう努めた。この結果、支援員の負担はかなり軽減された。

2 地域の高齢者への支援事業

地域の高齢者支援事業は2013年に、地域の高齢者へのお助け事業として「高齢者ごようきき事業(以下、「ごようきき」)」という名称でスタートした。法人設立直後より地区社協と連携し、独居老人に対する月2回の食事提供等は行なっていたが、より日常的な支援を行いたいとの思いから、ごようききを行うこととした。その大きな要因となったのは、オリーブの樹が施設を建設する際に大反対運動が起こり、地域との良好な関係を築く必要があったこと、社会福祉法人として障害者福祉のみを行うのではなく、地域の福祉の拠点としての役割を担えるようにしていきたいとの思いがあったことによる。

ごようききの仕事は、低料金で通院介助、買い物、草取り、ゴミ出し、話し相手などを行うことであるが、障害者福祉施設であるからには障害者の支援とも結びつける必要があり、仕事ができてもできなくとも利用者を必ず同伴させることにした。このことにより、利用者の社会性を高めるという意義も付加された。

しかしながら、実際行なってみると支援員は施設内の業務が忙しく、外の業務までは手が回らないという状況が発生した。そのため開始当時の2013年、2014年は50件近い依頼を受けていたが、2015年からは激減し依頼数は半減した。地域からも忘れ去られていった感があった。これを打開するため2016年の暮れに「大掃除大作戦」を展開し、積極的に掃除活動を中心に地域への働きかけを行なった。この結果、2017年は60か所と大幅な増加を示した。また地区社協とも定期的な協議の場を設け、業務のすみ分けを行い、地域住民の依頼に的確に対応できるようにした。

ごようききの課題としては、やはり施設業務との兼ね合いということが一番大きい。特に施設が最も忙しい時期は、受け入れたくとも受け入れられない状況にある。また仕事の内容は通院送迎が圧倒的に多く、利用者を同行させてもほとんど意味が無いということがある。このあたりをどう克服していくかが今後の課題である。

社会福祉法の改正もあり、ごようきき事業の意義は一層増している。課題を克服し、真の地域支援事業として発展させていきたい。

(かとうゆうじ 社会福祉法人オリーブの樹理事長)