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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

インチョン戦略の後半期と日本の課題

藤井克徳

1 意義深いESCAPによる国別調査

今般のESCAPアジア太平洋障害者の十年中間年評価ハイレベル政府間会合(ESCAP北京会議)は、アジア太平洋域内における障害分野に関する最新の交流が図られたのと同時に、各国政府ならびにCSO(市民社会組織)としてインチョン戦略の後半期(2018年~2022年)の課題を共有するステージとなった。あわせて、アジア太平洋域内の一員である日本の課題も問われたように思う。以下、5点にわたり、日本の障害分野として取り組むべき課題を略記したい。

これに先立っていくつか触れておく。まずは、本会議の成果物である北京宣言と行動計画の一読を勧めたい1)。また、北京会議の準備の一環として、各国の政府ならびにCSOに対してインチョン戦略(10のゴール、27のターゲット、62の指標)に沿っての中間評価の調査を実施し、会議の中でその概要が紹介された。国情の差異のある各国間にあって単純な比較はできないものの、アジア太平洋域内の障害分野の特徴を知る上では意義深いものと言えよう。こちらの方も英文は公表されているが2)、邦訳された段階で目を通してほしい。

2 日本の課題

さて、日本の課題であるが、その第1は、インチョン戦略の意義を再確認し、日本の障害分野と結合させることである。残念ながら、その存在感は不十分と言わざるを得ない。ただし、ここに掲げられている内容は決して斬新さを失うものではない。たとえば、ゴール1の「貧困を削減し、労働および雇用の見通しを改善すること」は、そっくり日本の障害の重い人にあてはまる。また、ゴール7の「障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること」も、東日本大震災の傷跡の癒えない日本にとっては重要なテーマである。幾多の災害体験を踏まえた、日本ならではの追加の警鐘や提言が求められているように思う。

第2は、日本国内での関連する国際規範の一体的な展開の気運を醸成することである。具体的には、インチョン戦略に、持続可能な開発目標(SDGs)(2016年~2030年)や障害者権利条約を重ね合わせ、相乗効果をねらうべきである。SDGsや障害者権利条約の具体版の一つとして、インチョン戦略を位置付けるのがわかりやすいかもしれない。

第3は、日本政府の「第3次アジア太平洋障害者の十年」後半期への積極的な関与である。元々「アジア太平洋障害者の十年」を提唱したのは日本であり、第2次に関してもそれなりの対応があった。当面の策としては、ESCAP障害セクターへの支援であり、アジア太平洋域内各国への障害分野に対するODA支援などの強化(復活)を期待したい。

第4は、NGOとしての積極姿勢が問われることである。インチョン戦略を含む、「第3次アジア太平洋障害者の十年」の成功には、CSOの深い関わりが欠かせない。具体的には、JDFとしてAPDF(アジア太平洋障害フォーラム 現在は韓国に事務局)と連携を図り、支援することである。残念ながら、第1次から第2次、そして第3次へと移るにつれ、JDFなどNGOの熱意や関心は薄まっているように思う。体制の立て直しが求められよう。

第5に、以上を踏まえながら、日本の官民を含めてインチョン戦略の後半期を大事にするとともに、並行して、ポスト「第3次アジア太平洋障害者の十年」の論議を開始することである。ポスト「第3次アジア太平洋障害者の十年」を構想する主体はESCAPであるが、各国から提案があってもいいように思う。日本としても、政府とJDFとの調整を図りながら、ポスト課題に積極的に向き合うべきではなかろうか。

(ふじいかつのり 日本障害フォーラム副代表、日本障害者協議会代表)


【注釈】

1)障害保健福祉研究情報システム(DINF)http://www.dinf.ne.jpに掲載予定。

2)Building Disability-Inclusive Societies in Asia and the Pacific
www.unescap.org