音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

ESCAPアジア太平洋障害者の十年中間年評価ハイレベル政府間会合の参加報告
―日本障害フォーラムの取り組みを中心に

原田潔

アジア太平洋障害者の十年とJDF

全国13の障害者団体等で構成される日本障害フォーラム(JDF)は、2004年の発足以来、障害者権利条約への対応と併せて、アジア太平洋障害者の十年の推進を活動の柱としている。JDFは第1次十年最終年(2002)に、ESCAPハイレベル政府間会合が滋賀県で開かれるとともに、国際障害者団体の世界会議が北海道と大阪府で開かれた際に、国内の障害者団体が幅広い連携を形成したことを契機に発足した。2003年から始まった第2次十年には、域内NGOのネットワークであるアジア太平洋障害フォーラム(APDF)が発足し、JDFはその国内加盟組織としての関わりも続けてきた。

2002年以降は国連本部で障害者権利条約の採択・実施に向けた大きな動きが始まり、内外の障害者団体の関心、労力、資金が、条約の議論の舞台であるニューヨークとジュネーブに大きく向けられることになった。APDFにおいては、その後隔年ごとに予定されていた総会がなかなか開かれない事態も発生したが、これは条約の影響と併せて、資金不足や、小地域(サブリージョン)及び各種別の障害者団体の活動が活発化したことなど複合的な理由が考えられる。いずれにしても十年の求心力は、障害者団体にとっても相対的に低下してきた感が否めない。

第3次十年(2013~2022)を迎え、JDFでは引き続きAPDF総会や、折に触れて開催されるESCAPハイレベル政府間会合への参加を行なってきた。2017年の中間年に向けて、ESCAPによる中間年評価アンケート調査が、域内政府と市民社会組織(CSO)を対象に実施されたが、JDFは日本国内のCSOのフォーカルポイント(窓口)として選ばれ、アンケート回答団体の推薦や回答促進などの協力を行なっている。

ハイレベル政府間会合への参加

このような経過から、JDFでは昨年11月27日~12月1日まで北京で開催された中間年評価ハイレベル政府間会合への参加対応を行なった。藤井克徳副代表を中心とするゆるやかな参加団を構成し、本特集にも執筆している寺島氏、嶋本氏、野際氏、桐原氏、筆者や、日英及び手話通訳者を含む約20人とともに参加した。藤井氏は日本政府代表団顧問にも任命されている。

ESCAPによれば、同会合には日本を含む34の政府、そして87のCSOが参加した。前述のアンケートに基づく中間評価、権利条約やSGDsとインチョン戦略との連関などをテーマとしたセッションを経て、成果文書として「北京宣言及び行動計画」が採択された。

会場となったのは北京国際空港から車で20分ほどのところにある中国障害者スポーツ管理センターで、障害者を含む多数の参加者に対応できる、アクセシブルな施設である。会合では国連の各公用語の通訳や、手話・字幕等による情報保障はもとより、外国語の堪能な多くのボランティアの配置、会場とホテル・空港間の参加者送迎、さらにはCSOを含む参加者への無料コピーサービスにいたるまで、その運営が円滑かつ組織的に行われていた。中国政府は成果文書の議論にあたっても活発な発言を行い、この会合の開催と、「北京」の名を冠する「行動計画」の採択を通じて、十年の後半5年の推進に向けても、中国政府の存在感が増していることが感じられた。

CSOでは韓国がリーダーシップを発揮した。会合では参加CSOによる共同宣言の発表が行われたが、韓国が事務局を務める域内CSOネットワークが宣言のとりまとめのためのサイドイベントを開催し、限られた時間の中でできるだけ多くの意見を反映するよう尽力していたのが印象的だった。

JDFでは、日本財団の協力により、サイドイベントの主催と協力を行なっている。一つはアクセシビリティをテーマとしたもので(28日)、JDFが主催、日本財団が共催し、在中国日本国大使館の後援を得て行なった。スピーカーには、アジア盲人連合のSK・ランタ氏、世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局(WFDRSA)のイム・サンテク氏、地元より中国障害者連合会のジャン・ドンワン氏を迎え、JDFより藤井、寺島両氏が加わった。なお日本政府からは外務省地球規模課題総括課の吉崎裕介氏からご挨拶をいただいた。

もう一つは、WFDRSA、UNESCO、日本財団の主催による、手話言語及び言語権をテーマとして行なったもので(27日)、JDFは、国際手話通訳及び英文字幕の実施調整等の協力を行なった。

サイドイベントの様子は他稿でも述べられるが、いずれも会合本体ではなかなか詰めた議論が行われないテーマを取り上げたことで、100人前後の参加者が集い、時間を延長するほどの活発なイベントとなった。

後半5年に向けて

さて後半5年間は、インチョン戦略及び北京行動計画を、どのように実施していくかが課題となる。国内では第4次障害者基本計画の議論が進められているが、同計画の期間は、北京行動計画の5年間と一致する。障害者施策に関する国内の長期計画は、国連・障害者の十年(83-92)における「障害者に関する世界行動計画」、第1次アジア十年(93-02)における「行動課題」、第2次十年(03-12)における「びわこミレニアム・フレームワーク」を含め、国連の行動計画に対応する形で策定されてきた経緯があるが、障害者権利条約採択(2006)以降は、国内施策がアジアの行動計画との関連で語られる機会はあまりない。現在国内では、障害者基本計画の実施状況の監視を通じて、障害者権利条約の監視を行うという形式が取られているが、インチョン戦略・北京行動計画の内容とも今一度対応させながら相乗効果を狙うことも有効であろう。

JDFでは、2020年に行われると見られている、国連障害者権利委員会における日本の審査に向けて、パラレルレポートを提出する取り組みを進めているが、十年やSDGsの課題も含めて多層的に見ていくことにより、関係団体との連携やレポートの視点が深まることも期待できよう。2020年はオリンピック・パラリンピックも開かれるが、日本政府にはアジア太平洋障害者の十年の文脈でも存在感を示す取り組みを期待したい。

(はらだきよし 日本障害フォーラム事務局/日本障害者リハビリテーション協会企画・国際課長)