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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

知り隊おしえ隊

2020年東京オリパラに向けて変わる千葉のまちを紹介します!

渡邊惟大

東京オリンピック・パラリンピック開催がいよいよ2年後に迫り、各方面で話題に上ることが増えてきました。ところで、皆様、千葉市がオリンピック3競技(千葉県では4競技)・パラリンピック4競技という東京に次ぐ数の競技が行われる都市であることを忘れていないでしょうか。そもそも知らないという方も少なくないことを承知の上で、そんな「知られざる開催都市・千葉」の現状について、市内在住の電動車椅子使用者・渡邊が紹介させていただきます。

2020年、千葉市の幕張メッセにおいて、オリンピックではフェンシング、レスリング、テコンドーが、パラリンピックではゴールボール、シッティングバレーボール、車いすフェンシング、テコンドーが行われます。幕張メッセは展示会場や音楽イベントの会場で有名ですが、東京オリパラ期間中は全体がその会場となります。1989年にオープン(1997年増設)したので20~30年前の建築物ですが、もちろんエレベーターや障害者トイレは一定間隔で設置されています。障害者トイレは1ホールに1~2か所、エレベーターは2~3ホールに2台程度設置されています。平坦でかつ巨大な建物なので私が車椅子で行っても移動に制約を感じることはありません。しかし、多くの車椅子の方が訪れた場合、エレベーターや障害者トイレに混雑が生じないか不安を感じました。

現在、千葉県が改修を進めており、2018年度当初予算案にもトイレの改修やエレベーターの更新・増設費用が組まれています1)。また、幕張メッセのウェブサイトには、チーバくんが最寄駅であるJR海浜幕張駅からのバリアフリールートを紹介する動画が掲載されており、情報提供に積極的な印象も受けます。

最寄駅のJR海浜幕張駅は、改札口は1か所で、ホームと駅入り口の全箇所にエレベーターがあるのでスムーズに移動ができます。しかし、障害者トイレは1か所のみで、エレベーターの広さは多くの駅と同様に電動車椅子1台分くらいしかスペースがありません。県にも市にも駅のバリアフリー化事業があり、JR東日本も幕張本郷駅などでサポートの必要な利用者にアンケートを実施するなど積極的な対応をしています。

海浜幕張地区のバリアフリー化については、千葉市が取り組んでおり、平成30年度各局予算要求にも含まれています2)。県もバリアフリーマップ作りをサポートする動きをみせています。個人の印象としては、歩道が広く平坦でエレベーターや障害者トイレが設置されている商業施設に飲食店や洋服ブランド店などがあるので、車椅子でも楽しみやすい地区だと思います。ただ、店舗のバリアフリー情報が不足していることが課題です。以前、私が関わるNPO法人ユニバーサル・アクセス・デザイニングで一部の商業施設のバリアフリー調査を試みましたが、さまざまな事情で情報公開に消極的な商業施設もあることがわかりました。

駅から少し離れますが、幕張ベイタウンにも飲食店が複数あります。のんびり食事ができ、バリアフリー情報の提供にも積極的な店舗が多かったです。街の歩道は点字ブロックが目立たない色であったり、石畳であったりと不十分な点もありますが、段差は少なく、街の公民館の幕張ベイタウン・コアや公園には障害者トイレがあります。

一方、千葉駅周辺のバリアフリー化については、歩道の段差の解消など課題が多いように思われます。ですが、駅近くのデパートは多様な方々への配慮がなされており、駅ビルも新たにオープンするなど駅の近接エリアは車椅子などでも十分に楽しめると思います。また、それぞれの店舗においては配慮がなされた対応が受けられるところも多いです。

千葉の街はまさに変化の最中であると言えそうです。

これまで、今後変化が期待される千葉の街並みについて書いてきましたが、実はすでに変わってきていることがあります。それは行政や市民のパラスポーツに対する意識です。

千葉市では、熊谷俊人(くまがいとしひと)市長が「車椅子スポーツの聖地を目指す」として、車椅子スポーツに関心を寄せています。市は床が傷つかない「スポーツコート」を導入し3)、千葉ポートアリーナで毎年行われるウィルチェアラグビーの日本選手権大会の際に使用するなど、環境整備に力を入れています。市内小中学校で障害者アスリートの学校訪問を実施したり、各区民フェスタなどで体験ブースを設置したりと、パラスポーツ全体への市民の関心を高めようと努力しているように感じます。

パラスポーツ選手にとって練習場所が少ないことが課題です。車椅子スポーツにおいては床が傷つくという理由で体育館使用を断られるケースが多いと聞きます。千葉市では一部コミュニティセンターの体育館が指定管理者・京葉美装の企画でウィルチェアラグビーの練習場所として提供されています。公開練習や体験会が行われることもあり、市民との距離を近づける機会にもなっています。

私も「OPENちば」という団体に関わっています。OPENちばは、千葉市民活動支援センターに登録する市民団体で、一昨年から活動しています。メンバーは東京オリパラボランティアやパラスポーツに関心のある千葉や四街道の一般市民で、最近になってパラスポーツに関心を持ちはじめた人が多いです。障害のあるメンバーは私1人ですが、80代の高齢メンバーもいます。

昨年7月には、ちばパラスポーツカフェというイベントを企画し、2人のパラスポーツ選手をお呼びし、お話を伺ったり、来場者と一緒に千葉の食材を使った料理を食べたりしながら交流をしました。千葉市や周辺地域の市民の方が定員いっぱい来場され、パラスポーツへの関心が高まっていると実感しました。また、市民活動フェスタでボッチャの体験ブースを企画したところ、通りがかった方々が次々と立ち寄ってくれました。

千葉で行われるパラリンピック種目の一つのゴールボールを楽しむ「千葉ゴールボールクラブ」に関わるメンバーもいます。ゴールボールは視覚障害のある方のスポーツとして作られました。しかし、他のパラスポーツと同様に障害のない人も楽しむことができます。千葉ゴールボールクラブは障害のない人が立ち上げた団体ですが、当事者の選手のアドバイスを受けながら、当事者と共に活動することを目指しています。代表の田中宏知(たなかひろとも)さんは「アイシェードを着ければ障害の有無にかかわらず皆で楽しめます。千葉で行われる競技なので多くの方に知ってもらいたいです」と話してくれました。

千葉でのパラスポーツの普及は長年活動されてきた方々の力が大きいですが、東京大会を見据えて自治体や市民団体が活動していることも、関心を高める要因となっていると感じます。

千葉に限らずパラスポーツを楽しむ文化ができれば、ノーマライゼーションの考え方が自然に社会に受け入れられていくきっかけになるのではないかと思います。実は私自身は、ほぼ体を動かすことができず、ボッチャなど一部のスポーツしか体験できません。しかし、普及活動に参加することは私も勉強になることが多く楽しいですし、私のようにパラスポーツができない障害者もいるということを知っていただく機会にもなると考えています。

2020年まであと2年です。最近東京でのパラリンピック開催が障害のある人への理解につながらないと考える当事者が多いという調査結果も耳にしました4)。私もソフト面での変化には時間を要するとは思います。

2015年にパリを訪れる機会がありました。ご存知の方も多いでしょうが、パリは歩道の状況も悪く、地下鉄にエレベーターがないなど、ハード面では車椅子で移動しやすい街ではありませんでした。しかし、車椅子で街に出ている方と数多く出会い、不思議に思いました。しばらく街を歩いていると、周りの方々が常に見ていてくれて、横断歩道を渡る際などにはどこからともなく人が集まってくれて助けてくれることに気づきました。それもすごく自然な振る舞いでした。車椅子で安心して外出できる環境を市民の日常の行動でつくっているという印象を受けました。ご存知のとおり、ヨーロッパでも障害のある方の生きる権利が否定されていた時代がありました。そのことを考えると、人々の努力によって変わってきた結果であることがわかります。

確かにあと2年で変われるところは限られてくると思います。しかし、少なくとも以前より障害のある人を含む多様な人たちが包摂された社会を目指すことはできるのではないでしょうか。2020年の反省点もレガシーとして記憶にとどめて今後の改善に活かすことができると思います。2024年、日本からパリ大会に試合や応援に向かう充実した人生を送る障害のある人が1人でも増え、パリの地下鉄エレベーターが1台でも増えることにつながるかもしれません。

各地での草の根的な動きにも期待し、自らも行動していきたいと考えています。

(わたなべただひろ アクセスデザイニング訪問介護事業所代表)


1)千葉県総務部財政課「平成30年度当初予算案について」(2018年2月1日)
https://www.pref.chiba.lg.jp/zaisei/press/documents/000_30tousyo_all.pdf

2)千葉市「各局予算要求の概要」(2018年2月)
https://www.city.chiba.jp/zaiseikyoku/zaisei/zaisei/documents/h30_d_koukai_300124.pdf

3)石川奈津美「「福祉のまち」推進契機」(『読売新聞』2015年7月4日ウェブ版)
http://www.yomiuri.co.jp/local/chiba/feature/CO017392/20150706-OYTAT50015.html

4)障がい者総合研究所「オリンピック・パラリンピックへの意識調査」(2018年1月23日)
http://www.gp-sri.jp/report/detail032.html