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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2018年3月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

知的障がいのある本人が相模原事件について語り合うワークショップ

奈良崎真弓・望月隆之

1 ワークショップ開催のきっかけ

2016年7月26日未明に発生した相模原事件。あまりのショックに、2か月間は事件について誰とも話すことができませんでした。いろいろな人から、知的障がいのある本人として、事件のことをコメントしてほしいと言われ、9月28日に日本障害者協議会主催の「相模原事件を考える緊急ディスカッション」に登壇することになりました。本当は、出たくありませんでした。事件が起きてから、障がい者に対していろいろな壁ができていると思ったからです。事件を引き起こした“彼”に対して最初に抱いた感情は、怒りよりも寒気でした。「障がい者はいらない」。この一言を聞いて、寒気を超えて恐怖をおぼえました。

このディスカッションがきっかけとなって、事件について知的障がいのある本人たちはどう思っているのか聴いてみたいと思い、ワークショップを企画することにしました。そして、「知的障がいのある自分とは何か」という自分自身への問いかけと、「知的障がい者は社会の中で生きていてはいけない存在なのだろうか」という社会への問いかけをしたいと思ったのです。

2 相模原事件と人生経験を語り合うワークショップ

2016年11月13日に神奈川県社会福祉会館で「知的障がいのある自分たちの経験を話し合おう―相模原障害者施設の事件のこと―」を開催しました。事件のことを話すことで、知的障がいのある本人の元気がなくなってしまうのではないかと思い、これまでの人生の中で楽しかったことや嬉(うれ)しかったことも話せるようにしました。また、○×のカードを準備したり、イラストを使ったりして、意思や感情を自由に表現できるように工夫しました。19人の知的障がいのある仲間に起きた事件への本当の思いを、自分たちの声として表現できたことが何より嬉しかったです。ワークショップで感じたことを素直に紙に書いたりすることが大切だと思いました。

ワークショップを開催して気づいたことは、これまでの人生の“経験”について、「誰にも話したことがない」という本人が多かったということです。ワークショップでは、事件に対する思いや感情を聴くことができただけではなく、参加者一人ひとりの人生経験を知ることができました。

3 「にじいろでGO!」の立ち上げ

このワークショップがきっかけとなり、新たに「にじいろでGO!」という本人活動団体を立ち上げました。なぜ新たに立ち上げたのかというと、知的障がいのある本人が、今回の事件についていろいろ考えていて、19人の仲間に対して友だち意識があること、知的障がいのある本人も支援者も関係なく、“仲間”としてお互いを見てほしいと思ったからです。そして、本当の友だちづくりをしてほしいと思います。「にじいろでGO!」は、「友だちを守る活動」を全国に広めていくことを目指しています。

4 拡大シンポジウムの開催

2017年7月8日に神奈川県社会福祉会館で「自分たちのことを自分たちのことばで話そう~津久井やまゆり園事件から1年~」を開催しました。その中で、「ごちゃまぜシンポジウム」というものを企画しました。シンポジウムは、登壇者が横長に座って一人ずつ話していく形式が多いと思いますが、知的障がいのある本人にはわかりづらいです。そこで円形にしました。これは会場にいる全員が参加でき、お互いの顔が見えます。そして、全員が○×を出したり、イラストで表現したりすることができます。「ごちゃまぜ」としたのは、いろいろな立場の人がごちゃまぜで参加して、今回の事件のことを一緒に考えなければならないと思ったからです。親、きょうだい、専門家、本人…みんなの本当の声が聴きたかったのです。拡大シンポジウムを開催して、命の大切さ、尊さについて学べたように思いました。

最後に、折り紙に将来の夢を書いて飛行機を折り、みんなで一斉に飛ばしました。未来は障がいのあるなしに関係なく、みんな平等にあるものだと思います。これから先の未来をひらいていくこと、自分の夢を叶えることが大切です。飛行機を飛ばすことで、自分自身をアピールでき、みんなが一つになることができました。

5 「にじいろでGO!」のこれから

これからは、自分やみんなの良いところを探していくワークショップや、自分たちの将来の暮らしについて考えるワークショップを開催したいです。

今後もワークショップを続けていくことで、相模原事件のこと、19人の仲間が亡くなったことを忘れずにいたいと思います。そして、数年後には「にじいろでGO!」がNPO法人となり、全国でワークショップが開催できるようにしていきたいです。そして、これを発展させて、将来は学会のような形で知的障がいのある本人が参加でき、本人も支援者も関係なく学べる場を作っていきたいです。

(ならさきまゆみ にじいろでGO!会長、もちづきたかゆき にじいろでGO!支援者・田園調布学園大学講師)