特集/第12回世界リハビリテーション会議 第5回 職業更生国際セミナー報告

特集/第12回世界リハビリテーション会議

第5回 職業更生国際セミナー報告

手塚一朗

 第5回職業更生国際セミナー5th International Seminar on Vocational Rehabilitationは、オーストラリア連邦南オーストラリア州の州都アデレードのパーク・ロイヤル・モテルで、8月20日から25日までの6日間の日程で行なわれた。

 本セミナーは、第12回世界リハビリテーション会議(8月27日~9月1日、於シドニー)に先だち、「70年代の職業リハビリテーション・サービスの開発」という主要テーマのもとで、「経営Management」「社会とのかかわりCommunity Involvement」「障害者に対する計画的職業開発Planned Career Development for the Handicapped」「作業モチベーション Work Motivation」の四領域について、発表、討論、総括の順で日程を消化していった。

 今回のセミナーは非常によく企画されており、オーストラリア障害者リハビリテーション協議会の準備のよさを物語っているかのようであった。

 一日の日程を簡単に紹介してみると、午前中に各発表者からの発表と質疑応答を、コーヒー・ブレイクをはさんだ両セッションで済ませた後、参加者全員バスに分乗してアデレート近郊のリハビリテーション・センター(身体障害者のための連邦政府職業リハビリテーション・センターおよび精神薄弱児・者the Intellectually Handicappedのために新設されたばかりの総合療育センターであるストラトモント・センター)を訪れて昼食をとった後、施設見学を行なった。三日目の昼食は、アデレード南郊のワイン工場を訪れ、名産のワインを賞味するコースが準備された。この企画が最も好評(?)であったようだ。午後は六つの分科会に分かれて討論をした後、各分科会からの報告があって一日のセミナーの日程が終わるといったぐあいである。公式のプログラムが終わると、各国の参加者たちはどこからともなく寄り集まって来て、交互に「ホスト、ゲスト」になって深夜までパーティーをくりひろげ、昼間じゅうぶん深められなかった論争点をさらに深めるのに大いに役だったものである。

 本セミナーの冒頭、オーストラリア障害者リハビリテーション協議会とともに、本セミナーを主催している国際障害者リハビリテーション協会職業委員会Rehabilitation International Vocational Commissionを代表して、Dr.P.J.Trevethan(米国、国際協会職業委員会委員長)の歓迎スピーチがあった。

 テーマ解題の中で、われわれの努力は謙虚な挑戦humble challengeであると述べたくだりは、非常に印象的なものであった。彼は多くの参加者たちからPJの愛称で呼ばれていた。以前、アメリカ・グッドウィル・インダストリーズの副会長を勤めたりして、長年職業リハビリテーション畑で貢献したのをたたえられて、セミナー閉会式において、議長のRev.K.T.Jenkinsから感謝のしるしの記念品が贈られた。PJをはじめとして、職業リハビリテーションの生き辞引きとでもいうべき長上の人たちが、参加した若い連中を実によくめんどうをみてくれたのも印象深いことであった。

 各国から集まった参加者たちは、それぞれの国の職業リハビリテーションの推進に責任ある立場の人が多かった。特にアフリカ諸国(ガーナ、ウガンダ、ナイジェリア、ザンビアなど)からの若い参加者たちは、自国のリハビリテーションの立ち遅れを強く意識しながら、先進諸国からできるだけ多くを学ぼうとする姿勢をしめしていた。彼らの積極的な姿勢が反映してか、発言者の多くが、テーマに関連した発言の中で、発展途上国とのかかわりという観点からのコメントを付け加えるという傾向が見られた。

 端的に言って、日本は、ほかの英語圏(アジア地域の香港、インド等、アジア諸国も含めて)の国々と比較して、社会体制、社会保障、人的資源政策等々、彼我の差異を感ぜずにはおれぬ状況があるのは事実であるが、反面、比較的独特のリハビリテーション・システムを開発しつつあるといっても過言ではないように感じられた。現在どんなサービスが必要なのかという重点の置き方、すでに実現できている領域の違い、サービスを組織的に進めていく力の差など、羨望する面がないではないが、リハビリテーション・マインドとでもいうべき「福祉の論理」についての考え方は、日本のほうが、より深刻な局面を迎えつつあるような印象を強くした。あるいは、彼我の差というのは英語と日本語のコミュニケーションの困難さと、比例関係にあるだけのことかもしれない。

 職業リハビリテーションにおける全般的な趨勢としては、変動する70年代の世界において、職業リハビリテーション・サービスをいかに開発するかという点について、各国とも模索している段階で、直ちに解答を出せる状態ではないようである。

 以下、セミナーの各セッションごとに話し合われたことがらを簡単に記しておく。

 「経営」に関するセッションでは、1)職業リハビリテーションにおけるワークショップの位置づけ、2)サービス・メニュー(評価、訓練カリキュラムなど)の整備、3)専門職員をどうやって訓練し、どうやって確保するか(職業カウンセラーの養成、現任訓練の方法等について)などの諸点に話題が集中した。

 「社会とのかかわり」については、社会の中で障害者が暮らしていける条件づくりについて、具体的な方策を模索した。1)政府の態度、公衆の障害者に対する態度を変えるよう影響力を行使するのは重要である。2)社会をよく啓蒙するために、マス・メディアを通じてPRしたり、ボランティアを活用するなどのすべてのチャンスを有効に利用する。3)障害者が働く権利を持ち、社会の中で役割をになえるということを、社会が理解できるように働きかけるのを、リハビリテーション機関のプログラムの中に加えるべきである。4)障害についての知識を普及するよう努める。そのために普通教育の体系の中で障害児を教育したり、特定の障害についてのプログラムを準備したり、障害イメージを変えるために用語を検討する必要性がある。5)医学教育カリキュラム中に、リハビリテーション医学を含めるよう勧告することも重要である。

 「計画的な職業開発」については、1)障害者自身の参加が原則である。2)専門家(職業カウンセラーを中心とするチーム)の努力による徹底した評価と訓練が必要である。3)フォローアップが重要である。4)社会資源や雇用機会との関連で適切な目標を立てるべきである。5)国から経済的支援を得ることと、国の雇用サービス機関の諸情報を活用できる体制を整えることが重要である。「作業モチベーション」については、1)作業自体がモチベーションを高める要因であるということを認識すべきである。2)評価を実施したうえで、作業遂行をはばむ諸条件は除去しなければならない。3)その際、専門家(職業カウンセラー等)との接触が必要であり、専門家の態度は作業を促進するものでなくてはならない。4)施設間で、研究成果や種々の情報を交換することが重要である。

 さきに触れたように、今回のセミナーにはAA地域のいわゆる発展途上国からの参加者が多く、セミナーの発表や討論の中にも、発展途上国における職業リハビリテーションのあり方について言及したものがかなり見られた。

 発展途上国においては、いまだに医療の充実していない地域が多い。このため、障害を早期に発見して適切なサービスを提供することが困難であることが多い。あわせて、よく訓練されたスタッフが皆無に近い(先進諸国でも職員の確保はむずかしい問題だが)ので、職業カウンセラー等の訓練カリキュラムを作ることが緊急に必要である。発展途上国は、国情に応じた、自分たちの概念で考えていかなければならない。社会資源も雇用機会も、先進諸国とはかなり異なった条件下にあるので、それらに応じた職業リハビリテーション計画を立てるべきである。その際に、先進諸国のそれとは異なった限定された目標をも受け入れるべきである。国情に応じた作業促進要因を評価し、施設間の協力関係を密接にし、国からの支援がじゅうぶん得られるよう配慮しなければならない。

 上記のほかにも数々の問題に触れたが、先進諸国の間からは遠慮がちにではあるが、前者の轍を踏まぬように、おのおのの国情に応じたサービスを充実させていくべきであるという先進諸国自身の反省をこめた忠告も多く聞かれた。いたずらに、先進諸国の真似をしないようにとの忠告は、わが国にとっても傾聴に値することである。その理由を、ワークショップについてセミナーで話し合われたことを例にして述べてみることにする。

 ワークショップの定義については、第3、4回の国際セミナーでまとめられているので、今回のセミナーにおいては、ワークショップとはなんぞやとの議論はなかった。その代わりに、今後ワークショップの必要性がますます高まると同時に、その経営やそこに働く障害者に対するサービスについては、ますます困難な問題(たとえば、障害程度が重度化しつつある。訓練された職員が不足している等々)に立ち向かわなければならないという点について、米・英・豪・のほか、かなり多くの参加者の発言があった。

 「シェルタード・ワークショップ」は、非常に幅の広い概念であるとみえて、セミナーにおいても「シェルタード・ワークショップ」に代わる、性格をより明らかにするような用語が求められるべきであり、そのために職業リハビリテーションのプロセスの中で適切な位置づけが必要であると言われているし、決して「丸がかえのかかえこみ施設」ではなく、一般雇用への足掛かりであるとも言っていることから推測すると、いかによく社会に組みこまれているワークショップでも、障害者にとって移行的な場であることを確保するのはかなり困難で、適正な賃金と安全な運輸手段、高カロリーの食事と安価な生活必需品を障害者に提供する(ベッドフォード・インダストリーズの目標)ことはできても、一般雇用への足掛かりとしたり、障害者が労働をつうじて社会に参加する場、一定の役割をになって生活する場として機能することはかなり困難なのが現状のようである。

 今後に残された課題としては、国に対して影響を与え、強制雇用等の障害者の働く権利を支援する制度を実現するよう働きかけることの重要性が強調されていた。社会とのかかわり Community Involvement というのは、同時に社会をまきこむという意味でもあるのである。ワークショップに関しても同様の方向性が考えられる。ワークショップの存在を、学校の存在と同じものと見なされるようにする努力が必要とされているのである。

 われわれのもっかの関心の的である中途障害者(脳血管障害片マヒ群)や職業的重度障害者(脳性マヒ者)に対しては、彼らも職業リハビリテーション・サービスの対象に含めるべきであるという見解の表明にどどまり、それでは在宅雇用などのサービスを考えていく際に、どのような困難をどのように解決していったらよいのかという点については今回のセミナーは解答を出さなかった。

 最後に、わが国が国際職業リハビリテーション領域で果たすべき役割は、昨年11月東京で行なわれた汎太平洋職業リハビリテーション・セミナーの勧告8、9で述べてあるとおりである。わが国が独自に開発したリハビリテーション・サービス・システムは、種々の意味で諸外国(特にアジア諸国)の関心の的である。情報交換をつうじての諸国間の協力を、今後強力に推進していかなければならないというのが、日本に課せられた70年代の課題である。

参考資料 略

東京都心身障害者福祉センター判定課


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年10月(第8号)13頁~15頁

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