同じ地球のよその国で(2)

同じ地球のよその国で(2)

―身障者のための雑誌から―

石坂直行

◇ハンディキャップは大きな問題じゃない

 12才の女の子、テリーちゃんは、野球の選手で、それもすぐれた選手です。彼女は、セント・リチャード教会地区のソフトボール・チームの一塁手です。このチームは、オマハ市の、小学4年生から6年生までの女の子の、5リーグ、28チームで優勝したのです。しかもチームの記録である13勝0敗という成績でした。「私にやれないことは何もない―もし私が真剣にやりさえすれば」

 これがブロンドの髪をポニーテールに結んだとてもかわいらしい12才の少女の哲学です。テリー・シュエラ―彼女は左腕を持たないで生まれました。

 テリーちゃんは、アル・シュエラ夫妻の4人の子どもの一番上の子どもです。彼女はチームのスター選手ではありません。自分の持場を果たしただけ、それ以上でもなければ、それ以下でもありません。しかし、コーチのトム・ノラン氏のことばを借りると、彼女は「完ぺきなプレーでチームを助け、強敵のセントピウス・エックス・チップムンクスを7対2で下しました」

 「女の子はみんなとてもよく似ている。彼女たちはいつもお互いに励まし合っている」とノラン氏は言っています。テリーちゃんのハンディキャップについては、同氏は「そのことから問題が起こると考える人はチームの中にはひとりもいない」と言いました。

 テリーちゃんの父親は、ノラン氏が女の子たちをコーチするのを援助していますが、この父親も母親も、「テリーに、常に積極的であり、したいことはなんでもやれといつも励ましてきました。私たちはテリーに、自分自身を決して哀れに思わないようにさせてきました。野球をするのもテリーの考えでした」と語っています。

 テリーちゃん自身は次のように語っています。「私はほんとうに何ひとつ恐れたことはありません。ソフトボールやフットボールやその他のことをして積極的でなければ、だれでもほんとうにおもしろくはないと思います」

 彼女は最初の義手を2才のときに着けたのでしたが、練習を重ねた結果、実力によってチームの一塁手のポジションを獲得しました。彼女はボールをキャッチするのも投げるのも、グラブをはめた右手だけでやるのですが、両手を使ってやる人とほとんど同じくらいに早くやれます。ボールが自分のほうにやってくると、彼女は巧みにワンハンド・キャッチします。打つときは、フルサイズのバットを握って豪快な片手打ちをカッ飛ばします。

 選手権試合の間、テリーちゃんは、ホワボールで歩き、ラインドライブの打球で3塁を打ち抜き、強いゴロを外野にころがしたりしました。一塁手としての守備も完ぺきでした。

 テリーちゃんは、水上スキーやテニスのほか、スポーツならなんでも好きです。魚つりも大好きです。ピアノもこつこつ勉強していますが、ひいて人に聞かせるのはきらいです。水泳では、ジュニアクラスの水難救助者の資格を獲得しました。母親といっしょに編物教室にも出席しています。

 テリーちゃんの両親は、彼女がスポーツでけがをしやしないかと心配しているでしょうか?

 母親が次のように答えました。「家族のほかの子ども以上の心配はしていません。あの子はたくさんの傷をしましたが、それは腕のせいではありません。あの子はなんでも早くやりすぎるからです」(Accent On Living,Summer 1972より)

◇山ねこ号

 イギリス、サフォークのヒュー・ピーコック君は、交通事故のため歩行不能の身体障害者になり、車いすに閉じ込められたのち、わずか18か月で、以前からの趣味だった狩猟を再開しました。かれにそれを可能にさせたものは、野でも山でも走ることのできる、がんじょうな「山ねこ」と呼ばれる自動車です。この山ねこ号は、ピーコック君のために、ナショナル・エンジニアリング研究所と、すでに「ぶよ」という名前のクロス・カントリー自動車の販売で有名なエイマース・マクリーン社との協力で開発されたものです。

 山ねこ号にはたくさんの新しいくふうかこらされてあります。最も魅力的なもののひとつは、UDPホストラム社が設計した特別の座席で、道路のはげしいショックと振動から運転者のからだを保護するようにデザインされてあります。その座席は、油圧装置で上下させることができ、特殊なステアリング・ホイール(操向ハンドル)を横のほうに振り向け、山ねこ号の車体の前部を開き、ウインチ機構で座席を、運転者が腰かけたまま、車の前方に降ろすことができます。この位置で運転者は全方向に銃を向けて射撃することが可能で、もちろん魚つりもやれます。またその位置から車いすに、人の介助を要しないで、自動的に自由に安全に乗り移ったり戻ったりもできます。

 この車には、変速ギヤもフットブレーキもなく、前進と後進のハンドコントロールだけです。四輪駆動式であることと、ビルトインされたブレーキシステムが、ぬかるみなどで横すべりすることを防いでいます。ロード・クリアランスが高いので、岩石のゴロゴロある山腹も走破することができ、重心が低いので、45度の急坂も完全に安定して登り降りすることができます。狩猟道具を積み込むじゅうぶんなスペースもあり、運転室は安全フードで保護されてあります。連絡交信用の無線電話器もオプションとして付けられています。(The Magic Carpet,Spring 1972より)

◇車いす用新型自動車

 コロラド州のロイス・インターナショナル者は、ロイスモービルという、車いす用自動車を発売しました。これは、ボタン操作で、ミニバンの横腹が上部から開いて下がり、地上または建物の床など必要な高さまで橋をかけた形になります。この橋を渡って車いすで車内にはいり、横腹を吊り下げて元に戻します。車いすのまま運転することも、もちろんできます。

◇足で食事する装置

 両手がないか、マヒしているが、足は動かせる人が、ひとりで食事できるフット・オペレーテッド・アームという装置が、ニュージャージーのナショナル・インスティチュート・フオア・リハビリテーション・エンジニアリングで開発されました。帆桁(ほげた)のような腕木の先のソケットに、フォーク、ナイフ、スプーンなどをさし込み、踏板を足で操作しながら食事するのです。

◇身体障害者差別は処罰

 テキサス州民法第4419条E項は、「盲人およびその他の身体障害者が、日常生活上および社会生活上で人の介助に代わる最大限の個人的自立を可能とさせ、よい環境で雇用され、州内のすべての公的建造物を完全にエンジョイし利用できるようにさせることで身体障害者を励ますことは、テキサス州の根本的方針である」と宣言しております。その条項にはさらに、「テキサス州内のすべての航空会社、鉄道、バス、電車、汽船その他のいかなる公共的交通機関も、盲人およびその他の(付添のない)身体障害者を、乗客として受け入れることを拒否してはならない」としております。またさらに、州内のいかなる公共的建造物も、(付添のない)身体障害者であることを理由に入場を妨げることを禁止しています。これらの条項に対する違反者には、罰金が課されます。(Accent On Living,Summer 1972より)

◇ドイツの自動車交通安全対策

 リハビリテーション・インターナショナル誌によれば、西独で交通法規の改正が行なわれるのを機会に、西独身体障害者自動車サービス協会は、身体障害の運転者と歩行者を保護するための安全対策を、法規に明文化し強制化しようと懸命になっています。同協会の提案事項としては、安全ベルトの必要性、公的交通機関を身体障害者が付き添いなしで完全に利用できるものとする手段、横断歩道のすべての縁石を削り落してなだらかなスロープにすること、身体障害者が横断歩道をじゅうぶんに渡りきれるだけの長時間の交通信号灯などについて、法規で義務づけることを訴えています。同協会は過去20年間、重度身体障害者の運転者と歩行者に関して、自動車交通安全の研究と提案と行動をしてきています。

◇旅行情報無料サービス

 米国内および海外の旅行情報が、フィラデルフィアのモス・リハビリテーション病院の無料サービスとして提供されています。身体障害者が、旅行する予定の都市名と旅行目的や特別の希望事項を記載した手紙を出せば、適切な情報が無料で返送されます。照会先:Travel Information Center,Moss Rehabilitation Hospital,12th St.and Tabor Rd.Philadelphia,Pa.19141 U.S.A.

◇ダラス新空港の計画

 ダラス―フォート・ワース新空港は、すべての設備が身体障害者の利用に適したバリヤーズ・フリーな空港として、アメリカでも最も進んだ空港になるようです。

 同空港の設計図を検討した結果、ダラス地域リハビリテーション協会のアーキテクチャラル・バリヤーズ(身体障害者を利用から閉め出す建築構造上の妨柵)委員会は、新空港は身体障害者にとって理想的に設計された施設であると認めました。

 ダラスの新聞モーニング・ニューズによれば、同地域のアーキテクチャラル・バリヤーズ委員会の協力を得て、空港のジャック・ドゥネー専務が設計を改善したといわれます。

 特色のひとつは、駐車場が真近かにあることでしょう。在来の空港のように、集中的な大駐車場があって、そこから特定の長い通路を通って、飛行機の発着するゲートまで歩いて行かなければならないデザインと異なり、13個のターミナルビルが、団子をクシで刺した形に、道路で貫通されており、各ゲートの前に直結した駐車場が設けられてあるので、長距離を歩く必要がなく、身体障害者だけでなくすべての乗降客が助かります。身体障害者のためには、ゲートにいちばん近い列の駐車スペースが、専用として確保されています。身体障害者用駐車スペースは、2.44メートルの幅の通常のスペースよりも広くて、車いすをドアから降ろしたり、松葉づえの人が通れるだけの余地をとってあります。

 道路の縁石は削り落してなだらかなスロープになっており、建物の出入口には階段はなく、ランプ(斜面路)が設置されてあります。エスカレーターを利用できる人はそれを利用しますが、そのほかにエレベーターが20台もあります。エレベーターは、車いすの身体障害者が操作しやすいようにボタン類も低い位置にあるほか、目の不自由な人でも判別できるデザインになっています。またスピーカーによるアナウンスも、ターミナルごとに行なわれるので、無用の緊張は不要です。

 特色のもうひとつは、建物の一階はすべてオープンになっていて、ドアがひとつもないことでしょう。身体障害者の出入りもきわめてスムーズです。二階のドアは、足などで軽くさわると自動的に開き、その開口部は車いすや松葉づえの人が、楽に通れるように広々としています。もし故障で自動ドア機構が働かなくなったばあいは、ドアは最も軽い力で開けられる状態になります。

 水飲み台と公衆電話は、車いすの人にも便利な高さと場所にあります。トイレについては、いまさら言う必要はありません。すべてのトイレには、幅が91センチで、車いすのままはいれる身体障害者用コンパートメントがひとつずつ用意されてあり、外開きのドアと、内部にはつかまるためのバーが取り付けられてあります。

 火災報知器は、車いすの人の手が屈く位置にあります。停電などの事故のばあいは、非常用の大型蓄電池が自動的に6時間働きます。

◇パン・アメリカン航空の身体障害者団体旅行計画

 身体障害者専門旅行代理店とタイアップして、パンアメリカン航空会社が、身体障害者のための団体旅行の計画をしています。

 すでに長年の実績で世界的に有名な多数の身体障害者専門旅行代理店のうち、アメリカのエバーグリーン・トラベル・サービス社と、カナダのランブリング・ツアー社の協力を得て、パンアメリカン航空会社が、身体障害者とその家族、友人などに対し、最大限の安楽さを保障する団体旅行プランを提供する準備を進めました。1972年度のプランを発表したパン・アメリカンの責任者、ラリー・J・チャドウェル氏は、自身もポリオによる身体障害者ですが、「旅行プランは、身体障害者の旅行上の困難な問題の多くを除去できるように計画されてある」と説明しました。

 たくさんの旅行プランの中には、ボーイング747ジャンボ・ジェット機でヨーロッパに飛び、車いす旅行用のリフトなど特別の装置のあるバスで、ヨーロッパ各地を旅行するものも含まれてあります。ハワイと南太平洋の島々を訪れるコースは、747か707のジェット機を好みによって選択することもできます。エキゾチックなコースとしては、ソ連を訪問するのもあります。

 チャドウェル氏の話によれば、すべてのコースは、この目的のためにパン・アメリカンの専門家が特別に点検済であり、同社の地上勤務員とホテル従業員が身体障害者グループに完全な援助を提供できることが確認されてあるということです。

(以上Paraplegia News,December 1971より)

◇身障者の自動車運転能力

 身体障害者は、自動車の運転練習をするとき、身体障害者でない人よりもわずかに平均数時間しか余分な練習時間を要しないということが、この分野の多くの専門家の意見から明らかになりました。

 先般行なわれたシボレーの運転教育要綱作成作業の際、身体障害者の運転練習について討議した運転教育の専門家は、ミシガン州教育省のフィリップ・J・オーリアリー博士、イースタン・ミシガン大学のロバート・W・ガットシャル博士、オークランド郡教育組織担当のロナルド・A・コーワン氏、それから身体障害者用運転補助装置の設計製作者リー・M・グレシャム氏でした。

 オーリアリー博士は、身体障害者が自動車の運転技術を習得するためには、身体障害でない人に比べて、数時間しか多くはいらないと発表しました。この意見に対し、職業的リハビリテーションのコンサルタントであるコーワン氏は、九つの学校で11人の身体障害者の自動車運転練習について調査した事実がそのとおりであると証言しました。11人の身体障害者のうち9人は、身体障害でない人より5ないし14時間多く練習したあと、実地試験に一度で合格しました。残りの2人は、最初の試験では合格できず、さらに練習して再テストで合格しました。

 上記の4人の専門家は、ほとんどの身体障害者に、安全に車を運転できるよう練習させることは、困難な仕事では決してないという点で意見が一致しました。特にこのことはリハビリテーション・センターや学校など、運転を教える所の練習車に、身体障害者用の運転補助装置が無償で用意されるならば格別に容易であることを、全員が強調しました。

 グレシャム氏から提供された無償の身体障害者用運転補助装置を練習車に付けている学校は、ミシガン州だけで現在約100校ある由です。同氏自身も車いす使用の身体障害者で、氏の会社で設計製作した各種の運転補助装置を取り付けたステーション・ワゴンを自分で運転して、州内をひとりで走り回っている人です。

 ガットシャル博士は、イースタン・ミシガン大学で、運転指導教官を養成することを監督している人ですが、練習生の各種の身体障害の内容と、それに関連する心理的問題とを理解する必要を強調しました。同博士は、身体障害者に運転できるようにさせることは、それ自体が目的ではなく、身体障害者を職人として動き回れるようにさせるための不可欠の手段であると言っています。

 オーリアリー博士は、初めて身体障害者に運転を教える教官を確信させる方法は、特別の運転補助装置の付いた練習車を見せれば、ほとんどすべてが足りると言っています。その車を一度試してみると、教官はたちまち夢中になり、数分間のうちに、その補助装置を使って容易にじょうずに運転できることを知ります。

 コンサルタントとしてコーワン氏は、身体障害者の90パーセントには、運転練習のための特別の指示は不必要であるという意見を述べました。例外的な特に重度の身体障害者については、適切な補助運転装置を備えたリハビリテーション・センターで、このための全般的な評価と特別の訓練ののち、運転練習を始めることで、運転を覚えることができると同氏は言っています。

 身体障害者でも、ひとたび運転席にすわれば、いかにりっぱに車を運転できるかという事実を、学校の父兄、生徒、教師が知るようになれば、中学と高校における運転練習教室がもっと多くの身体障害者を迎え、どんどん門戸を開き、抵抗が消失していくことを、4人の専門家が一致して述べています。(Paraplegia News,January 1972より)

◇コンピュータは適した仕事

 4年前、初めてコンピュータ・プログラマーに就職したとき、ロナルド・H・ジンマー君の年間収入は、6,800ドルでした。今、27才のかれは、デトロイトの大銀行のコンピュータ・システム部のプロジェクト・マネージャーとして、年間16,000ドルの収入を得ています。

 コンピュータの分野は、身体障害者に大きく門戸を開いていることを他の身体障害者に教えたくて、ジンマー君は次のように書いています。「この分野は、理論的な考えのできる人にはよい仕事です」。ミシガン州立ウェイン大学で事務管理を学ぶ間に、ジンマー君は選択科目はすべて数学科のコンピュータ関係を取りました。卒業後デトロイトの銀行に就職し、自分でも将来おおいに有望と、抱負を燃しています。

 ジンマー君が、自動車事故にあい脊髄損傷のため歩行不可能となり、車いすに閉じ込められてしまったのは18才のときでした。(Paraplegia News,February 1972より)

◇三行広告から

身障者用飛行機操縦装置 チェロキー機用ハンドコントロール装置。ポータブル。どこのレンタル飛行機にでも取り付けて飛ばせられる。連邦航空局承認済。

求(身障者用モデル)702型住宅 フロリダ地区に。仕様詳細と平面図と写真送れ。

(以上Paraplegia News,February 1972より)

売たし車いす用住宅 マイアミ。2寝室、2浴室、仕事部屋、サン・ルーム、車いす乗降用大型車庫、家具付介助者室。四肢マヒ車にはフロリダ州の固定資産税免除。$24,000

(以上The Magic Carpet,Spring 1972より)

車いすの身障者、第一勧業銀行勤務。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1972年10月(第8号)44頁~47頁

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