社会 両親との協力

社会

両親との協力

Partnership with parents

 Manchester大学のHester Adrian Research Centreの指導者であるDr.Roy McConkey とDorothy Jeffree が、精神薄弱児の親を含めた委員会について述べたもの。

Dr.Roy McConkey and Dorothy Jeffree

武田洋*

 14歳以下のすべての精神薄弱児のうち、15%が家庭で療育されている(Kushlick,1968 )。こうした子どもの両親は、その子どもの療育方法で多くの問題と直面している。地方当局は、援助のためにいろいろなことを実施しているが、両親に対してほとんど援助が与えられていないものが一つある。それは、両親がその子どもの発達に援助することのできるもっともよい方法についてのガイダンスである。

 しかし、両親が子どもの発達を積極的に促進することに関して激しい論争が起こりうる。両親というものは、子どもの特に基礎的な技能が学習される時期である幼児期に、すべての子どもの発達に第一に影響力を持っている(Douglas,1964)。また教師という専門家が必要な専門家としての援助を与えるように求められてはいても、障害児についての上記の問題は真実である。しかしおそらくすべての障害児に対して、専門家の充足を求めても十分には得られないであろうし、たとえ得られたとしても、しばしば要求される1対1の接触を続けるようにすることは無理である。これらの条件の下で、子どもの必要性を満たす唯一の可能性は、両親により専門的な知識と技術を持ってもらうということである。そうすれば、両親はもっと効果的に自分の子どもの発達に援助できることになる。

 そうすれば、たとえ専門的な援助が手に入るところでも、その援助を子どもの家庭にまで広げることができれば最も効果的になることは明らかである。またこれに両親が含まれることも明らかである。おそらく、親を含む援助計画を確立するということの最も切迫した理由は、両親の大多数がその子どもの発達を促進することができるということである。同時に両親は専門家に対し、その仕事の上で手伝うというような技能を持つこととなる。両親と専門家の仕事の連携は、おそらく私たちの精神薄弱児に与えうる最も重要な援助となるであろう。

両親を含めるということの可能性

 精神薄弱児に関して親を含めることには関心が増しているけれども、その可能性については研究が比較的に進んでおらず、報告もほとんどない。アメリカにおいては、両親がその子どもの発達に援助することが効果的であるという報告がいくつか出されている(Johnston and Katz,1973;O'Dell,1974の論文参照)。しかし、最近まで系統性のある調査は計画されたことがほとんどない。

 1970年に、さらには1971年にヘスター・アドリアンリサーチセンター(Hester Adrian Research Centre )が全国精神薄弱児協会(National Society for Mentally Handicapped Children,North-West Region)と提携して、両親と幼い精神薄弱児とのワークショップのコースを組織した。これらのコースは、最初は両親が自分の子どもと積極的な指導の関係を発達させそれを維持し、またそうする中で、その子どもの発達を促すように両親を援助するために計画された(Cunninghan and Jeffree,1971;1975)。そしてこれらのコースでは、両親がこのことを熱望しているだけでなく、最も効果的にそうしたいのだということが示されるようになった。しかし、このコースはより完全な計画のために必要な予備的な意味を持った。そのため常置研究委員会設置の提案が公表され、保健社会保障省(Department of Health and Social Security)と教育科学省(Department of Education and Science )によって財政的な裏づけが与えられた。親を対象にした計画(Parental Involvement Project=PIP )が1973年10月に発足し、1977年9月まで仕事を続けることになっている。これはマンチェスター大学のヘスター・アドリアンリサーチセンターに置かれ、3人の常勤の研究者と1人の事務員が職員として任用されている。

親を対象にした計画―その目的

 この委員会の主な目的は次のとおりである。

 (1) 両親がその子どもの発達をより効果的に援助するためのガイダンスの最上の手段を研究すること。

 (2) 両親が使用する目的で考案され、しかもその子どもの身体的、社会的、認知上の能力、さらにその他の特殊な技能を発達させるのに効果的な家庭用指導ゲームの確立。

 (3) 委員会の提出した情報の普及。(a)教師、心理学者、保健訪問員、ソーシャルワーカー、医師等、両親と接触する機会の多い専門家に適切な情報を提供すること、(b)精神薄弱児を持つ親への情報も提供すること。

 就学前(5歳以下)の精神薄弱児を持つ親に焦点をあてることを委員会は一致して決定した。最年少期はどんな子どもにとっても最も大切で、この期間に得られる有益な経験は、その子どもの残りの人生に影響する。両親が最も援助を必要とするのも、この年少の時期であるが、またそれを容易に得られないのもこの時期なのである。

 委員会の主要部分は、少人数の精神薄弱児とその親を集中して研究することになろう。その子どもの数は全部で20~25人程度である。両親の標準的な状況を得、さらに親の奉仕的な態度による影響を排除するため、私たちは大マンチェスター地区の就学前の精神薄弱児を持つすべての親を訪問することに決めた。それは委員会に加わってもらうためもある。大マンチェスター州会の10の地方事務所を訪問し、1974年10月1日現在で5歳以下のESN(教育的遅滞)児として登録された名簿を提供してもらった。

 178人の登録数のうち、私たちは150事例の両親を訪問した。それは全体の87パーセントに当たる。両親に委員会を説明し、その子どもについての情報を提供してもらった。従来、これらの子どもたちの特徴について有益な情報はほとんどなかった。それは過去の調査の就学児や成人に集中していたからである。そのため私たちは、就学前の精神薄弱児とその家族の特徴についての報告を集めた(McConkey and Jeffree,1975 参照)。訪問した親のうち60パーセントが委員会への参加を意志表示した。このことから私たちは定期的に会う予定の親を無作為で抽出した。

両親と子どもの集中的な研究

 1975年1月以来、私たちは集中的に両親に働きかけ、委員会のこの面での仕事は1977年の初めまで続くであろう。全部で20~25人の両親を対象に、6か月にわたり各々の親と子どもは大学へ2週間に一度は来ることになっている。大学には閉回路テレビの完備した観察室がある。

 初期のセッションでは、両親との関連で生じる話題に、特に関連性のある個々の子どもの発達図を作りあげるのに用いられる。両親は特別に作成された発達表に記入させられる(Jeffree and McConkey,1974)。その表は私たちに価値ある情報を提供するだけでなく、両親に子どもの発達を促進するための考えを手引きするために有効な方法でもある。この表は両親に子どもを観察することを指示し、同時にそれぞれの子どもに起こっている進歩や発達の主要な領域の指標を親に与えるのに役立っている(図参照)。

発達図表の身体技能の頃からの例

発達図表の身体技能の頃からの例

 このことに加えて、私たちは両親は家庭での子どもの行動を観察するように求め、その完全な記録をもってくるよう要求している。たとえば、3組の親は子どもが短時間遊んでいる時の言語を録音しているところである。

 子どもについての十分な情報が得られると、私たちはその子どもの発達に見合わせて、特殊な目的を選び、指導計画を考案する。この計画の大部分は子どもの発達を促すように考案されるが、何人かの子どもに関しては、私たちの最初の目的は、過活動のような両親にとって問題であり、学習の妨げになる不適切な行動の頻度を減少させるためということになる。

 指導計画の大多数は、子どもの認知技能を発達させるため、特に言語発達のために考案されている。これは従来の精神薄弱児の指導計画、つまり衣服の着脱や食事行動の形成というような身体的・社会的発達を強調しているようなものとは対照的である。おもしろいことに、私たちは両親が自分の子どもと食事や用便などの「実用的」技能よりも、言語発達についての関心の方が高いことを発見したのである。(MeConkey and Jeffree 1974 )。前者についても無視はしないが、委員会の第一の関心は子どもの認知の発達となるであろう。

 計画の内容は、子どもから子どもへと明らかに変化するが、ある一定の一般的な形態を備えている傾向はある。各計画が明確な目標を有していること―たとえば、コップ、スプーン、ボールという三つの物の名前を随意に適切に言えることなどである。いくつかの活動が各計画に含められていて、困難の度合いにほぼ応じているが、すべての計画は家庭での現在のありのままと親子関係に簡単にあてはまるようになっており、また両親がすぐ使えるように見て分かるおもちゃや小道具に基づいたものである。総じて遊びを通しての学習が強調されている。両親は「人為的」指導の場を創り出さなければならないことからくじけてしまうものなのである。(たとえばJeffree and McConkey,1974 bの指導計画参照)。

 指導計画が両親に説明され、職員が子どもにその計画を示しているのをよく見させられる。後に続くセッションで、両親は計画を用いている場面が観察される。そしてこのことにより私たちは両親の進歩を評価する機会を得ることになる。後に両親は彼ら自身の教育目標を系統だてて説明し、自分自身の計画を作ることを促される。

 私たちが両親とその子どもに個別に会うために訪問するのと並行して、2週間のグループのセッションも行っている。それは両親ともに出席してもらい、子どもは来ないように夜行われた。各グループが5~6組の親から成り、彼らに以下のような基本的な指導の「技能」を与える。それは注意深い観察と記録の必要性、分析作業、正確な指導目標の公式化、強化の用い方、モデリングや刺激などの指導技術などである。これを行うために私たちはビデオを見せたり、グループ討論をさせたり、指導法に多様性を持たせた。両親も個別のセッションの間に子どもへのこの「理論」の応用に役立っている。私たちと20人ぐらいの親との非常に集中的な共同の仕事から、非常に広い層の両親に終局的に役立つ情報を得ることができるだろうという確信を持っている。

Let Me Speakの計画

 両親と私たちとの集中的な作業に加え、私たちは委員会に参加したいと要望している大マンチェスターの両親のうち残った人々を含め、より大きなグループとも接触を続けていかなければならない。言語は両親の主要関心事の一つなので、私たちは「Let Me Speak(わたしに話させて)」(Jeffree and McConkey,1975)という本を用意した。それは実験的な意味で両親に役立てるものである。つまり両親が子どもの言語発達に援助するのに使うことのできるゲームと活動を説明しているものである。第一部では言語の基礎を論じている。内容は発声の促進、聴能、模倣などである。第二部では語いの学習や文の構成を含む言語技能に焦点を当てている。第三部は毎日の活動において、また他との伝達の手段である言語の使用を扱い、第四部で言語と思考を扱っている。

 1975年に、私たちはこの本の評価意見を作ろうとした。最終的な説を公表するのに先立って、その改善のために親や専門家の批評と提案を求めるつもりである。将来は遊びやその取り扱いのような他の話題の本を作り、評価していきたい。

 委員会の解散に向かって、私たちはさらに大多数の両親グループとの接触の確立を考えている。このことは次の一連の方法でなされよう。

 (a)両親のワークショップコースのグループ化を図り、個別に対応する代わりに、5~10人の人々の小グループで会合すること。

 (b)子どもが通学している、また通学することになる地方の学校や機関との協力。私たちの役割は教師に直接親を指導させるというより親とともに仕事をするように教師を訓練することである。

 (C)幼児に用いるための特殊な指導計画、あるいはより一般的な指導技術を説明するフィルム作製、ビデオテープの録画どりをする。

 (d)教具の作製(おもちゃや絵本)。私たちが指導計画上価値があるとわかったものと、Let Me Speakのような印刷物で補えるものである。

 委員会から得られるものとして私たちが考えていることは、親を含めた計画を開始し、それを継続していく専門家に役立つ資料である。現在そのような資料は不足している。もちろん一つの委員会のそういう要望に十分にこたえることは決してできない。しかし、私たちは他の人々が仕事をする基礎を提供したいと思っている。親を含めるという計画は、両親と専門家が連携して活動するよういっしょに学ぶ部門であり続けようし、そうでなければならない。私たちは私たちの計画がそういう連携を発展させることができるようにしたいと思っている。

(Special Education,Sep.1975から)

参考文献 略

*山形大学教育学部講師


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1976年7月(第22号)29頁~32頁

menu